第131話 男心とは
「……寝たみたいだね」
「あぁ、そうだね」
一度目を覚ましたレイヴェルだったが、まだ本調子でないことは見てすぐにわかった。レイヴェル自身が気付いてたかどうかはわからないけど。
でもさっきまでよりはマシだな
寝息が穏やかだし、ゆっくり休めてる感じだ。さっきはだいぶうなされたりしてたからな。結構心配したけど何事もなさそうでよかった。
さっき起きてた時もだいぶ元気が出てる感はあったし。ただ原因がはっきりしてないのはちょっと不安だな。あの感じじゃ馬車の揺れで酔ったってだけじゃなさそうだ。もっと別の……何か根本的な所に原因がありそうな気がする。
……って、今のオレが考えても何もわからないんだけどさ。医学的な知識なんてほとんどないし。そもそも勉強はそんなに得意なタイプじゃないし。基本的に直感で動きたい派だ。
「ねぇ二人とも」
「なんだ?」
「レイヴェルをしっかり休ませるためにあんなこと言ったけど、本当に寝させたままで大丈夫だった? まぁ今さら起こすつもりもないんだけどさ」
「そんなことか。あぁ、問題ない。無論昨日のように魔物の群れが出ればその限りではないがな。だが今のところは平穏そのものだ。ファーラも何も感じ取っていないんだろう?」
「全くだね。気配を消してる感じもしない。何もなさすぎてアタシまで眠たくなってくるくらいさ」
「それならファーラも寝たら……ってわけにはいかないんだよね」
「アタシの耳と鼻は索敵にはもってこいだからね」
昔からそうだけど、ファーラの耳と鼻はかなりいい。特に鼻に関しては意味不明なレベルだ。魔物の臭いとか、そういうのを感じとれるだけじゃない。嘘を吐いてる臭いだの、怪しい臭いだの、敵意を持ってる臭いだの、なんだその臭いはって言いたくなるものまで感じとれるらしい。
同じ要領で魔法の予兆とかも感じ取ったりするから、昔はそれに何度も助けられた。
「ごめんね、ファーラに負担かける形になっちゃって」
「ははっ、気にすることないさ。いつものことだからね。アタシが見つけてヴァルガが片付ける。昔もそうだっただろう?」
「確かに言われてみれば。懐かしいね。いつもは喧嘩してばっかりだったのに、戦闘になると途端に息がぴったりになって」
いつもはがみがみ言い合ってる二人が戦うってなると途端に阿吽の呼吸を見せるもんだから、戦闘面ではかなり頼りにしてたな。それこそただ戦うってなったら当時から強かったラミィにだって負けないレベルだった。
さすがに先輩には二人がかりでも勝てなかったみたいだけど。まぁ先輩達はちょっと規格外だから比べてもしょうがないか。逆にいえば、先輩達と比べれるレベルにある二人のことを称賛するべきだろう。
「あまり昔の話はして欲しくないんだが……」
「え、なんで?」
「男心がわかってないねぇクロエは」
「えっ、そ、それはどういう……」
元男の身として、というかまだ多少なりとも男としての意識が残ってるオレとしては男心がわかってないってのは、なんというかすごく複雑な気分になるんだが。
いやいやいや、オ、オレが男心をわかってないなんてそんなことあるわけがない。
ってオレは誰に言い訳してるんだ。
「まだ未熟だったころの話なんて思い出しくないってわけさ。特にクロエなんかはヴァルガの情けない姿を色々と知ってるわけだからね。あの頃はヴァルガにとっては黒歴史な部分もあるからね。ちょっと尖ってた頃の自分が恥ずかしいってわけさ」
「あー……確かに言われてみれば……」
今も昔もあんまり変わらないように見えるけど、ヴァルガも確かに少し変化してる部分はある。昔は確かにちょっと尖ってる部分もあった。どこか自身過剰というか、若い子特有の自分なんでもできます感を出してたりとか。
それで何度か先輩に勝負挑んでボコボコにされてたな。懐かしいなぁ。
「おいクロエ、何か余計なこと思い出してないか?」
「え、別にそんなことないけど。ただちょっとヴァルガが先輩に喧嘩売ってたときのこと思い返してただけで」
「それを余計なことと言うんだ」
「えー、別に恥ずかしがるようなことじゃないと思うけど。思春期男子特有って感じがして可愛いと思うけど」
「別に可愛さなど求めてないし。そんなこと言われても嬉しくはないぞ。お前、レイヴェルに対しても同じようなこと言ってないだろうな。同じ男として言わせてもらうが、男に向かって可愛いは褒め言葉にはならないぞ」
「っ!?」
ヴァルガの言葉に愕然とする。た、確かに言われてみれば……もうずっと昔の記憶だけど、親戚の姉ちゃんとかに可愛いとかって褒められても全然嬉しくなかったな。も、もしかしてオレそのお姉さんと似たようなことしちゃってたのか?
ヤバい、完全に無意識だった。
「どうしたんだいクロエ?」
「あ、う、ううん。気にしないで。確かに言う通りだなぁって思っただけ。ごめんねヴァルガ」
「いや、俺は別に気にしてないぞ」
「嘘だね。恥ずかしかったくせに。あんた嘘吐くときいつも耳がピクピク動くんだから」
「なっ!?」
「はい引っかかったー、やっぱり嘘だったんじゃないか」
「違う。お前がそう言うから反射的に確かめただけだ」
「言い訳ばっかりして男らしくないねぇ。スッと認めちまえば男らしいってのに」
「余計なお世話だ」
「二人とも仲良いねぇ。まぁ結婚してるから当たり前か」
「いやぁ、クロエに改めて言われると恥ずかしいね」
「事実ではあるがな」
つまりなんだかんだと言い合ってても、そこにはしっかり愛があるってことだ。なんか昔から知ってる二人が結婚してるって不思議な感じだ。でも確かに、昔の二人にはなかった互いに対する思いやりみたいなのを感じる。
「二人ともまだ子供とかはいないんだよね」
「いないね。いつかは欲しいと思ってるけど」
「そっかぁ。二人の子供なら絶対可愛いだろうし、いつか生まれたら教えてね」
「あぁ、もちろんさ」
「いつになるかはわからんがな」
魔剣少女の身の上、いくら人の姿をしてたって子供を産むとかいうのとは無縁だからな。まぁ産めたとしてもって感じだけど。だからってわけじゃないけど二人の子供はせいぜい楽しみにさせてもらおう。
それから、特に魔物に襲われることも敵性対象となっている魔剣使い達にも襲われることがないまま。懐かしい昔話に花を咲かせながら、気付けば昼前となるのだった。
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