第146話 ステーキは何の肉?

〈レイヴェル視点〉


 俺達が宿に着いた時にはもうすでにライアさん達は食事をとってる最中だった。


「ようやく来たか。遅かったな」

「申し訳ない。情報はすでにいっていると思うが、盗賊の襲撃後の馬車の修理に手間取ってしまってな」

「待たせちまって悪かったねぇ」

「あはは、そうは言っても私達もさっき着いたばっかりだけどね」

「そうだね。一番はそっちの狐族の人たちかな。私達がここに着いた時にはもういたし」

「へぇ、ずいぶん早かったんだねぇあんた達」

「ふん、僕達は優秀だからね。盗賊の襲撃くらいわけないってことさ。あぁ、是非ともクロエさんに見せたかった」

「あ、あはは……」


 こいつ……あれだけクロエに拒否されといてまだそんなこと言えるのかよ。精神的にタフなのか鈍いのか……どっちにしてもあんまり見習いたくはないな。


「まぁまぁ、とにかく早く座りなよ。みんなお腹空いてるでしょ? ここまで長時間移動だったわけだし。話はご飯食べながらでもいいわけだしさ」

「いつまでもそこに立たれてると私達も気が散る」

「ま、そうだね。アタシらも座るとしようか」


 こういう時リオさんとラオさんの明るい感じはありがたい。ライアさんはどうにも厳しいというか……俺は慣れてるけど、こういう時に場の空気を悪くしやすいからな。

 まぁ俺もあんまり人のことは言えないか。

 リオさん達に促されるままに席に座ると、宿の人たちがそのタイミングを見計らったように料理を運んできてくれた。

 パンにステーキにサラダにスープ……思ったよりも豪華な食事だな。って、これはちょっと失礼か。


「ねぇねぇレイヴェル」

「ん? どうした?」


 料理が並べられた時に、隣に座ってたクロエがクイクイッと袖を引っ張って来た。


「ここってさ、牛族の村でしょ」

「あぁ。そうだな」

「このお肉って……なんのお肉だと思う?」

「……は?」

「いやだってさ、ステーキって言うと色々想像しちゃうでしょ」

「お、お前なぁ……」


 クロエの言わんとしてることをなんとなく理解して思わず呆れる。確かにステーキに使われる肉には色んな種類がある。豚に鳥にそして牛……もしくは何かしらの魔物の肉だ。食べれるような魔物の肉は結構少ないから、案外高値だったりするけどな。

 そしてクロエが言いたいのは、牛族のこの村で一体何の肉が提供されてるのかってことだろう。


「そういうのはあんま口に出すなよ。もし聞かれてたらどうするんだ」

「ご、ごめん……でもふと気になっちゃって」

「まぁ確かに気になるのはわかるけど。だからって——」

「どうかしましたかお客様」

「「っ!?」」

「すみません、急に声をかけてしまって。食事が進んでいないようでしたので、何か問題があったのかと思いまして」


 声を掛けてきたのは宿の従業員。牛族の女性だ。もしかして今の会話聞かれてたか?


「い、いえ、その……」

「大丈夫です。ちょっと話してただけなんで」

「そうですか。ならいいんですけど。ちなみに、このステーキに使われてるお肉はレッサーオークのものとなります。今朝村の猟師が取ってきたばかりの新鮮なものですので、どうぞご安心してお召し上がりください」

「「あ、はい……」」


 完全に聞かれてた。百パーセント聞かれてた。しかも完全に気を使わせたなこれは……。


「クロエ」

「ご、ごめん……」


 そんな風なこともありながら食事をしていると、食事が一段落する頃にライアさんが切り出した。


「早速だが本題に入ろう。話す内容はもちろんわかっていると思う。今日の日中、私達を襲った盗賊についてだ」

「それぞれコルヴァさん、そしてファーラさんとコルヴァさん達から頂いた情報を元に私達を襲った盗賊団がいずれも別の盗賊団であることは確認が取れている。私達を襲ったのは『宝掘盗団』、コルヴァさん達を襲ったのは『邪罵空臨』そしてファーラさん達の所を襲ったのは、おそらく『魔盗の狐』であると推測している。ファーラさん達の所だけおそらくであるのは、リーダーから情報を引き出す前に殺しちゃったから。まぁでもほとんど確定で間違いない」

「うっ……」


 隣に座るクロエがバツの悪そうな顔をする。だが、あれは仕方がなかったとも思う。どっちかって言うと俺の実力不足が原因みたいなところもあるしな。


「あんまり気にすることないからな」

「うん……」

「ごめんなさい。別に責めるつもりで言ったんじゃ無い。気にしないで」


 ラオさんも軽くフォローの言葉を入れてくれた。ありがたい。

 それにしてもライアさん達の所を襲った『宝掘盗団』って、俺でも名前を知ってるくらい有名な盗賊団だ。数十名以上からなる巨大な盗賊団だったはずだ。それをたった三人で……さすがライアさん達だな。

 たった二人を相手に苦戦してた自分と比べると、あまりに隔絶した実力の差を感じる。


「ともかく、この三つの盗賊団が共謀していたとは考えずらい。それぞれ盗賊団としての目的が違いすぎるから。たまたま私達が別々の盗賊団に襲われたとも考えにくい。そうなると考えられるのは、この三つの盗賊団が誰かに金で雇われていたということ」

「まぁそうなるだろうねぇ」

「僕達としても同じ結論さ」

「ん。ならこの方向性で話を進める。であるならば、問題となるのは誰が雇ったか、そしてなぜ私達の通るルートを知っていたか。そこに尽きる」


 そう。そこが一番の問題だ。

 盗賊団を雇ったってだけなら例の魔剣使い達って可能性もある。でも、俺達が進むルートは直前まで決めていなかった。だというのに盗賊団は正確に網を張り、攻撃を仕掛けてきた。

 ならそれは完全に通るルートがバレていたということだ。

 それが指し示すものは、一つの可能性だ。


「結論、私達がたどり着いたのは……この中に裏切り者がいるという可能性。そのことについて今から話し合いたい」


 厳しい目でラオさんはそう告げた。

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