第211話 大型飛行船クイーンペガサス号

 大きな都市であるイージアには空港がある。

 って言っても飛行機があるわけじゃない。この世界にはまだ飛行機は無いというか……いつかはできるかもしれないけど、いつになるかはわからないな。

 現状は飛行船で十分って感じだし。そもそも魔法があるのと無いのじゃ技術と文化の発展の仕方が違うというか……って、そんなことオレが考えても仕方ないか。


「それにしても、おっきいねぇ」

「確かにな。俺も何回かしか使ったことないけど。二人は慣れてるのか?」

「えぇ、もちろんですわ。何度も利用していますし」

「アタシは今回ここに来るまでで使ったのが初めてだな」

「あら、田舎者の土臭いドワーフらしいですわね」

「んだと!」

「これで怒るということは図星ですのね」

「てめぇいい加減に――」

「はいはいそこまで。もうちょっとは仲良くできないの?」

「できませんわ!」

「できるわけねぇだろ!」

「そこだけはホントに息ぴったりだね」


 いい加減慣れてきたけど。でも飛行船の中でもこの調子だとさすがに困る。見てないとこでガチ喧嘩されても嫌だし。


「あーあ。やっぱりフェティにも来てもらうべきだったかな」

「用事があったんだから仕方ないだろ。まぁ来てくれてたら助かったとは思うけどな」


 そう、今この場にフェティはいない。もし居てくれたらめちゃくちゃ助かったんだけど。

 費用的な問題は前に霊草を見つけたことでなんとかなったんだけど、折悪くというかイグニドさんからの指名依頼が入ってしまったのだ。

 ギルド長からの指名依頼となったら断ることはできない。ましてや今回オレ達がグリモアに向かうのは完全に私的な用事。

 前みたいに依頼を受けて行くわけじゃないから、どうしてもギルドの依頼優先になってしまう。


「イグニドさんもタイミングが悪いというか」

「まぁしょうがないだろ。フェティにしか頼めないって話だったからな」

「どんな依頼なんだろうね。私達にも教えてくれないなんて」

「指名依頼には秘匿義務があるからな。それよりも早く手続きしないと乗り遅れるぞ」

「そうだった。ほら二人もいつまでもむくれてないで行こう。飛行船の中では仲良くしてね」

「それができれば苦労しませんわ」

「だいたいアタシはまだ納得したわけじゃねぇんだからな! なんでアタシがグリモアなんか行かなきゃいけないんだ」

「だから言ったでしょ。アルマを……あなたのお父さんを探すためでもあるって」

「それは聞いたけど。詳しい話はまだ聞かされてないぞ」

「それはまぁ、向こうに着けばわかるから。たぶんアルマから直接聞いた方がいいと思うし」


 オレの予想が正しければ。確実にアルマはグリモアにいる。いや、いまいるかどうかはわからないけど。確実にグリモアへやってくる。

 会わなきゃいけない。会って直接アルマに伝えなきゃいけないことがあるんだ。


「なんだよそれ。知ってるならさっさと言えってんだ」

「わたくしも反対ですわ。彼女のように土臭いドワーフを国へ連れていくなんて。他の者になんと言われるかわかったものじゃありませんもの」

「二人の言うことに賛同するってわけじゃないけど。実際大丈夫なのか? アイアルをエルフの国に連れていったりして」

「そこも大丈夫。ちゃんと考えてるから」


 昔一度エルフの国に行った時に使った手段がある。それがまた使えるはずだ。


「なんか凄まじく嫌な予感すんだけど」

「大丈夫大丈夫。私のこと信じて、ね?」

「……ちっ、わかったよ。うだうだ言っててもしょうがねぇし。ついて行くだけついていってやる」

「よし、それじゃ搭乗手続きしよっか」


 イージアの空港はめちゃくちゃでかい。王都にある空港と遜色ないくらいの大きさだ。

 下手したら迷子になりかねない。さすがに大丈夫だと思うけど。大丈夫だよね?

 空港の中はかなり多くの人がいた。空港は他国との玄関口でもある。人族のみならず他種族の姿もかなり見かけた。

 

「うわぁ、多いね」

「おい、あんまりキョロキョロするなよ。ぶつかるぞ」

「大丈夫だって。っとと、すみません」


 思いっきり睨まれた……。みんなせかせかしてるなぁ。って、ぶつかりそうになったオレが悪いんだけど。


「だから言っただろ」

「えへへ、ごめんごめん」


 ちょっと不用心だったか。ちゃんと気をつけないとな。

 その後の流れは特別なものじゃない。チケットを渡して、検査されて、乗るだけ。

 ただ武器の持ち込みが禁止されてるってわけじゃない。道具が無くても魔法が使える人はいるし、そこまで細かくしてたらきりが無いって話だ。

 もちろん武器も魔法も緊急時を除いて使用は禁止されてるけど。

 正直大丈夫なのかって思わなくもないけど、今のところはそれで大きな問題も起きてないらしいし、案外大丈夫なのかもしれない。

 そしてあれよあれよという間にオレ達は搭乗ゲートの前までやってきていた。

 気楽な旅行ってわけじゃないけど、ちょっと楽しんでる自分がいるのは否定できない。

 

「あ、来た!」

「あれが俺達の乗る飛行船か。って、思った以上にでかいな」


 大型飛行船クイーンペガサス号。

 オレ達の乗る飛行船がその姿を現した。

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