第10話 祭りは雰囲気を楽しむもの
祭りとは雰囲気も含めて楽しまなければいけないものなのだ。
祭りを楽しむ人々の雰囲気も相まって初めて祭りは完成する。
つまり、オレが何を言いたいのかと言えば。
「楽しむぞーーーっっ!」
「元気だなぁおい」
「ダメだよレイヴェル、お祭りはちゃんと楽しまないと。雰囲気に合わせてさ」
「そうなんだけどな。でも祭りってこう……売ってるもんの値段高くないか?」
「レイヴェル。それは言わないお約束」
高い。確かに高い。でもそれも含めて祭り。
こんな時くらいいいじゃんの精神だ。ま、それでも財布の紐が緩みすぎないように気をつけなきゃだけど。
「レイヴェルはもうお昼食べたの?」
「いーや。まだだよ。最近はずっとお前のとこで食べてたしな」
「そっか。私もまだなんだけど。何か食べる?」
屋台は大量に出てるから選択肢はいくらでもある。
美味しそうな匂いがあたりに充満してて……正直お腹がかなり空いてる。
ここでお腹を鳴らすようなことはしないけどさ。
「悩むなぁ。色んなもん売ってるし。マンドラゴラの串焼きとか……マンドラゴラって食えるのか」
「一定以上の温度で熱したら毒が無くなるらしいよ」
「そうなのか。知らなかった」
「私はサイジさんが一回作ってくれたから食べたことあるけど……普通のキノコだったよ」
「普通のキノコなのか」
マンドラゴラとか大層な名前してるから期待したのに、普通のキノコすぎて逆に引いたの覚えてる。
特別な効果みたいなのもないらしいし。
「じゃあ別に食べなくてもいいか」
「他のにしよ。あ! あっちに焼きそばとかあるよ」
「焼きそばか。よし、とりあえず色んなもん食うか」
「うん、そうだね」
それからオレとレイヴェルはしばらくの間屋台を回り続けた。
せっかくだから色んなものを食べたいってことで、レイヴェルと一つのものを分け合ったりしながらお腹を満たしつつ祭りを楽しんだ。
普通に考えたらいつも食べてるサイジさんの料理の方が美味しいんだろうけど、この雰囲気が料理を普通以上に美味しくする。
ほら、祭りとかで食べる焼きそばってその場で食べると美味しいけど家に持って帰るとぼそぼそして美味しくないじゃん。そんな感じ。
それに、こういう大きな祭りに参加する機会なんて滅多になかったから。
自分でもわかるくらいに気持ちが浮かれてる。
「ずいぶん楽しそうだな」
「うん、すっごく楽しいよ。レイヴェルのおかげかな」
「別になんもしてないぞ?」
「誰かが一緒だっていうのが大事なんだよ。レイヴェルは楽しくない?」
「いや、なんだかんだ俺も楽しんでる。確かにクロエの言う通りかもな。俺一人で回ってたらここまで楽しめてたどうかは怪しいからな」
「ふふ、でしょ。さぁまだ時間はいっぱいあるんだから。いっぱい遊ぼレイヴェル」
さて、お腹もいっぱいになったし。次は何をしようかな……って、ん? なんだあの張り紙。
「モンスターフェスティバル?」
「あぁそれか。闘技場で行われる催しだろ」
「へぇ、モンスターって魔物だよね。闘技場で何が行われるの?」
「調教師による生調教だそうだ。そのために最近冒険者に魔物を捕まえてくれ、なんて依頼も出てたみたいだな」
「そうだったんだ。でも魔物って調教できるの?」
「あいつらも基本的には本能で動く。だから相手を上だと思えば言うこと聞くようになるよ。ま、普通の動物よりは難しいけどな」
「そうなんだ。そういえば見たことあるかも。魔物連れてる人。あの時は深く気にしなかったけどそういうことなんだ」
「結構な人気行事みたいだぞ。普段は見れない魔物を間近で見れるからって。俺からしたらわざわざ魔物を見たがるなんて物好きにしか思えないけどな」
「そうだね。私も見たいとは思わないかな。ちょっと怖いし」
行事で安全性が確保されてるって言っても、魔物が近くにいるのはさすがに怖い。怖いもの見たさっていうのはなんとなくわかるけど。
「レイヴェルも何か捕まえたりしたの?」
「いや、俺はそのたぐいの依頼は受けてない。捕まえるとかそういうことになると一人じゃ厳しいし。だいたいその手の依頼はチーム組んでる奴が受けてたよ」
「そっか。そういえばレイヴェルはチームは組んでないんだね」
レイヴェルが誰かと一緒にお店に来たこととかないし。チームは組んでないんだと思う。
「レイヴェル……組んでくれる人いないんだね」
「うっせ!」
「ごめんごめん。そんなに怒らないでよ。でもチームを組んでくれる人はいた方がいいでしょ? 普通はチーム組んで行動するものなんじゃないの?」
昔聞いたことのある。冒険者は基本的に二人から四人のチームを作って行動するものだって。そうすることで、何か急な問題が起きた時に一人が逃げてその緊急事態を伝えることができるから。
一人だとそれはできない。もし何が起きても全て一人で対応するしかないのだ。
特にレイヴェルみたいな新米冒険者こそチーム組む重要性が高いらしいんだけど……。
「まぁクロエが何を考えてるかはだいたいわかるけど。俺にも色々あるってことだ」
「ふぅん。私がチーム組んであげようか?」
「お前が? はっ、ふざけるのも大概にしろって話だ」
「む、馬鹿にしてない? 私のこと」
「してる」
「ひどい?!」
くぅ。オレだって少しくらい戦うことは……まぁできないんだけど。
何十年も旅してて護身術もろくに覚えなかったし。
正直言えばオレの戦闘能力は一般人に毛が生えた程度だ。さすがに魔剣だから普通の人と戦っても負けないと思うけど、レイヴェルみたいな冒険者。戦う技能を持った人には絶対勝てない。
でもそれもあくまで契約者がいなければの話だ。契約者がいたらオレの使える力の範囲は大きく広がる。
だから契約できる人を見つけたいわけなんだけど……。
チラッと横目でレイヴェルのことを見る。
祭りを回ってる間に色んな人を見たし、すれ違ったけど。結局あの胸の高鳴りを感じたのはレイヴェルだけだった。
正直こうして隣にいる今も結構ドキドキして……るって認めるとなんだか癪だから認めないけど!
結局現状の契約者候補はレイヴェルだけだ。
だからレイヴェルが王都から離れる前に伝えないとって感じなんだけど……うぅ、さすがに緊張する。
もし拒絶されたりしたらどうしようって思ってるオレがいる。
そんなことないって思いたいけど、でも実際問題一定数が存在するんだ。魔剣の存在を認めない人が。
それは往々にして魔剣使いに酷い目に合わされた人だったりするんだけど。
レイヴェルがそうじゃないって確証はない。
でもそれでも言わなきゃダメなんだ。
ここを逃したらきっともう出会えないから。
「なに考え事してるんだ?」
「え、ううん。なんでもないよ。気にしないで。それよりもさ、あっちの方でさっき面白そうなお店を見つけて——」
その瞬間だった。
「ウルォオオオオオオオオオオッッッ!!!」
魔物の叫び声が突如としてその場に響き渡ったのは。
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