第156話 本当の依頼主
「コイル、コンズ。周囲の様子はどうだ」
「……問題ありません」
「大丈夫そうですぜ、坊ちゃん」
「よし、それじゃあ始めるとしよう」
クロエやライア達が精霊の森へと向かっているなか、コルヴァ達は精霊の森へと向かいながらとある準備を進めていた。
「……あの女の結界、かなり厄介だな。くそ、まさか僕の力を持ってしても解除できないなんて」
「リオ・フィールでしたか。ライア・レリッカーは言わずもがな、ラオ・フィールも含め人族の娘にしてはかなりの使い手のようですが」
「ふん、とはいえ所詮は人族の娘だ。この僕の力を持ってすればどうとでもできる……はずだ」
若干自信なさげながら、コルヴァは結界の貼られた『月天宝』を睨みつけていた。
その目的はもちろん『月天宝』に貼られた結界をバレないように解除するためだ。
「しかし坊ちゃん。その『月天宝』の結界を解除してどうするんで? それが本物かどうかもわからないんでしょう?」
「はぁ、コンズ。お前は本当に馬鹿だな」
「?」
「確かにこれが本物かどうかはわからない。でもそれは向こうにとっても同じことだ」
「まさか……騙すんですかい?」
「本当なら昨日の段階で盗み出してしまいたかったけどね。まさか見張りをすることになるなんて。さすがにあの状況じゃいくら僕でも盗み出すのは難しいからね」
「なるほど。この『月天宝』は本物と見分けがつかないほどに精巧にできている。此度の依頼主がそれに気づくことはないというわけですか」
「もちろんいつかは気付くだろうが、すぐには難しいはず。そのための術も用意してあるしな」
「へへっ、さすが坊ちゃんだ。あくどいことを考える」
「褒めているのかそれは」
「もちろんでさぁ」
「今回の依頼だけは必ず遂行しなければいけないんだ。僕達狐族が再興し、この獣人国の王となるためにも。この国の王に相応しいのはあの愚王ではない。僕達狐族なんだ」
カムイは目の前の『月天宝』を睨みつけながら、ギリッと歯を食いしばる。
その胸中に渦巻くのは、過去の記憶。そして受けてきた様々な屈辱だ。だからこそコルヴァは決めたのだ。たとえどんな手段を使ってもカムイの王の座から引きずり落とし、王となるのだと。
しかしカムイの保有してる戦力は並大抵のものではない。そんな時に声をかけてきたのが今回の組織、カムイ達の本当の依頼主だった。
何を目的としている組織なのかはコルヴァ達も知らない。あまりに謎めいた組織だったが、それでもコルヴァ達が依頼を受けたのは提示された報酬があまりにも魅力的だったからだ。
「今回の報酬として提示された『魔剣』。なんとしても手に入れてみせる」
それが今回提示された報酬だった。魔剣を報酬として出すことなどあり得ない。普通なら与太話として相手にもしなかっただろう。しかしそうしなかったのは、相手の組織に魔剣使いが複数人いたこと。そして報酬として提示された魔剣少女本人から契約してもいいと言われたことが大きい。
「もし虚偽がバレたとしても、魔剣を受け取った後なら構わない。僕ほどの実力者が魔剣を手にすれば名実ともに最強だろうからな」
コルヴァは魔剣を手にすることができれば、自分が世界で最強になれると心の底から信じていた。たとえ他の魔剣使いを相手にしたとしても絶対に負けないと。
もしこの場にクロエやダーヴがいたらそんなコルヴァの言葉は妄言と切り捨てただろう。しかし、コルヴァは魔剣少女というものを知らない。コルヴァは魔剣少女という存在に対してあまりにも無知だった。
そんなことには全く気付いていないコルヴァは、ひたすらリオの貼った結界を解除しようと試みる。しかし、どう足掻いても気付かれずに解除できない結界にコルヴァの苛立ちは頂点に達しようとしていた。
「あぁくそ、この結界の術式さえ解読できれば解除できるのに」
コルヴァが想像していたよりもずっと結界の構造は複雑で、そのせいでコルヴァは結界の解除に手間取っていた。もし強引に術式の解読をしようとしたり、壊すような真似をすればリオに伝わり、面倒なことになるのはわかりきっていた。
だからこそ慎重に行動していたのだが、これ以上時間をかけるのはあまり望ましくはなかった。
「約束の時間までもう少し。こうなったら多少強引にでも——」
「コルヴァ様」
「坊ちゃん、誰か来やしたぜ」
「なに?」
コルヴァは深く集中していて気付かなかったが、確かに誰かが近づいてきていた。
コイルとコンズは警戒するようにコルヴァの前に立つ。
しかし、茂みから出てきた人物を見たコルヴァはフッと表情を緩める。
「なんだ、お前だったか。予定よりもずいぶん早いじゃないか——ノイン」
茂みから現れたのはフードを目深に被った人物——今回コルヴァにとって本当の依頼主であるノインだった。
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