第176話 憎悪の囁き
「レイヴェル、レイヴェルッッ!!」
頭が目の前の状況を理解できない。いや違う。理解したくない。
レイヴェルが倒れてる。荒い息を吐きながら。
『うふふ、苦しんでるわねぇ。でも思ったより耐えるのね』
「へぇ不思議だなぁ。もうとっくに死んでてもおかしくないのに。やっぱり魔剣使いって丈夫なんだね」
「あなた達は……」
思わずカッとなる。でも違う。今はそれどころじゃない。
このままじゃレイヴェルは殺される。そんなことさせない!
ゆっくり近づいてくるクルトとネヴァンの目を誤魔化すために、レイヴェルからもらってた魔力を使って地面に破壊の力を流し込む。
「おっと、目くらまし?」
『いいじゃない。あくまで抗おうっていうのね』
クルトとネヴァンの視界を砂塵で眩ます。
その間にレイヴェルのことを背負ってできるだけ距離を取る。
正直この状態のレイヴェルをあんまり動かしすぎるのも気が引けるけど、あのままあそこにいるよりはマシなはずだ。
「がはぁっ!!」
「っ!?」
血反吐を吐くレイヴェル。
前にいたオレにその血がかかって服が赤く染まる。その血が、まだ温かいその血が、何よりも如実に目の前の光景が現実なんだとオレに叩きつける。
オレは慌ててレイヴェルを近くに木にもたれかからせる。
明らかにまずい状態だ。仕方ないとはいえ無理に動かしたせいで毒の回りが早まったのかもしれない。こうなった原因は間違いなく……オレのせいだ。
オレが……オレのせいで……。
魔剣の脅威についてはわかってると思ってた。オレが、オレ自身が魔剣だから。でも違う。オレは何もわかってなかった。魔剣という武具が、どれほど常識外れなのかを。
ネヴァン……毒の魔剣。その毒がどれほどの脅威かを。
わかってるつもりなってただけだった。完全に油断してた。オレなら大丈夫だって。完全に慢心してたんだ。たった一回魔剣使いと戦っただけなのに。
「ぐ……ぅ……クロ……エ……」
「っ! レイヴェル!?」
一瞬意識が戻ったのかと思ったけど、そうじゃなかった。ただ毒による熱に浮かされて、うわごとみたいにオレの名前を呼んだだけ。
「…………」
ごめんレイヴェル。オレが情けないせいで。オレのせいでこんなことになって。
でも、絶対に助けるから。レイヴェルのことだけは絶対に。
毒の影響なのかなんなのか、レイヴェルと上手くパスが繋がらない。この状況じゃまた繋げるかどうかもわからない。
幸いというべきか、レイヴェルから貰ってた魔力はまだ残ってる。ある程度は戦えるはずだ。
戦う……いや、うん、迷ってる暇はない。戦うしかない。レイヴェルの力がなくても。
レイヴェルの中にある毒がネヴァンの力によるものなら、ネヴァンを倒せば毒も消えるはずだ。
レイヴェルのことは助けてみせる。たとえ何を犠牲にしたとしても、絶対に。
「行って来るねレイヴェル。すぐに戻るから」
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そこは暗闇だった。
何もない。真っ暗な空間。その中心にレイヴェルは一人立っていた。
「ここは……どこだ?」
周囲を見回しても何も見えない。誰の気配も感じない。
「そうだ、オレはクロエと一緒に魔剣使いと戦ってて、それで……っ!?」
直前の出来事を思い出した瞬間、体が燃え盛るように熱くなる。
「あぁああああああああっっ!! がぁああああああああっっ!!」
喉から絶叫が迸る。暑さだけじゃない。気が狂いそうなほどの痛みがレイヴェルのことを襲う。今までに感じたことのないほどの痛みが。
意識を失えればどれほど楽だっただろうか。しかし、不思議なほどに意識は鮮明でレイヴェルに気を失うことを許さなかった。
「ぁあああああああああああっっ!!! もう止めてくれぇえええええええっっ!!」
のたうち回るレイヴェル。泣いて喚いても、怒りに任せて叫んでも、熱も痛みも引くことはなかった。
終わりの見えない地獄の中で、少しずつレイヴェルの心は壊されようとしていた。
「なんで俺が……こんな目に……」
止まることのない地獄はやがて果てしない憎悪へと変化していく。
その時だった。
コロセ……コロセ……魔剣ヲ……滅ボセ……
「ま……けん……」
脳裏を過る誰かの顔。大切な誰かの。
しかしそれすらも黒く塗りつぶされて、憎悪に引きずられていく。
黒い感情はやがて人の姿へと変貌し、ゆっくりレイヴェルに近づいてくる。
男か女か、子供か大人かも判然としない声で囁く。
壊セ……潰セ……魔剣ヲ……一ツ残ラズ……アイツラヲ……根絶ヤシニシロ……
その声はゆっくりとレイヴェルの脳を侵していく。
我ラノ手ヲ取レ……選バレシ子ヨ……ソウスレバ……苦シミカラ解放シテヤロウ……
「俺は……俺……は……」
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