第312話 裏切り
「【星魔法】――『シューティングスター』!!」
コメットの魔法が発動する。瞬間、コメットの体からごっそりと魔力が持っていかれる。普段、【星魔法】以外の魔法を使えないコメットにとってその感覚は慣れないもので、気持ち悪さすら感じた。しかしそんな気持ち悪さに耐えながらコメットは魔法を放った。
その威力は上級魔法すらも超える。全力で放った【星魔法】が大砲へ向かって飛んでいく。アルマはコメットの魔法の影響下にあって動けない。
確実に決めることができる。その確信と共にコメットは魔法を放った。
空から降り注ぐは巨大な流れ星。轟音と共に地表を破壊しながら土煙を巻き上げる。その威力は凄まじく、離れた位置にいたアイアルやアルマにまでその余波が届くほどだった。
上空にいたコメットとキュウも衝撃に煽られ、姿勢を崩してしまった。
「やりましたわ!」
「キュッ!」
大幅に魔力を持っていかれた気持ち悪さに襲われながらも、【星魔法】が不発に終わらずに成功したことに思わずガッツポーズする。
「これだけの威力があれば大砲だって確実に壊せたはずですわ」
それだけの手応えはあった。だがしかし、コメットの魔法によって巻き上がった土煙が晴れたその時、そこにあったのは無傷の大砲だった。
「え……」
コメットは思わず愕然とする。魔法が失敗したのかと思った。しかし魔法は確実に発動していた。ならば狙いが逸れて外れたのか。混乱がコメットの脳裏を埋め尽くす。だがその答えはすぐにわかった。
土煙が晴れたその場所に立っていたのはカームだった。
「カーム? あなた、いったい何をしていますの?」
「コメット様……【星魔法】の存在。聞いてはいましたが想像以上ですね。まさかこの私が本気で防御してもなお貫かれるとは思いもしませんでした」
「守った? わたくしの魔法からその大砲を守ったのはあなたなんですのカーム。どうしてそんなことを!」
「どうしてもなにも、この大砲は私に必要なものなので。このグリモアという国を私のものにするために」
「い、いったい何を言ってるんですの?」
コメットはカームの言っていることが理解できずに混乱する。だが確かなことは一つだけ。カームがコメットの魔法を防いだということだ。
急な状況の変化に成り行きを見守っていたアイアルも驚きを隠せない。アルマもまた険しい表情でカームのことを睨み付けていた。
「まさかあなたも『グリモア解放戦線』の?」
「私が? いいえ違います。あんな愚か者達と一緒にしないでいただきたい。ただ一つ、彼らの意見に賛同するところがあるとするならば、長老達の愚かしさについてだけでしょうか私ならばもっと上手くこの国を導くことができる。ゆえに私が長老達の地位を奪う。『グリモア解放戦線』にもこの国は渡さない。そして全てを手に入れた暁には、あなたのことを手に入れてみせましょう」
「な、なにを言ってるんですのあなた……」
カームを言っていることを理解することをコメットの脳は拒んだ。
コメットはあまりカームのことが好きではなかった。カームの目が、何を考えているのかわからない目が恐ろしかったからだ。しかし今、カームは欲に塗れたその目をコメットに向けている。
今コメットが抱いているのはまさに生理的嫌悪と呼ぶべきものだった。
「『グリモア解放戦線』は便利な駒だった。私の……いや、俺のためにここまで大量の武器を用意してくれたのだから」
カームがパチンと指を鳴らすと、その背後から現れたのは近衛隊の面々。近衛隊のエルフ達は気絶しているエルフから武器を回収していく。
「薄汚いドワーフの武器を使うのは癪だが。まぁそれも一時の我慢だ。お前たち、コメット様のことは殺すなよ。それ以外は……まぁ好きにしろ」
カームの号令と共に近衛兵達は動き出す。コメットもアイアルもアルマと戦うことに全力を尽くしたせいで余力は残していなかった。
まさに万事休す。しかし、そんな状況の中で近衛兵達の前に立ち塞がったのはアルマだった。すでにアイアルの魔法は解除され、自由を取り戻していた。
「ずっとおかしいとは思っていた」
「? なんだドワーフ。もうお前に用はないんだが」
「『グリモア解放戦線』。準備は慎重に進めていたが、あまりにも順調過ぎたからな。見逃されているとは思っていたんだが。なるほど、こんなことを考えていたのか」
今回の戦いは長老達と『グリモア解放戦線』だけではなく、その裏にさらにカームの意思があったのだ。近衛隊の隊長であるカームの権力を持ってすれば情報の操作などは容易い。
カームは『グリモア解放戦線』の活動を知った上で見逃していたのだ。全ては自分の力とするために。
「だがお前たちは一つ大きな勘違いをしている」
「勘違い?」
「この国を壊すのは、長老達の存在でも『グリモア解放戦線』でもない」
アルマの視線がカームのことを射貫く。
「この俺だ!」
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