第133話 空気最悪の昼食

「魔物の群れに襲われた?」


 昼食時。結局一緒に食べることになったコルヴァ達からオレ達は移動中に何が起こったかについて聞かされていた。

 それは、大型魔獣の統率する魔物の群れだったらしい。前触れもなく起こった襲撃になんとか対処はできたものの、その際に受けた馬車への傷で進路の変更を余儀なくされ、本来の目的地よりも近かったこの村へとやって来ることになったらしい。

 

「なるほどねぇ。こっちの方ではそんな魔物の気配なんて微塵も感じなかったけど。ずいぶんな災難じゃないか。昨日に続いて襲われるなんて」

「えぇ、全くです。日頃の行いは良い方だと自負しているのですが、神の目というのはずいぶん節穴らしい」


 いや、それ逆じゃないか。むしろよく見てると思う。こういう言い方するとあれだけど、ほとんど話したことのないオレに対する態度があれじゃあなぁ。

 

「クロエさん、どうかしたかい? まさか僕に見惚れていたとか?」

「いやいや、違いますから。というかあり得ませんから」

「素直じゃない所も可愛いらしいね」

「っ……」


 し、静まれオレの右腕……この力はこんな奴のためにあるわけじゃないんだから。

 そんなオレの内心の葛藤など気にもしていないのか、コルヴァはさっきみたいにキランんと歯を輝かせながらオレに向けてウインクする。

 マジで破壊してやろうかコイツ。オレがどんだけ耐えてると思ってんだ。もう脳内で十回以上は破壊してる。

 無駄に顔の造形が整ってるのがまた腹立つんだよなぁ。


「そ、それはともかく。みなさんそんなに急に魔物の群れに襲われたのに怪我はされなかったんですね」

「えぇもちろん。たとえ大型魔獣が相手だろうと僕の敵じゃないからね。これでも剣と妖術の腕には自信があるんだ。里でも一番、父にも負けないくらいね」

「妖術……」


 確か、狐族が使う特殊な魔法のことだったか。魔力を使うっていうのは根本的に一緒らしいけど、効果が全然違うかったはずだ。

 詳しくは知らないけどさ。まぁコルヴァは狐族の族長の息子だって話だし、妖術を使えても全然不思議じゃないか。


「僕だけじゃなくコイルもコンズも狐族最強の戦士。僕達三人が揃えばどんな魔物だろうと相手にならないさ」

「す、すごい自信ですね」

「機会があれば僕の妖術、ぜひ見て欲しいな。目を奪うほどに幻想的な妖術をね。でもその時は心も一緒に奪ってしまうことになりそうだ。なんだったら今すぐにでも」

「結構です」

「ふむ、それは残念だ。気が変わったらいつでもお見せてあげよう。遠慮なく言ってくれ、僕と君の間柄なんだからね」


 どんな間柄だ、ただの仕事仲間だろうがと言ってやりたい。というかさっきからこっちが全力で拒絶してんのは目に見えてるのに、あいつの目本当にで節穴なんじゃないか。

 それとも気付いててわざとやってるのか? だとしたら相当性格が悪い。

 隣にレイヴェルが座ってなかったらとっくに手が出てたかもしれない。

 チラッと横目でレイヴェルのことを見て見たらオレと同じように呆れた目でコルヴァのことを見てた。

 うん、わかるぞその気持ち。


「……クロエさん、彼はあなたの冒険者としての相棒らしいけど本当にそれだけかい?」

「え?」


 な、なんだ急に。

 やたらと鋭い目でレイヴェルのことを睨んでるけど。

 まさかとは思うけど、オレが魔剣だってことに気づかれたか? いやでもそんな素振りなんて待ったく見せてないはずなんだけど。

 あくまで傍から見たオレとレイヴェルは冒険者のコンビ。そうとしか見えないはずだ。


「……なるほど。まぁそう言うだったら、今はそれで納得しておこうかな」

「えーと……」


 なんなんだこいつ。奥歯に物が挟まったみたいな言い方しやがって。

 でも、オレとレイヴェルについて何かしら疑われてるのは確かみたいだ。これで下手に力なんか使ったら余計に疑いを深くするかもしれない。

 一応気を付けとこう。


「もう一つ聞きたいことがあるんだけどいいかな?」

「まぁ、答えれることなら」

「僕の記憶が正しければ、君達にはもう一人仲間がいたはずなんだけど、彼女はどこに行ったのかな?」

「フェティのことですか? あの子だったら今は別行動をしてて」

「ほう。それはこの依頼と関係のあることで?」

「それは……」


 ある、とは言い切れない。というか絶対にない。今フェティはロゼからの頼まれ事でいないんだから。


「その反応だと違うみたいだね。王の依頼よりも優先すべき依頼、それはいったい何なのかな」

「それは私も知りませんし、万が一知っていたとしてもあなた達に教える理由がありません」


 というか教えるわけがない。フェティが動いてる理由の一つはオレからの依頼ってのもあるんだからな。


「冷たいね。まぁいいさ。ただ、怪しいなと思ってね」

「怪しい?」

「彼女がいないタイミングで僕達が魔物の群れに襲われたわけだからね」

「……仕向けたのがフェティだって言いたいんですか?」

「そこまでは言わないさ。ただ、その可能性もあるってことだよ」

「それはあまりにもこじつけだと思いますけど。昨日はフェティもいる時に私達も魔物の群れに襲われてますし」

「確かに、そいつはちょっと無理がありそうな話だね」

「疑うって言うなら。それなりの証拠を出して欲しいもんだけどな」


 非難の目を向けるオレ達を見て、コルヴァは軽く肩を竦める。

 でも対して気にした風じゃない。ほんとになんなんだこいつ。


「怖い怖い。まぁいいさ。今はね」


 含みのある言い方は変わらず。

 コルヴァはそれ以上話す気はないようで、少し冷めた昼食に手をつける。

 流れる空気は最悪に近い。そんな空気のまま、オレ達は昼食を食べることになるのだった。

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