第329話 アルマの治療
クロエ、レイヴェルとカームの戦いが激化していくなか、アイアルとコメットは巻き込まれてはたまらないと負傷したアルマのことを引きずって戦闘の中心地から離れる。
幸いなことに近衛兵達は全てクロエ達の方に集中しており、そのおかげもあって安全な場所まで運ぶことができた。
「親父、親父!!」
「酷い怪我ですわ。早く治療しないと」
「ゲホッ、ゲホッ……大丈夫だ。それよりお前達はどうして戻ってきた」
傷口を押さえながらアルマはアイアルとコメットのことを睨み付けるアルマ。
しかしコメットの言うように傷口は相当深いのか、額には脂汗が浮かんでいる。
「どうしてって、親父のこと放っておけるわけないだろ! 何言ってんだよこの馬鹿! 馬鹿親父!」
「アイアルさん、あまり叫ばないでくださいな。アルマさんの傷口に障りますわ。少し待ってください。傷薬を使いますわ」
「アタシが治癒魔法を使う!」
「あなたはもう魔力が無いでしょう! いいから下がっていてくださいまし。キュウ、あそこの鞄をわたくしに」
「キュッ!」
了解と言わんばかりに返事をしたキュウは鞄をすぐにコメットの元へと運んでくる。
アルマの服をめくり、傷口を確認したコメットはその傷の深さに顔を歪める。このまま放っておけば死に至る傷になることは明白だった。
コメットはエルフに伝わる傷薬をアルマの傷口に塗る。傷口に触れられることになったアルマは全身に走る激痛に顔を顰める。
「アイアルさん、この方の傷口の処置をします。抑えていてください」
「わ、わかった」
コメットの勢いに押されて指示に従うアイアル。コメットは持てる知識を全て動員して治療に当たる。もちろんコメットの持つ治療の知識など限られている。しかしだからと言って目の前で死にそうになっている者を見過ごせるほどコメットは冷酷では無かった。
「決して死なせわしませんわ」
魔力が残っていれば治癒魔法でサポートできるアイアルだが、これまでの戦いで魔力を使い果たしてしまっているアイアルはこの場では何もできない。そのことを歯がゆく思いながらもアイアルはコメットの手伝いをするしかない。
「親父頑張ってくれ。頼むから」
願うようにアルマの手を握るアイアル。それはコメットの治療が終わるまで続いた。
そしてコメットがアルマの治療を進める中、クロエ達の戦いはさらに苛烈になっていた。
カームの【魔着】による一撃をクロエが破壊し、クロエの放つ《破壊》の一撃をカームは【魔着】を使って相殺する。
全力を出せれば【魔着】など容易く貫くこともできるのだが、レイヴェルの魔力が心許ないせいでそれもかなわない。
互いに一撃すらもらうことができない極限状態の中、レイヴェルは脳が焼き切れるのではないかと思うほど集中していた。
ゾーンに入ったとでも言うべきか。カームの動き、近衛兵達の動きが止まって見えていた。
(なんだこれ。どういう状況なんだ?)
それはレイヴェルにとって初めての経験で、相手の動きが見えているのに体がそれについてこない。非常に気味の悪い感覚だった。
(負けられない。負けるわけにはいかない。もっと早く、もっと鋭く!)
意識が冴え渡り、感覚がどんどん鋭敏になっていく。肉体的、精神的に追い詰められただけでなく魔力まで削られたこの状況だからこそかもしれない。
レイヴェルの潜在能力が目覚めようとしていた。
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