第203話 エルフの少女

〈レイヴェル視点〉


 エルフ族。それは今まさにオレ達が目指しているグリモアに住んでいる種族だ。

 この世でもっとも美しい種族、とも言われている。だがその一方で、非常に排他的な種族としても知られていた。

 神聖な森に住み、他種族との関わりを絶つ。ラミィ達竜人族と似ているといえば似ている。もとは同じ種族だったのが遠い過去に分かたれて、竜と共にあることを決めたのが竜人族だ、なんていう話もあるくらいだ。真実はどうか知らないが。

 他種族が暮らすこのセイレン王国においてもエルフは非常に少ない。オレも一度だけすれ違ったことがあるくらいだ。

 だからこそ驚いていた。今この場にエルフがいることに。


「なんですの。レディのことを不躾に見つめるのは紳士としていかがなものかと思いすわよ」

「あ、悪い。怪我とかしてないか?」

「えぇ、問題ありませんわ。どうも、助かりましたわ」


 立ち上がったエルフの女の子は絹のように滑らかな金髪をかき上げながら礼を言ってくる。その美しい容姿も相まって様にはなっていたが、身長とさっきの転けた瞬間のこともあってどこか子供が背伸びしてるようにしか見えなかった。


「何を微笑ましそうな顔をしてるんですの」

「なんでもない。怪我がないなら良かったよ」

「ふん、何も考えているのか。これだから人族というのは嫌なのですわ」


 エルフの森から出てきてはいるが、この子もやっぱり他種族に対する敵対意識みたいなのはあるみたいだ。まぁ多少は仕方ない部分もあるだろう。


「用がなければこんな場所まで来なかったというのに」

「用?」

「あなたには関係ありませんわ」

「おいクソガキィイイイイイッ!!!」


 突然怒号が響き渡る。その発生源は考えるまでもない。

 さっきこの子に吹き飛ばされたサガンだ。怒り心頭といった様子で、顔を真っ赤にしている。そしてその手には巨大な戦斧が握られていた。


「てめぇ俺様が誰だかわかってんのか! 『灰色鼠』のリーダー、サガン様だぞっ!!」

「知りませんわ」

「っっ!! こ、このガキィ……」

「サ、サガンさん落ち着いてください」

「さすがにギルド内で武器抜くのはまずいッス!」

「うるせぇっ! てめぇらは黙ってろ!」


 先に仕掛けたのはエルフの子の方であるとはいえ、ギルド内で武器を抜くのはさすがに言い訳ができない行為だ。前回のこともあるし、見咎められれば厳重注意程度では済まないはずだ。


「なんですの騒々しいですわね」


 こっちの子はこっちの子で自分が原因だとはまるで思ってない顔だ。さっきサガンを吹き飛ばしたことなんて気にも留めてないんだろうな。

 サガンはふーっ、ふーっと荒い息を吐きながら近づいてくる。


「おいなんのつもりだてめぇ」

「落ち着けサガン。ここでこれ以上暴れたら厳重注意程度じゃすまいぞ」

「うるせぇっ!! 『卑怯狐フォックス』が調子に乗ってんじゃねぇぞ!!」


 ダメだな。完全に頭に血が昇ってる。もともと俺が言っても聞くとは思ってなかったが、これじゃ火に油を注いだだけだ。


「邪魔するってんならてめぇごと――」

「うるさいですわ」

「がっ……」

「「サ、サガンさんっ!!」」


 突然サガンの頭上から降り注いだ星がそのまま頭に命中し、今度こそ完全に気絶した。


「い、今なにを」

「わたくしの魔法を使っただけですわ。この程度の魔法すら防げないなんて、そこの男も高が知れますわね」

「く、お前ら覚えてろよ!」

「後で酷いんだからなーーーっっ!!」


 サガンの腰巾着の二人は気絶したサガンを抱えてギルドから飛び出していった。

 お前ら、ってことは、俺も含まれてるんだろうな。間違いなく。

 はぁ、また厄介なことにならないといいが。


「何をため息をついていますの? よくありませんわよ、ため息を吐くと幸せが逃げるといいますもの」

「君のせいなんだけどね……」

「? よくわかりませんけど。ですが、わたくしを庇おうとあの男の前に出た気概だけは認めて差し上げますわ。光栄に思いなさいな」

「はは、そりゃどうも。っと、そういえばまだ名乗ってなかったな。俺はレイヴェル・アークナーだ。君は?」

「ふふん、聞いて驚きなさい。わたくしの名は……」

 

 そこで言葉に詰まる少女。なにやら歯切れの悪そうな顔をしている。


「? どうしたんだ?」

「いえ、なんでもありませんわ。わたくしはコメットですわ。といっても、あなたと今後会うことがあるとは思えませんけど」

「あはは、まぁそうかもしれないけどな」


 どんな用事があってギルドに来たのかは知らないが、確かにこの子と俺が関わり合いになるようなことはほとんどないだろう。

 まぁそれでも外から来た子みたいだし、多少の手伝いくらいはできるだろう。


「ギルドに用があって来たんだろう。案内くらいはさせてくれ」

「えぇ、いいですわよ。少々困っていたところですし」


 とりあえずロミナさんのところにつれていけばいいだろう。困った時は安心と信頼のロミナさんだ。

 来た道を戻る形となった俺はそのままコメットを連れてロミナさんの元へ向かう。

 どうやら食堂の方での騒ぎはまだ受付の方にまで届いて無かったらしい。サガン達にとっては不幸中の幸いだろうな。


「? レイヴェル君どうかしましたか? まだ査定は終わって……あら、その子は?」

「ちょっと色々ありまして。用があったみたいなんで連れてきました」

「コメットよ。ここにくれば依頼が出せるんでしょう」

「えぇ、もちろん。どんな依頼なのかな?」

「人探しよ。私は、お母様の友人を探しに来たの」


 そう言ってコメットは首から提げていたペンダントを握りしめた。

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