第258話 二人の馴れそめ(大嘘)
〈レイヴェル視点〉
周囲をエルフ達に囲まれながら歩く。セイレン王国にはたまにエルフも居たから、初めて見るってわけじゃないけど。これだけの人数のエルフに囲まれて歩くのはさすがに初めてだった。
どこを見ても美形ばっかで息が詰まるというか。あんまり嬉しくは無いな。俺にそっちの気は無いし。
というかほとんど全員俺に対しての敵意が隠しきれてない。もうなんか針のむしろって感じだ。さっき突っかかってきた奴もそうだが、それ以外の面々もだ。
今すぐ手にした槍を俺に突き立てたいって感じか。まぁ歓迎されることが無いのはわかってたけど、ここまでとはな。
よそ者を受け入れないエルフ族……今の俺の姿は薬の効果もあってエルフ族に見えてるはずだが、それでもこの対応か。もし人族の姿のままだったらと思うとゾッとするな。
もしかしてマジで殺されてたんじゃないのか? さすがにコメットがいるから大丈夫だと思いたいが。
とにかく早く着けと願いながら進み続ける。腰に提げたクロエも今は何も言わない。
一応念話で会話もできるが、そんなことをして気取られても面倒だ。クロエが魔剣だってことは隠し通す必要があるしな。
一応そのための策も考えてはあるけど……ま、今から心配してても仕方ないか。
アイアルはエルフに囲まれてるこの現状が嫌なのか、何か言ったりはしてないけど少しでも距離を取りたいのか俺の後ろに隠れるようにして移動してる。
「レイヴェルさんでしたね」
「ん、あぁそうだけど。あんたはカームだったか」
突然声を掛けてきたのは俺達の前を歩いていたカームとかいう男だった。確か近衛隊の隊長とか言ってたか。
この森の中でも輝くような金髪。一見すれば優男って感じだけど、その立ち振る舞いを見ればわかる。こいつ、かなり鍛えてる。
隊長って言うだけあって、実力者なのは間違いないだろう。悔しいけど、今の俺じゃどうやったって勝てないだろうな。
「失礼ですが、コメット様とはどういった経緯で知り合ったので? 聞けばあなたは北の森の出身だとか。どう考えてもコメット様と知り合うきっかけが思い浮かばなかったもので。あなたが北のエルフの国の王族だと言うのであれば話は別ですが……そういうわけでもなさそうですし」
そう言うカームの口ぶりの中には微かな嘲りのようなものが混じっていた。まぁ確かにこんな喋り方だし、実際高貴な身の上なんかじゃないしな。
俺がこいつの実力を感じとったように、カームを俺の実力を見抜いたんだろう。そしてその上で自分以下だということがわかって侮ってる。そんな感じか。
そんなカームの態度に気づいたのか、隣に居たコメットが眉をひそめて口を挟もうとしてきた。
「カーム、そのような言い方は失礼ですわ。この方は――」
「いや、大丈夫だ。ちゃんと俺から説明するよ」
今の俺とコメットは文のやりとりをした想い人同士。それを演じなければいけない。
事前に話し合って決めた設定を頭の中で反芻しながらカームに、そして周囲で聞き耳を立てている他の兵士達に向かって話す。
「俺の親とコメットの親が知り合いだったんだ。コメットの親が昔に旅に出てたのは知ってるだろ? その時に知り合ったらしくてな。コメットの母親がこの国に戻ってからもずっと文のやりとりをしてたらしいんだ。その時にお互いの子供のことについても話したりしてたらしいんだが、それが俺とコメットのことだったってわけだ。それからはサテラさん達だけじゃなく、俺達同士も文のやりとりをするようになった。いつか家族揃って会おう、なんて話もしてたな。まぁそれは叶わぬ願いになったが。でもそれからも俺達は文のやりとりを続けたんだ」
「彼は、レイヴェルさんは母を失い傷心していたわたくしを慰めてくれましたわ。『もし自分が鳥ならば、すぐに君の隣へ飛んで行きその心に寄り添うことができるのに』そんな風に書いてくれたこともありましたわね。あなたから送られてきた手紙は今でも全部宝物ですわ」
なんか自分で言ってて恥ずかしくなってきた。いや、恥ずかしがってちゃダメなんだけどな。っていうかコメット、話盛りすぎじゃないか? 俺絶対にそんなこと言うタイプじゃないぞ。
『…………』
って、なんかめっちゃ腰の方から殺気感じるんだが。これはあくまで演技だからな? そこんところわかってるよなクロエ。
そんなこと今この場で言えるわけもなく。後で弁明するしかないな。
「その時からわたくしはこの方にずっと惹かれているのですわ」
「……そうですか。それが馴れそめなのですね」
「あぁ、そういうわけだ。わかってくれたか?」
「えぇ」
面白くないって表情だな。まぁそりゃ他人の馴れそめ話なんて聞いても面白くないだろうしな。俺だってそんな話は聞きたくない。でも聞いてきたのはカームの方だからな。
「お二人が惹かれあっているということはわかりました。ですがコメット様はグリモアにおいて特別なお方。そのことをゆめゆめ忘れぬように。そろそろ到着します」
突然視界が開ける。
それまでの鬱蒼とした森の景色から一変、光の溢れる幻想的な風景へと。
木で作られた壁にはびっしりとツタが生えていて、その壁がどこまでも続いている。
この位置からでも見える家は全部木と一体化したような家だった。前に竜人族の里で見た家に似てる気がする。
だが何よりも一番目を惹いたのは、この位置からでも見える一際大きな巨木だった。
不思議なことにその木から光が溢れていたからだ。
「ここが……」
「ようこそグリモアへ。歓迎するとは言えませんがね」
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