第9話 服、どうしよう……
二日後。レイヴェルと一緒に祭りに行くと約束した日。
オレは朝からずっと部屋でうんうんと唸っていた。
「これでもないし、あれでもない。あぁもうどれ着て行けばいいんだよ!」
部屋の中にはすでに服が散乱してる。
でも片付ける時間もないし。さっさと着ていく服決めないと約束の時間に遅れるし。
あぁもう!!
「服なんてなんでもいいと思ってたのになぁ。なんでこんなに悩んでんだよー」
最初はいつも通り適当な服を着ていこうと思ってた。
でもいざ出かけようとしたらなんか自分の服が気になって。
あぁ、こんなことならもっと出かけて服とか買っとけばよかった。
今持ってるのってほとんど旅してる間に買った奴だし。
「いや、今そんなことで悩んでても仕方ない。ホントにもう決めないと。あ、そういえば先輩がいつか使えるかもしれないから持っとけって言ってた服があったっけ。確か奥の方に……」
結局開けずに見てないままなんだけど……あぁ。あったあった。これだ。中身は……。
「ぶっ!?」
思わず吹き出してしまった。
いや、だってこれ……童貞を殺すセーターじゃねーか!!
ざっくりと背中が開いていて、胸の部分にも穴が開いてる服。こんな服を着てる人がいたら注目集めること間違いなしだ。もちろん、悪い意味で。
「私は痴女か!!」
今はどこにいるかもわからない先輩に向けて怨嗟の声を飛ばす。
こ、こんな恥ずかしい服着れるわけないだろ! 普通に考えたらわかるのに、何考えてんだあの人。人じゃなくて魔剣だけどさ!
「こ、この服はダメだ。こんなの着てったら頭のおかしいやつだと思われる。先輩め、今度会ったら覚えてろ」
って、今はそれどころじゃない。
服服……元男としての感覚を研ぎ澄ませろ。彼女にデートでどんな服着て欲しかったかを考えて……じゃない! 彼女でもデートでもないから!!
馬鹿か、馬鹿なのかオレは!
もう仕方ない。いつもの服で行こう。変に着飾ってもオレだけ意識してるみたいで嫌だし。
「って、あぁ! もうお昼じゃん!」
余裕もって出かけるはずだったのに。
結局オレは時間ギリギリになって出かける羽目になったのだった。
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昨日から始まった祭りはセイレン王国の建国祭だ。
建国祭なのになんで二年に一度しかやらないのかは知らないんだけどさ。
この建国祭は五日間にわたって行われる大きな祭り……って感じらしい。
正直どんな規模の祭りなのかは全然わかってなかったんだけど。
「すごいな、これ……」
舐めてた。祭りの感じを完全に舐めてた。
昨日はずっと店にいて働いてたから全然実感してなかったけど、こんなに人多いのかよ。
「人、人、人……どこまで行っても人ばっかり。これ、ちゃんとレイヴェルのこと見つけられるかな」
どこを見ても人ばっかりでこの中から目的の人物を探すなんてできるかな。
「とりあえず約束した噴水の広場までは来たけど……ここで待つしかないかなぁ」
レイヴェルを待つ間、ただ目の前を過ぎゆく人を見続ける。
家族とか、友達同士とかカップルっぽい人とか。色んな人がいる。
どんな関係なのかなんて、実際のところはわからない。もしかしたら友達関係のような主従関係かもしれない。カップルに見えてただの幼なじみとかかもしれない。
本当のところはオレにはわからない。ただ一つ確かに言えるのは。この人たちの中に魔剣はいない。
「ま、居たら居たでビックリだけどね。普通の魔剣はこんな所にいないし。もしいるってバレたら大騒ぎどころの話じゃないし」
普通の魔剣はもっと森の奥とか、迷宮とか、人の立ち入らないような場所にあるらしいからさ。まぁ国に管理されてる魔剣とかもあるらしいけど。
オレみたいに好き好んで人のいる場所に現れる魔剣なんていない。
「ま、同族が見つかったらそれはそれで面倒だからいいんだけどさ」
「何が面倒なんだ」
