第134話 襲撃

 昼食後、馬車の修理が終わるまで残るというコルヴァ達のよりも先に出発することになった。

 本当ならもうちょっと休憩してから動き始めるつもりだったけど、あの村にいたらずっとコルヴァがちょっかいかけてくるからな。

 こっちがあからさまに拒否してるのに全く気にせず話しかけてくるあの胆力だけは評価に値する。だからってうざいって評価は変わらないけどな。

 こっちが元男だからとかを抜きにしてもあんだけしつこいのは誰だって嫌だろ。積極的と迷惑をはき違えてる感じだ。

 まぁそんなわけで、予定よりも早く出発する運びとなったわけだ。

 

「ごめんねみんな、私のせいで」

「クロエが謝ることじゃないだろ。全部あのコルヴァとか言う奴のせいだ」


 そういうレイヴェルの口調には少しだけ棘がある。どうやらこの短時間の間にレイヴェルにとってもコルヴァは敵認識されたらしい。

 まぁそれはオレも似たようなもんだけど。


「ははっ、あの狐族のあの子もずいぶん嫌われたもんだねぇ」

「あれでは嫌われるのも無理ないだろうがな。俺ですら眉をひそめたくなったほどだ。何度口を挟もうと思ったことか」

「そういえばずっと黙ってたねぇ。内心ずいぶんイライラしてたのはアタシも同じだけど。あのタイプにヴァルガが何も言わないのは珍しいね。いつもなら真っ先に咎めるのに」

「……いくら気に喰わないといえど、同じ依頼をこなす者達だ。波風を立てすぎないようにしただけだ」

「私が困ってたのに見捨てたんだ……」

「っ!? ち、違うぞクロエ! それは違う。ただあの時点では俺が手を出すまでもなく対処できると判断しただけだ。もし度が過ぎるようならちゃんと咎めるつもりだった」

「ふーん、へー……」


 実際のところヴァルガに助けてもらわないといけないほど困ってたかっていうとそうじゃないし、いうほど責めてるつもりはなかったんだけど。思った以上に焦ってるなヴァルガ。なんだ、ずいぶん大人びたとか思ってたけどまだまだ可愛い所があるじゃないか。

 ちょっと安心だ。


「ははっ、クロエ、あんまりヴァルガをイジメちゃ可哀想だよ。こいつはこれでも昔からかなりクロエには懐いてたからね。その意味ではさっきも相当腹に据えかねてたはずだよ。もちろんアタシも同じだけどね」

「おいファーラ、あんまり余計なこと言うな」

「別に余計なことじゃないだろ。事実なんだからね」

「たとえ事実だとしても言っていいことと悪いことがあるだろうが」


 やいのやいのと言い合いを始める二人。あーだこーだと言い合う二人のおかげで馬車の中が一気に騒がしくなる。

 そっかそっか。二人ともなんだかんだオレのことが好きなんだな。いやぁ、困っちゃうななぁ。


「よかったなクロエ」

「うん♪ まぁ二人の私への想いがわかったのは良かったんだけど、結局なんであの人あんなに私にちょっかいかけてきたんだろ」

「単純に……一目惚れとか?」

「えぇ一目惚れぇ? まぁ確かに私は一目惚れされるくらい可愛いかもしれないけどさぁ」

「自分で言うな自分で」

「はは、冗談だってば。でも本当に理由がわからないんだよねぇ。普通あそこまで露骨に邪険にしたら気付きそうなものなんだけど」

「確かにな。それに気づかないほど鈍感なのか……それとも」

「私が魔剣だってことに気付いてるのか、だよね。だとしたら私に執着する理由もわからないでもないけど」


 コルヴァが万が一オレのこと魔剣だと気付いてたとして、オレと契約することを望んでるんだとしたら完全に失敗だけどな。というかそもそもレイヴェル以外と契約するつもりなんてないし。

 でもおかしいよなぁ。魔剣だって気付かれるようなことはしてないはずなんだけど。

 知らないとしたらそれでいいけど、知ってるとしたら……なんで知ってるのかって話になってくる。

 ……ま、今考えても仕方のないことか。ともかく今は周囲を警戒しながら最終地点の村を目指すしかない。

 この先はまた道も悪くなってくるし、魔獣とか、それ以外にも気を付けないといけなくなってくる領域だ。

 まぁファーラ達がいるからよっぽどなことにはならないだろうけど。だからって頼り切りになるわけにもいかないってことだ。

 そんなことを考えながらふと窓の外を眺めていると、不意にキラリと光るものが見えた。


「? 今のは……」

「伏せなクロエ!」

「きゃぁっ!?」


 ファーラが注意の声を飛ばし、オレの頭を押さえる。その直後だった。窓を割ってナイフが車窓に飛び込んできた。


「な、なにっ!?」

「ちっ、嫌な予感が当たったね。アタシらに気取られないように臭いと音まで消して近づいてくるなんて」

「数は……十人程度か」

「これってもしかして……」


 ファーラもヴァルガも、レイヴェルまでもが険しい顔をしてる。なんとなく状況は察したけど……。


「あぁ、間違いない。盗賊だ」


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