第51話 ラミィの想い

 ラミィが案内してくれた部屋は、結構広めの部屋だった。木材でできた家具がいっぱい置いてあって、まさに自然の家って感じだ。

 たぶん、この家を作る時に切った木をそのまま家具に使ったんだと思う。だからこんなに部屋に馴染んでいるんだと思う。

 なんか落ち着くなー、こういう場所。


「とりあえずこの部屋は自由に使って良いよ。何か欲しい物があったら言って、用意するから。でも、出歩く時は私に言ってね。じゃないと何があるかわからないから」

「わかった。ありがとラミィ」

「ううん。来てもらったんだしこれくらい当たり前。それに申し訳ないくらい。前の里なら自由に出歩いてもらっても良かったのに」

「あの里は他種族にも優しい人が多かったもんね。私も色々良くしてもらったし」

「それに比べてこの里の連中と来たら……はぁ、いつまでも古い考えに拘って。子供達にまで変な考えを押し付けようとしてるんだから」

「ラミィとリューエルさんはなんとかしようとしてるの?」

「もちろん。これからは他種族とも手を取り合わないと生きていけない時代だもの。竜人族だけでできることなんて限りがある。今回みたいなこともあるしね」

「そうだね。エルフ族も大概だと思うけど」

「あの引きこもり種族……って、まぁ私達も人のこと言えないけど」


 ラミィの考えは至極真っ当なように聞こえるし、事実真っ当な考えだ。

 自分の種族だけで自給自足する。それは言うのは簡単だけどすごく難しい。だから種族間を超えて手を取り合い、協力して生きていくんだ。

 今オレがいるセイレン王国は、多種族との共存を謳ってそれを目指している国だ。

 でも多種族との共存もまた言うのは簡単だけどすごく難しい。なにせ種族間で常識が違うから、

 それをすり合わせるのは並大抵のことじゃない。完璧じゃないとはいえ、それができてるセイレン王国は珍しい国なんだと思う。


「そういえば、レイヴェルの部屋はどこになるの?」

「あいつの部屋は一応クロエの向かいにするつもりだけど……それがどうかした?」

「あ、ううん。ちょっと気になっただけ」


 そっか。向かいの部屋か。

 ふぅ、良かった。てっきりレイヴェルの部屋は物置にするとか言い出すかと思ってたから。

 さすがにラミィもそこまで酷いことは——。


「あいつの部屋なんて物置でいいかと思ったけど、そんなことしたらママに怒られそうだし。ん? どうしたのクロエ」

「な、なんでもないよ……」

「……ねぇクロエ」

「なに?」

「どうしてあいつだったの?」


 はぁ、やっぱりその話を振ってくるか。さっきから何か言いたそうにはしてたから聞いてくるかもとは思ってたけど。


「どうして……か。どうしてなんだろうね。私にもわかんないや」


 ここで誤魔化したってしょうがない。だから、オレは思ったことを。真実だけを言うことにした。

 変な理由つけて誤魔化してもきっとラミィは納得しないだろうから。

 まぁ、今回も納得してくれるかどうかはわからないけど。


「わからないって、どういうことよ。クロエがあいつを選んだんでしょ?」

「選んだなんて上から目線じゃないけどね。ただこの人だって思ったから。本当に偶然だったんだよ、レイヴェルと会ったのは。市場に買い物に行って、そこで初めてレイヴェルと会った」


 振り返ってみれば、まだ出会ってから一ヶ月も経ってない。なのにまるでずっと昔から一緒にいたみたいに、レイヴェルの傍にいると落ち着く。

 まぁ恥ずかしいから本人には絶対言わないけど。


「市場で出会った次の日に、レイヴェルが私の働いてた定食屋にご飯を食べに来てくれた。そこから私とレイヴェルの関係は始まった。本当に偶然の積み重ねだよ。もし何か一つでも違ったら私とレイヴェルは出会ってなかっただろうしね」

「なんか惚気られてるみたいでムカつく……とりあえず、二人が出会った経緯はわかったけど、そこからなんで契約者にって話になるわけ?」

「うーん、その理由付けなんていくらでもできるんだろうけど。前に先輩が言ってたんだけど、魔剣が担い手を選ぶのは完全にフィーリングなんだって」


 本当はフィーリングじゃなくて一目惚れって言ってたんだけど……それ言うと拗れそうだし。別に一目惚れじゃないし。一目惚れもフィーリングも似たようなもんだから嘘は言って無い。


「先輩って、ミーファさんのこと?」

「そうだよ。というか、先輩なんて呼べる魔剣の知り合いなんてミーファさんくらいしかいないもん。色々教えてくれたのもあの人だし」

「そりゃそっか。そういえば、今は一緒じゃないんだね」

「うん。ちょっと色々あってさ。今頃はまたどっかの国でも救ってるんじゃないかな?」

「かもね。ミーファさんもレイジさんも、なんだかんだお人好しだし」

「本人たちは絶対否定するだろうけどね」


 あの二人はそういう人だ。だからこそオレみたいな奴のことも助けてくれたんだろうし。


「でもそっか……フィーリングか。じゃあ最初に出会った時に選ばれなかった時点で、私に可能性は無かったってことね」

「…………」


 そんなことないよ、とかごめん、とか言い訳はいくらでもできるのかもしれない。でもそれはあまりにもラミィに対して不誠実だ。

 オレはラミィがオレと契約したいって言ってたのを知ってたんだから。

 だからオレはラミィに何を言われても受け入れるしかない。それこそ、嫌われたとしても。


「……そんな顔してないでよクロエ。私がクロエのこと嫌いになるとでも思った?」

「それは……」

「そんなことあるはずないでしょ。クロエは私の一番の友達なんだから。あいつのことはムカつくし嫌いだけど、だからってクロエのことまで嫌いになったりするなんてことあるはずない」


 そっと近づいてきたラミィがオレのことを抱きしめてきた。身長差のせいでラミィの胸が顔に押し付けられてちょっと苦しい。


「それに、クロエの言い分はわかったけど私は諦めたりしないから。フィーリングであいつを選んだなら、もっと魅力的になって私に振り向かせてみせる。うん、あらためてそう決めた」


 ラミィの腕にギュッと力がこもる。

 本気なんだろな、やっぱり。なんでそこまでオレに固執するのかはわからないけど。

 うん、でも素直に嬉しくはある。


「ところでラミィ」

「なに?」

「あの、そろそろ本当に苦しいんだけど。い、息が……」

「ふふっ、ダーメ。クロエには罰としてしばらくこのままでいてもらいます」

「えぇ!? むぐっ」

「うへへ……やっぱりいい匂い。あの邪魔者がいないうちにクロエの匂いをたっぷり堪能しておかないと」

「ちょ、ラミィ!? どこ触って……っっ!」


 それからレイヴェルが部屋に来るまでの間、オレはラミィに色んなところをまさぐられた。

 この時の詳細は……思い出したら死にたくなるほど恥ずかしいから誰にも言わない。

 

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