第101話 フェティの情報
〈レイヴェル視点〉
クロエの昔の旅仲間だったというファーラさんとヴァルガさんは、この後行かなければいけない場所があるとかでその場で別れることになった。
俺達もそろそろフェティの所に行かないといけなかったしな。
こっちの話も色々とさせられたけど、それ以上に色々な話を聞かせてもらった感じだ。
クロエは自分から昔の話をしたがらないから、かなり貴重な話を聞かせてもらったことになるかもしれない。
まぁクロエも聞いたら話してくれるんだろうけどな。
「良かったのかクロエ。まだ話したいこと色々あったんじゃないのか?」
「まぁそりゃ会うのは久しぶりだし話すことなんていくらでもあるかもしれないけど。どうせ明日になったらまた会うことになりそうだしねぇ。別にいいんじゃない?」
「案外ドライだなおい」
「ドライって、そんなことないでしょ。二人に会えたこと自体は嬉しいと思ってるし。でも、それはそれ、これはこれ。フェティのこと待たせるわけにはいかないでしょ」
「それもそうだな」
ファーラさんとヴァルガさんが一緒の依頼を受けてたっていうのは俺も驚いたけど、狼族の戦士だって話だし、結構心強いかもしれない。
獣人族の中でも狼族は優秀な戦士が多い。それくらいは俺でも知ってる。イージアにいる獣人族の冒険者にも狼族は結構多いしな。
結構気難しい人が多いから、あんまり話したことはないけど。
「さて、それじゃあ『猫奪屋』に戻ろっか。もしかしたらもうフェティもいるかもしれないし」
「あぁ」
それから俺達は急いでフェティとの待ち合わせ場所である『猫奪屋』の前へと戻って来た。
最初に来た時と変わらず、というか。さっきまで喧騒になかにあったせいか、余計に静かで薄暗く感じる場所だ。
完全に裏の店って感じだな。
「フェティは……いないみたいだな」
「だね。あの子のことだから先に居てもおかしくないと思ったんだけど」
「私ならここにいます」
「「うぁっ!?」」
急に背後の影から聞こえた声に俺もクロエも驚いて飛び上がってしまう。
当然、というかそこに居たのはフェティだった。
声を掛けてきたフェティはこっちの驚いた声に逆に少しだけ驚いた様子だったが。
「……失礼しました。まさか気付いていないとは思わなかったので」
「び、びっくりしたぁ。いるならいるって言ってよぉ。心臓飛び出るかと思った」
「? 魔剣にも心臓があるのですか?」
「当たり前でしょ!」
「覚えておきます」
「全くもう……」
「いや、でも本当に心臓に悪かったぞフェティ。できれば次からはあぁいう現れ方は止めてくれ」
「はい。そのようですね。私としても驚かせるのは本意ではないので。次からは気を付けます」
「そうしてくれると助かる。えぇと、それで、俺達の頼んだ情報はゲットできたのか?」
「はい。問題ありません」
「え!? ホントに!? すごいねフェティ!」
「わぷっ……あ、あの。苦しいのですが」
「うぅん、可愛いなぁ。可愛い上に仕事まできっちりこなせるなんて。完璧すぎない?」
クロエもそれほど身長が高いわけではないが、フェティはそれよりも身長が小さい。つまり、クロエに抱き着かれたら完全にその腕の中にすっぽりと覆われる形になるわけだ。
「おいクロエ。そろそろ離してやれって。苦しそうにしてるだろ」
「わかってるって、でも後少しー」
こいつデレデレになっておっさんみたいな顔してんぞ。
クロエの腕の中にいるフェティが助けを求めるような目で俺を見ている。
いや、あくまでそんな気がするってだけなんだが。
まぁこの状況じゃ話も聞けないし、とりあえずクロエを止めるか。
「おい、もう終わりだ」
「あ、ちょっと……もう、レイヴェルのケチ。自分ができないからって」
「ケチじゃねぇよ。っていうか、俺もやりたいみたいな感じにしてんじゃねぇよ」
「やりたくないの?」
「やりた……くないに決まってんだろ」
「ふっ、今の間が全てを如実に物語ってるね」
「うっせ」
「ありがとうございますレイヴェルさん、おかげで助かりました」
「? あぁいや、これくらいならな。俺も話は聞きたいし」
「それでは、簡単にわかったことをいくつか報告させていただきます」
心なしかクロエから距離をとりつつ、フェティが話し始める。
「まず最初に、今回この国の至宝を狙った人物達についてですが。彼らはとある組織に所属しているものと考えられます」
「組織?」
「はい。正しい名称は不明ですが。この組織は一年ほど前から活動が確認されています」
「国の至宝を狙う組織って……」
「前回この組織が襲撃を行ったのは竜人族の里。あなた方もあっているはずでは?」
「「っ!?」」
ディエドとダーヴのことか!
