第132話 鳥肌も過ぎると鳥になる

「うーん、やっぱり座りっぱなしだと疲れるねぇ」


 馬車から降りたオレは思いっきり背伸びをする。これ、なんか毎回やってる気がする。慣れなんだろうけどなぁ。

 いつか慣れるのか? ファーラ達は平気な顔してるしなぁ。まぁ焦って慣れるようなもんでもないか。とりあえずはそのうちってことで。

 最悪剣になってやり過ごせばいいし……って、あれか。そのせいで中々慣れれないのか?

 ホントにしんどい時以外は変身するの控えた方がいいかもなぁ。あれ結構楽なんだけど。いつでも使える手段ってわけじゃないしな。


「悪いクロエ、ずっと俺のこと膝枕してたせいだろ。おかげでほとんど動けなかったみたいだしな」

「ううん、気にしないで。私がやりたくてやってたことだし」

「だったらなおさら申しわけないっていうかなぁ。はぁまさか二日目の朝から体調崩すなんてな。ファーラさん達もすみません」

「気にすることないよ。なんか事情があったみたいだしね。今はもう平気なんだね?」

「はい。もう大丈夫です。さっきまであった違和感も今はもうないですし」

「ははっ、相棒の膝枕ですっかり元気になったってわけかい」

「ファーラッ!」

「はいはい、まったく、すぐに怒るんだから」


 オレが怒っても大して気にした風でもなく、ファーラは肩を竦めるだけだった。

 昔はもっと可愛げがあったのに。成長するのも善し悪しだなこれは。

 だが、そんなオレ達の会話に割り込んでくる奴らがいた。


「ははは、元気だねぇ君達」

「あなたは……えぇと、コンボさん? だっけ?」

「コルヴァだ! 初日に自己紹介しただろう」

「あ、そうだったそうだった。ごめんなさい、うっかりしちゃって」


 そうだった。コルヴァだったな。狐族って「コ」から始まる名前ばっかでいまいち覚えにくいんだよなぁ。でもだからって名前間違えるのは失礼か。コルヴァ、コルヴァと。ちゃんと覚えとこう。

 ってあれ? おかしくないか?


「なんでコルヴァさんがこの村にいるの? 確か、全体で共有したルートだとこのタイミングではコルヴァさん達はこの近くの別の村に行く予定だったよね」

「あぁ確かにそうなんだが……少々面倒なことがあってね。急遽この村の方へと進路を変更したんだ」

「面倒なこと?」

「まぁそれは後で話そう。それよりも、こうしてここで会えたのも何かの縁だとは思わないかい?」

「え? えっと……」

「いやまさに運命というものさ。どうだい、一緒に昼食をとるというのは。もちろん費用は僕が持とう」


 こ、こいつこんなキャラだったか? カムイと喋ってた時はもっと丁寧な感じが……ってそりゃそうか。王様の前で素を出したりしないか。

 ってことはつまりこれがこいつの素ってわけか。

 かなり苦手なタイプだ!!

 こういうチャラチャラした感じの奴にいい思い出がない。

 王都に居た頃もイキったチャラ男に何度もナンパされて……まぁそう言う時はアルト君がどこからともなく現れて助けてくれたりしてたんだけど。


「うんうん、初日に見た頃から君に興味があったんだ。他国から来た冒険者なんだろう? もう一組の彼女達もかなり魅力的だったけど、僕的には君が一番かな」

「あ、あはは……」


 キラン☆と白い歯を輝かせながらオレの手を握るコルヴァ。

 こっちが苦笑いしてんのわかってねぇのかこいつ。ぶち殺すぞ。破壊すんぞこのやろ——ってダメだダメだ。こういう物騒な考えは捨てるようにしないと。

 でも勝手に手を握られるのはさすがに……さっきから鳥肌がヤバイことになってるっていうか。仕方ない、最初はさりげなく注意してみるか。


「あ、あの、その、手を離して——」

「あぁそれにしても本当に綺麗な手だ。こんなに綺麗な手をしてるのに冒険者をしているだなんてとても信じられないな」

「ひぃぅっ!?」


 全身を怖気が走り抜ける。鳥肌を通りすぎて鳥になったんじゃないかってレベル。

 あ、これダメなやつだ。

 耐えれない。

「『破——」

「おい、ちょっと待て」


 オレが破壊の力でコルヴァの腕を消し飛ばそうとした直前だった。

 レイヴェルがオレとコルヴァの間に割って入って、コルヴァの手を引きはがしてくれた。


「なんだい君は。今僕が彼女と話してるんだけど」

「そりゃ悪かったな。だが、あんまり知りもしない女の手をいきなり握るってのは無粋なんじゃねぇのか?」

「君、彼女の何なんだい?」

「俺も冒険者だよ。こいつの相棒だ」

「相棒? 君が? ふーん、大した実力があるようには見えないけど」

「ま、それは別に否定しないけどな。でも、それは今関係ねぇ話だろ。これ以上クロエの嫌がるようなことしようってなら、こっちにもそれなりの考えってもんがあるぞ」

「……へぇ、たかが人族如きがこの僕に逆らおうだなんていい度胸じゃ——」

「坊ちゃん」

「なんだコイル、今から僕はこの愚かな人族をわからせる必要があるんだ。邪魔をするな」

「実は——」

「なんだと。ちっ、仕方ないな。すぐに向かう。あいつ、余計なことを……ふん、命拾いしたな。だが次はないと思え。それではクロエさん、また後で」


 レイヴェルには悪態を、オレには笑顔でそう言ってコルヴァは去っていく。

 正直笑顔を向けられても全然嬉しくないんだけどさ。逆に腹が立つくらいなんだけど。

 今はなんとかなったけど、また後で会わなきゃいけないと思うと憂鬱な気もする。

 まぁ、その時のことはその時考えるか。

 それよりも……。


「あの、ありがとねレイヴェル」

「? 何がだよ」

「さっきの。私が嫌がってるの気付いてくれたでしょ?」

「あぁ、そのことか」

「男らしかったじゃないか。アタシがぶっ飛ばしてやろうかとも思ったんだけどね」

「別にそんな大したことしたわけじゃないですよ。クロエも別に感謝なんてしなくていいぞ」

「でも助かったのは事実だし」

「別に気にしなくていいってのに。単純に俺が嫌だったってっていうか、ムカついたってだけの話だからな」

「っ!」

「ほら、俺達も行くぞ」

「う、うん……」


 今の言葉は……さすがにちょっと反則だと思う。

 そっか。嫌だと思ってくれるんだな。


「ふふっ」

「なに笑ってるんだ?」

「別に、なんでもないよ」


 口ではそう言うけど、心に湧いた喜びの感情だけは誤魔化せそうになかった。

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