「ひゃわぁっ!」
背後から急に声を掛けられて変な声が出る。
慌てて後ろを見ると、そこに立ってのはレイヴェルだった。
その姿を見て内心ホッと息を吐く。
「レ、レイヴェル……」
「あぁ。それ以外の誰かに見えるか?」
「ううん。その目つきの悪さはレイヴェル以外いないもん」
「目つきが悪いは余計だ」
「あはは、ごめんごめん。冗談だから。半分くらいは」
「半分は本気なのかよ!」
「それにしてもレイヴェルよくわかったね。私のいる場所」
「まぁそりゃな。お前目立ってるし」
「目立ってる? どこが。そんな変な服着てるつもりないんだけど」
「いや服とかじゃなくて……まぁいいか。言ってもわかんないだろうからな」
なんだよその物言いたげな感じ。オレだってちゃんと言われればわかるんだからな。
「服じゃないなら……髪型? おかしいなー、ちゃんとセットしたはずなのに」
「だからそういうのじゃないって。お前が普通にしてたら気付かないってことは理解した」
「???」
「いいから行くぞ。ここにいたら目立つだけだからな」
「え、え?」
レイヴェルに手を引かれて噴水広場から連れ出される。
っていうか手!? 手を、繋がれてるんだけど!
「レ、レイヴェル!?」
「ん、どうし……って、あ。そういうことか。悪い。急に手を握ったりして」
「べ、別に謝ることじゃないんだけどね。その、急だったから驚いただけっていうか……」
やばい。めっちゃ心臓バクバクしてる。
まさか手を握られるなんて。こいつもしかして慣れてるのか、こういうの。
女とデートみたいな……ムムム? それはちょっとこう……想像したら腹が立つぞ。
「なんでしかめっ面してんだ?」
「別に。なんでもない」
「? ならいいけどよ。それで、今日はどうするんだ」
「どうするって、そうだなぁ。とりあえずは普通にお祭りを見て回りたいかも。どんな屋台があるとか、そういうの見たいかも」
どんな屋台があるのかは普通に楽しみにしてる。
リンゴ飴とかバナナチョコとかあるのかな。祭りのイメージっていったらそういうお菓子だし。
どっかの国の祭りに行った時はあったよなー。リンゴ飴。この国にもあるかな。
「何より、こういう祭りは雰囲気を楽しまないとね。みんなが楽しく遊んでる雰囲気に浸る。それが祭りの醍醐味なんだから」
「そうだな。じゃあとりあえず楽しむってことで」
今日の本命はレイヴェルのオレの真実を告げることだけど……まだ今日は始まったばかりだし。
「……ん?」
なんだろ。今少し変な感じがしたんだけど。
気のせい……かな。
「どうしたんだ?」
「……ううん、なんでもない。行こ」
今の違和感は……まぁいっか。考えてもわかりそうにないし。
今はとにかく祭りを楽しまなきゃね。
そしてオレは、レイヴェルと一緒に祭りへと繰り出した。
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王都。地下道。
明かりもない道を、少年と少女が歩いていた。
「ふんふんふーん♪」
「ずいぶん楽しそうだなぁ」
「当たり前じゃん。これから起こることを考えたら……ふひっ、笑けてきちゃう♪ ディエドは違うの?」
「いーや。俺だって楽しみにしてるぜぇ。この上で、今もまさに呑気に笑ってる奴らを阿鼻叫喚の地獄に叩き落とせると思ったらなぁ」
「だよねだよね! ダーちゃんもすっごく楽しみ! でもさでもさ、ホントにあるの。この王都に魔剣が」
「そういう情報だ。あぶり出してやろうぜぇ。クハハハハハッ」
「もう契約者のいる魔剣なのかなぁ。そうじゃないのかなぁ。どっちでもいいけど、強かったら嬉しいなぁ」
「まぁそう焦んなって。すぐにわかるんだからよ」
「ふひ、ふひひっそうだよねぇ。頑張ってねぇ、魔物ちゃん達」
怪し気に笑う二人の前には、檻の中に閉じ込められた魔物達の姿があった。
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