確かになんか理由があって動いてる感じだったけど……そんな組織に所属してたなんて。
「なぜこの国の至宝を狙うのか。なぜ竜人族の里……竜命木の卵を狙ったのか。その点については不明です。調べきれませんでした。思った以上に謎の多い組織のようでして」
「……それじゃあ今回の襲撃犯の中には前回私達と戦ったディエドとダーヴがいるの?」
「その質問の答えは、いいえ、です。襲撃犯の中に魔剣使いはいましたが、あなた方のいうディエドとダーヴではないかと思われます」
「おいおい、他にも魔剣使いがいるってのかよ」
「はい。現在判明している魔剣使いは二名。【業炎猛鬼】アリオス。【毒腐ノ沼】クルト。それぞれ魔剣【ヴォルケーノ】と魔剣【ネヴァン】と契約した。一流の魔剣使いです」
「一人だけじゃなくて二人も魔剣使いがいるとか……どんな悪夢だよ」
「それ以外にも数名メンバーがいるようですが……調べきる前に【業炎】に気づかれました。申し訳ありません」
「気づかれたって、大丈夫だったの!?」
「はい、なんとか。逃げる時は逃げる。それだけに徹したので。気付かれたのは一生の不覚ですが」
「だからって……あんまり危ないことはしないでね?」
「はい、もちろんです。引き際はきちんと見極めていますので」
「だからそういうことじゃないんだけど……まぁいいか。それよりも魔剣使いが二人か。私達が呼ばれた理由がなんとなくわかったね」
「あぁ、そうだな」
魔剣使いに対抗できるのは魔剣使いだけ。つまりはそういうことなんだろう。
ライアさんなら魔剣使いが相手でも戦えるんだろうけど……さすがに二人を同時に相手するのは厳しいかもしれない。
だからこうして俺達が呼ばれたわけだ。
ディエドとダーヴ以外の魔剣使い……【業炎猛鬼】と【毒腐ノ沼】か。
どっちもヤバそうな感じしかしないな。
「ありがとうフェティ。おかげで色々わかった」
「……全てを調べきれたわけではないのですが、お役に立てたのでしょうか?」
「あぁ、もちろんだ。この上ない情報だぞ」
「うんうん! すっごく助かったよ。魔剣使いが二人もいるなんて、知ってるのと知らないのじゃ全然違うからね。カムイもその辺りのことちゃんと先に教えてくれればいいのに」
「【業炎】はともかく、【毒腐】については難しいかと。彼は滅多に姿を現しませんし。最初の襲撃の時もほとんど関わっていないようなので」
「そんなところまで調べたんだ。すごいねフェティ」
「それほどでもありません」
「謙遜しなくていいのに。うりうりー」
「だから抱き着くのはやめてください」
抱き着こうとしたクロエの腕を素早く避けるフェティ。
そのままオレの後ろに隠れてきた。
どうやら完全にクロエは危険人物判定をくらったらしい。
「うぅ、レイヴェルだけずるい」
「いや、完全にお前の自業自得だろ。とりあえずそろそろ一回城に戻るか。今の情報をライアさん達にも伝えておきたいしな」
「はぁ……うん、そうだね。一回戻ろっか。フェティも一緒に行こ」
「……いいんですか?」
「もちろん。フェティみたいな可愛い子を一人にするのは怖いしね」
「あなたの傍にいるのもそれはそれで怖いのですが」
「ガクッ……そんなこと言わないでよぉ」
その後も、にじり寄ろうとするクロエと、それを避け続けるフェティという光景を見続けながら俺達は城へと戻るのだった。
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