第257話 エルフの近衛隊
コメットちゃんとアイアルに襲いかかろうとしていたシャドウモンキーを仕留めたのは、エルフ族の放った矢だった。
あの距離であの精度……さすがって感じだけど。とりあえずしばらくは黙ってようかな。
エルフ族の警戒範囲内に入った時点でこうなることはちょっと予想してた。たぶん誰かが戦ってる気配を察知してこっちに来たんだろう。
あのエルフ達……伝統的なエルフの戦闘装束を身に纏ってる。着てる服からして王様、ひいては長老側の部隊って感じかな。レジスタンス達ってわけじゃなさそうだ。
「ご無事ですか、コメット様」
「あなたは……カームですの?」
「名前を覚えていてくださったのですね。その通り、カームでございます」
エルフらしい端正な顔立ち。いや、美男美女が多いエルフ達の中でも特にって感じの美形だ。たぶん彼がオレの前世の世界に、地球にいたらその顔だけで食っていけるレベルかも。
まぁそれ意外の面々にしても美男美女ばっかりなんだからエルフの血統ってすごいって素直に思う。
「お前たち何者だ。なぜコメット様と一緒にいる」
「あ? なんだよ」
「落ち着け。俺達は北方の森を出て、セイレン王国で暮らしてたエルフの兄妹だ。訳あってコメットとは知り合ったんだ」
この設定は事前に考えてたものだ。エルフ族は同じエルフ族でも、他の場所に住むエルフとの交流は少ない。というかほとんど無いと言ってもいい。だから北方の森の出のエルフだと言ってもバレないだろうって考えたのだ。なんて頭が良いんだオレは。なんてね。
兄妹ってことにしたのは、それなら一緒に居て不自然じゃないからだ。
「コメット様のことを呼び捨てにするな! この方はお前たちのような下賎の者が馴れ馴れしくしてよい方ではないのだぞ!」
カームと呼ばれた男の隣に居た兵士が槍をレイヴェルに突きつけながら言う。
なにこいつ。レイヴェルに槍向けた?
その槍、いや、あいつごとぶっ壊して――。
「待て。下がれお前たち」
「しかし!」
「下がれと言っている」
「っ……わかりました」
「申し訳ありませんコメット様、お騒がせしました。この者達には後で強く言い聞かせておきます」
「いえ。謝るのはわたくしにではなく、彼にでしょう」
「……おっしゃる通りです。そこのお前、名は?」
「俺? 俺はレイヴェル。妹はアイアルだ」
なんだこの人。ただの優男かと思ったけど、レイヴェルを見る目に妙に敵意がこもってる気がする。今のところ何かしようって感じじゃないけど……気のせいかな。レイヴェルとは初対面なはずだし。
「私の名はカームだ。近衛隊の隊長を務めている。先ほどは部下が失礼した。ただコメット様は現王、ウィルダー王の姪なのだ。過敏になってしまうのもわかって欲しい」
「いや、気にしないでくれ。確かにこっちも考え無しだった」
うーん、なんか空気がピリピリしてるなぁ。仕方の無いことだとはわかってるけど。
カームの後ろにいるエルフ達がレイヴェルのことめちゃくちゃ睨んでるし。特にさっき槍を向けてきた男なんて顕著だ。なんでそこまでレイヴェルを敵視してるのかがわからないけど。コメットちゃんのことを大切にしてるってだけじゃ説明がつかない気がする。
「コメット様、グリモアに戻られるのですね?」
「えぇ、そのつもりですわ。彼らもともに」
「そうですか。かしこまりました。ではこちらへどうぞ。お荷物は――」
「いえ、わたくしは彼らと一緒に行きますわ。特に彼はおじさまにも紹介しなければいけませんし」
そう言ってコメットちゃんは周囲のエルフに見せつけるようにレイヴェルの腕をそっと握る。それだけで周囲のエルフの目が厳しくなった気がした。いや、これは気のせいじゃないか。
オレは自分自身も胸がざわついてるのを感じながら、湧き上がりそうになる感情は努めて無視した。
大丈夫大丈夫。オレはこんなことで嫉妬したりしない。しないったらしない。これで怒るのなんて子供だから。これは演技、あくまで演技。でももし演技が本気になったりしたら……って、だからそういうこと考えちゃダメなんだってば!
「……そうですか。わかりました。では彼らも共に。グリモアへはまだ少し移動が必要です。申し訳ありませんが、今回は移動するための足も用意していなかったので」
「問題ありませんわ。行きましょう、レイヴェルさん」
「あぁ、そうだな」
コメットちゃんは殊更レイヴェルに近づいて歩き出す。端から見ればレイヴェルとコメットちゃんは非常に仲睦まじく見えるだろう。
もちろんこれも事前に決めてたことだ。今のレイヴェルとコメットちゃんは文通し合っていた想い人同士。
そう見えるように演技している。まだまだ穴も多いけど、文通するきっかけから何から、とりあえず一通りの設定も決めたし、穴はないと思うんだけど……。
「「「…………」」」
近衛兵達の射殺さんばかりの視線がレイヴェルに突き刺さる。
設定の穴うんぬんの前に、レイヴェルの胃に穴が開かないといいなぁ。頑張れレイヴェル。オレが傍にいるぞ。
内心でそう応援しながら、近衛兵達に連れられてグリモアへと向かうのだった。
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