第330話 成長の片鱗と決着
最初にその変化に気付いたのはクロエだった。
(反応が早くなってる?)
レイヴェルに危険を伝えるよりも早く反応し避け、そして反撃している。クロエが何かしているわけではない。クロエの力で身体能力こそ強化しているが、それで反応速度まで速くなるということは無いからだ。
それなのに今のレイヴェルは明らかにカームの攻撃に順応していた。先ほどまではギリギリで避けていたような攻撃も、今の零斗は余裕を持って避けている。
クロエと同じことにすぐ気付いたカームは明らかに顔色を変えた。嫌な予感がカームの全身を貫いていた。
「せやぁっ!!」
カームは無茶を承知で無理矢理ギアを上げる。背に腹はかえられないと【魔着】で纏っていた雷の魔法の出力を更に上げる。そもそも限界ギリギリで使っていた力なのだが、やられてしまっては元も子もないからだ。
雷の魔法に身を焼かれながらも動きが見違えるほどに速くなるカーム。
「この私の覇道の邪魔は誰にもさせない! くらうがいい『エンドレスサンダースピア』!」
刹那の内に放たれる無数の突き。雷を纏って鋭さと破壊力を増したその槍での突きはカームにとってまさしく必殺の一撃。避けることも防ぐことも敵わないはずの一撃だった。
しかし――。
「ライアさんの剣はもっと速かった」
「え?」
呆然と呟くカーム。カームの放った突きの先にレイヴェルの姿が無かったからだ。あり得ない、絶対に避けられなかったはずだ、そんな疑問ばかりが頭を埋め尽くす。しかし現実としてそこにレイヴェルの姿は無く、次の瞬間にはカームの体が吹き飛んでいた。
「がはぁっ!? が、はぁ。くぅ……い、一体何が起こった……」
カームは己の身に何が起こったのかまるで理解できなかった。カームは確かに技を放った、しかし吹き飛ばされたのは自分の方で、気付けば地面に倒れ伏していた。
「カ、カーム様!?」
近衛兵達も同様に何が起こったのかわからなかったのは驚きに目を見開いている。
だがしかしクロエだけは見ていた。レイヴェルが何をしたのかを。最初の一撃だ。最初の一撃で全てが終わっていた。
カームが放った最初の突き。それが放たれると同時にレイヴェルはクロエの《破壊》の力を剣に纏わせ、槍を根元から斬り落としていたのだ。それはさながら居合いの如く。神速の一撃だった。
カームは槍がすでに斬られていることにも気付かずに技を放ち、その好きにレイヴェルは強烈な一撃をカームに叩き込んだのだ。
(成長……ううん、そんなレベルの話じゃない。今の動き、まるでライアと同じ。きっとこの状況が、ギリギリまで追い詰められたことでレイヴェルの中の潜在能力が目覚めようとしてるんだ)
これまでのライアやイグニドの教え、そして何度も潜り抜けてきた死線。それが今まさにレイヴェルの血肉となって身になろうとしていたのだ。
そのことに気付いたクロエは思わず胸が高鳴った。確かなレイヴェルの成長に、そして見えた更なる可能性に。
魔剣としてのクロエの力は担い手の力量に強く左右される。クロエの力でレイヴェルの能力を底上げすることはできる。しかしレイヴェルが強くなればクロエの能力上昇の効果もさらに上昇する。全ては乗算なのだ。
「バカな……あり得ない。あり得てなるものか! こんなところでこの私が敗れるなど……」
「もう諦めろ。致命傷じゃないけど、傷は深い。まともに動ける状態じゃないはずだ」
「ぐぅっ……」
その言葉は事実で、レイヴェルから受けた一撃はカームを行動不能にするのは十分だった。その上カームは己の魔法でもダメージを受けている。もはや動ける状態ではなかった。
「私は……俺は……」
悔しさ、怒り、屈辱、様々な感情を滲ませながらカームは意識を失った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます