第210話 グリモアへ向けて
〈レイヴェル視点〉
クロエがグリモアに行くと言ってから数日後、俺達はグリモアに行くための出発準備を進めていた。
元々俺達はグリモアには行く予定だったし、あの日の薬草採取の依頼だけで旅費は貯まってたからちょうど良かったと言えばちょうど良いタイミングだった。
でも、元々グリモアに行く理由はクロエの過去の仲間、ハルミチの情報を求めてのことだった。でも、その時とは目的が変わってる気がする。
たぶんコメットからもらった手紙が理由だとは思うんだけどな。詳しい理由は俺も聞いてない。行けばわかるっていうのがクロエの主張だ。
「それはいいんだけどな……」
問題があるとすれば、今もムスッとした顔で荷物をまとめてるアイアルだろう。
クロエはあの時言った。『みんなで行こう』と。そのみんなにはアイアルも含まれていた。ドワーフであるアイアルが、だ。
もちろんそれを言った時アイアルは猛反発した。
なんでドワーフある自分がエルフの国なんかに行かなければいけないのかと。
まぁ当然と言えば当然の反論だ。というか俺だってあり得ないと思ってる。エルフの国にドワーフを連れて行くなんて、常識じゃ考えられない。
だからこそなにか理由があるんだとは思うんだが。
「さてと、これくらいかな。レイヴェルは準備できた?」
「ん、あぁ。もう少しで終わる」
「もう。早くしないと飛行船の時間過ぎちゃうよ?」
「まだ時間あるから大丈夫だろ。そんなに急いでも出発の時間が変わるわけでもないし」
「そうなんだけど。でも飛行船乗るの久しぶりだから。楽しみで」
「子供かよ。っていうか、この間ライアさんの飛空挺に乗ったばかりだろ」
「それはそれ、これはこれ。飛空挺と飛行船じゃ全然違うよ」
「そういうもんか?」
俺にはよくわからん違いだ。
まぁでも空の旅が楽しみだっていうのはなんとなくわかる。
ここからエルフの国までは陸路で行くと十日以上かかる。飛空挺だと途中の街までしか行けないけどそれでも半分以上短縮できる。
今日の昼に出発して、飛行船で一泊して次の街に着く予定だ。
「俺はともかく、他の二人はもう準備終わってるのか?」
「うん。アイアルなんかはとっくに終わらせてるみたいだよ。この数日でわかったけど、結構真面目だよねあの子」
「確かに。それは思った」
出発準備が整うまでの数日間、この『鈴蘭荘』で一緒に過ごしてたわけなんだが。若干の口の悪さや、やたらめったらコメットに突っかかるところを除けばアイアルはかなり真面目な少女だった。
街で困ってる子を見かければ助けてあげてたし、フィーリアちゃんの買い物も手伝っていた。思った以上に真面目な子だった。
それで言うとコメットは自由きままというか、この街が珍しいのか色々なところを観光してたみたいだ。クロエも付き合わされていた。それが問題なのかって言われるとそうじゃないんだけどな。
ただアイアルはそういう部分も勘に障ったらしく、それが原因で喧嘩もしてたな。
「アイアルのあぁいうところはお父さん似だし、コメットちゃんの自由な感じはまさにお母さん似って感じだよね。なんかあの二人の喧嘩見てるとアルマとサテラを思い出すことが多いよ」
「そんなに似てるんだな」
「うん、二人の子供なんだなって感じ」
そういうとクロエは少しだけ寂しそうな顔をする。たぶん、亡くなったっていうサテラさんのことを思い出してるんだろう。あの二人の喧嘩を見てるときもたまに同じような顔をしてることがある。
こういう顔をしてるこいつに俺ができることなんて一つだけだ。
「あ……」
「また暗い顔してるぞ」
「レイヴェル……ごめん、ありがとう」
軽く頭を撫でる。こんなキザったらしいこと恥ずかしくて顔から火が出そうになるが、これでクロエが元気になるならそれくらいの恥ずかしさはいくらでも我慢する。
「えーと……もういいか?」
なんとなく頭を撫でてたら止めるタイミングを失ってしまった。
「えと、もうちょっとだけ――」
「もう、二人ともいつまで準備してますの? って、どうしたんですの?」
間一髪。見られるギリギリのところで俺達は離れた。ただ相当不自然な形になったのは否めない。
「な、なんでもないよ」
「そ、そうだな。準備もすぐ終わるから外で待っててくれ」
「? わかりましたわ。いつまでもあの土臭いドワーフと二人にしないでくださいな」
「おい聞こえてんぞお前!」
相変わらずアイアルにたいしては当たりが強いな。
ってそれどころじゃないか。早く準備終わらせないと。
「それじゃあ私先に行ってるね」
そう言ってクロエは部屋から出て行った。
あぁ言うとき、もっとスマートに元気づけられたらいいんだがな。
「って、そんな柄じゃ無いか」
「キュウ?」
「なんでもない。キュウも飛行船では大人しくしててくれよ」
「キュウ!」
「ホントにわかってんのか?」
最近ますます元気でやんちゃになってるというか。
しっかり注意して見とくしかないか。
「よし、準備完了だ。これからどうなるかわからないけど。まぁなるようになるか。よし、行くかキュウ」
「キュッ!」
グリモアまでの旅路に若干の不安を感じながら、俺はクロエ達の元へと向かった。
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