第248話 託された手紙
翌日。パイオンを出発したオレ達はグリモアへ向けて進んでいた。進んでたんだけど……。
「うーん、まさかパイオンの方に向かう馬車とかが一つも無いのは予想外だったなぁ」
出鼻をくじかれたというか、元々の計画ではグリモアに向かう商人の馬車に便乗させてもらうつもりだった。昨日の段階で冒険者ギルドに出てた護衛依頼は一つだけだった。だからそれを受けて、そのまま便乗して乗せてもらう予定だったんだけど、それが今朝になって取り消された。
なんでも昨日の内にパイオンに届くはずだった商品がトラブルで届かなくなったとかで出発が一週間ほど遅れることになったらしい。さすがに一週間も待ってられないってことで他の依頼を探したんだけど、結局は見つからなかった。
わかってたことだけど、情勢的に向こうに行きたいって商人はほとんどいないらしい。さすがに一週間パイオンで待ちぼうけってわけにもいかないから、馬を借りて向かうことにあった。
「報酬もらえてグリモアにも行けて一石二鳥とか思ってたのに、報酬が無くなった上に馬を借りる費用がかかるなんて……泣きっ面に蜂とはこのことかな」
「文句言っててもしょうがないだろ。すぐに借りられる馬があっただけ幸運だと思うしかない」
「それはそうなんだけどね。今のところは二人とも喧嘩してないし」
ちらりと横の馬に目を向ける。乗っているのはアイアルとコメットちゃんだ。馬に乗れるのがレイヴェルとコメットちゃんだけだったから、二人の後ろにオレかアイアルが乗ることになったんだけど。公平にじゃんけんで決めた結果、オレがレイヴェルの後ろ、アイアルがコメットちゃんの後ろに乗ることになった。
今のところは二人とも喧嘩してないけど、険悪な雰囲気は流れてる。心なしか馬の表情も気まずそうだ。
「グリモアに向かうまでの間に少しでも打ち解けてくれるといいんだけど……やっぱり厳しいかなぁ」
「あの二人の仲の悪さはエルフとドワーフがどうこうって以前の問題な気がするしな。根本の相性が悪いっていうか」
「こればっかりは私達がどうにかできることでもないしね」
できれば仲良くして欲しいけど、それはオレ達のエゴだ。強制するようなことじゃない。
大きな問題が起きない限りは放っておくべきだろう。
「あ、そういえば出発する前にミサラさんから何か預かってたみたいだけど、なんだったんだ?」
「あぁ、これのこと? グリモアにいる人に向けた手紙みたいなんだけど……」
今朝、宿を出発する前のことだった。たった一日ですっかりオレ達に懐いたイルニちゃんとの別れを名残惜しんでいると、ミサラさんが手紙を持ってオレ達の所にやってきた。
『あの、皆さんはグリモアに向かわれるんですよね。昨日助けていただいた身でこんなことをお願いするのは心苦しいのですけど、手紙を届けて欲しいんです』
『手紙ですか? それはいいですけど……まぁそれくらいなら別にいいですけど』
『ありがとうございます! これなんですけど』
そう言って渡されたのは、なんの変哲もない封に包まれた手紙。
『それで、誰に届ければいいんですか?』
『それはその……すみません。言えないんです』
『言えない? でもそれじゃあ誰にどうやって渡せばいいんですか?』
『それは大丈夫です。方法は考えてありますから。これを持って行ってください』
『これは……ペンダント、ですか?』
『はい。これを持っていてくれれば、きっと彼の方から見つけてくれるはずです』
『……わかりました。このペンダントを持ってればいいんですね』
『詳しく話せなくてすみません。ですがどうか、よろしくお願いします』
そう言ってミサラさんはオレ達に向かって深々と頭を下げた。
受け取った手紙をまじまじと見る。別におかしな所はないし、何か仕掛けてある風でもない。
「でも、渡す相手を教えられないっていうのは何か確実に何かあるってことだよね」
「あぁ。あの人に限ってオレ達をハメるようなことはないと思うけど」
「うん、それは私もそう思う」
接した時間はそう長くはないけど、悪意みたいなのは感じなかった。だとしたら言えない理由はミサラさん達がグリモアを出て生活してることと関係があるのかもしれない。
「とりあえず手紙に関しては、預かったペンダントを信じるしかないかな。それよりも今は……」
「ちょっと、少しは静かにしてくださいます? ずっと後ろでぶつぶつ言われると気が散るのですけど」
「うっせぇよ、こっちのこと気にしてる暇があったら馬の方にでも意識向けやがれ」
「……無事にグリモアにたどり着けるかどうかを心配した方がよさそうかな」
「……そうだな」
やいのやいのと言い合いを続けるアイアルとコメットちゃんを見て、オレ達はため息を吐くのだった。
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