第209話 サテラからの手紙
コメットちゃんから手紙と箱を受け取ったオレは部屋へと戻ってきていた。
正直な話、コメットちゃんから聞いた話を受け止め切れていなかった。
サテラが死んだ。それを聞いた時、自分でも思っていた以上のショックを受けていた。
オレは不老の存在。長いこと生きていれば死に別れることもあった。魔物と戦うようなこんな世界なんだから、当たり前の話だ。
それでも、一緒に旅をした仲間の死は……。
「っぅ……」
こみ上げそうになる感情をグッと抑えてサテラの手紙の封を切る。コメットちゃんもさすがに中身を見るようなことはしなかったらしい。
手紙は一枚じゃなく、かなりの枚数だった。そこに書かれた懐かしい文字にまた泣きそうになった。でも、ちゃんと読まなきゃいけない。
サテラが残した、オレに宛てた最期の手紙を。
『やっほー、クロエ。クロエがこの手紙を読んでるのはいつ頃になるのかなぁ。この手紙を読んでる頃にはたぶんもうわたしはいないと思うけど。なんてね。縁起でもなかったかな』
「……ふふ」
手紙でもいつもの調子を崩さないサテラに思わず笑みが零れる。ずっと会って無かったけど、サテラはやっぱりサテラのままだ。
それだけのことなのに嬉しくて仕方なかった。
書かれていたことは本当に他愛のないことばかりだ。オレ達と分かれた後にどんなことがあったのか、どんなことをしたのか。喜んだこと、怒ったこと、悲しかったこと、楽しかったこと。
オレの知らないことを。オレに話したかったことをサテラは多く書き綴っていた。まるでその経験のありのままをオレに伝えるように。
そして気づけばあっという間に手紙は終盤に差し掛かっていた。
『本当ならこの手紙も直接会って渡したかったんだけど。それはちょっと難しそうだから。わたしの子供に託すことにしたの。コメットっていう名前なの。もうすっごく可愛いの! クロエと同じくらい。まだ四歳だけどすっごくお利口さんでね、きっと将来はクロエにも負けないくらいの美人さんになると思うなぁ。ちょっと親バカ過ぎるかな? でも本当にそうなると思うんだよね。本当ならクロエにも会わせてあげたいんだけど、今は状況的にそれも難しくて。ごめんね』
コメットちゃんが四歳……十年前か。あの頃はオレの方も色々あったから連絡ができなかった。
『でも、いつかきっとわたしの子供とクロエが会うってわかったから。だから今こうして書いてるんだ。当ててあげる。クロエ、今もう契約してるでしょ。それも人族の男の子と』
「っ!」
思わずびっくりして周囲を見回す。でももちろんサテラの姿はない。
あるわけがない。
『えへへ、びっくりした? わたしの得意な魔法のこと忘れちゃったの?』
あ、そっか。そういえばそれがあった。
サテラだけが使える星読みによる未来視。特異な魔法である『星魔法』だ。
『クロエのびっくりする顔が目に浮かぶなぁ。絵が描けたらいいんだけど。また描きたいな、クロエの絵。またクロエに、みんなに会いたいな』
「サテラ……」
手紙に濡れた後がある。もしかしたら泣きながら書いたのかもしれない。
コメットちゃんはサテラは病気で亡くなったって言ってた。でもオレはそんなことも知らないで……ううん、今更後悔しても仕方ない。
『ごめんね。泣き言言っちゃって。最期に一つだけクロエにお願いがあるんだ』
「お願い?」
そのまま最後のページに目を通したオレは驚きのあまり目を見開いた。
そして同時に全てを理解した。この手紙の意味も、一緒に持ってきた箱の意味も。
理解すると同時に、これまでずっと堪えてきた涙が自然と溢れてきた。
「サテラのバカ……」
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〈レイヴェル視点〉
コメットからサテラって人のことを聞いた後、クロエは手紙と箱を持って部屋へと戻っていった。
昔一緒に旅していた人が亡くなった。そのショックは計り知れないだろう。
「クロエ様、大丈夫でしょうか」
「さぁな。ただまぁショックを受けてたみたいだからな。しばらくはそっとしといた方がいいかもしれない」
「そうですわね」
「ふんっ」
さすがにアイアルもこの状況でコメットと喧嘩をする気はないらしい。
まぁさっきあれだけマリアさんに脅されてたし、クロエにデコピンとかくらってたからな。
でも……。
「…………」
「…………」
「…………」
めちゃくちゃ気まずい。重い沈黙が流れる。
話すことがないってわけじゃないけど、この状況で何を言えばいいのかわからない。
「えーと……コメットはこれで目的を達したってことになるのか?」
「え、えぇ。そうですわね。そもそも今回の目的は母の友人を見つけ出して、手紙を渡すことでしたもの。それはもうすでに完遂されたといえますわ」
「そっか。それじゃあこれからどうするんだ? エルフの国に帰るのか?」
「それは……」
「はんっ、用が済んだならさっさと帰れよ」
「……なんですの?」
「なんだよ。ここにいたってやることないんだろ。だったらエルフはエルフらしく森に帰れって言ってんだ」
「なんであなたにそんなことを言われないといけませんの? これだから土臭いドワーフ
は嫌なのですわ。我が強くて、自分の意見ばかり他人に押しつけて」
「お前らエルフだって同じようなもんだろうが」
やばい、また喧嘩が始まった。
エルフとドワーフ。その仲の悪さは誰でも知ってるくらいだけど、まさかここまで仲が悪かったとは思わなかった。
「二人とも喧嘩は――」
「アイアル、コメットちゃん!」
バンッとすごい勢いで扉が開く。そこに居たのはクロエだった。
でも少し様子が違う。目元が赤いし……もしかして泣いてたのか?
それにしてはなんか決意に満ちてる気がする。
戻ってきたクロエの気迫に押された二人はさっきまでの言い合いも忘れて目をパチクリさせていた。
俺も多分同じような顔をしてたと思う。
そんな俺達のところに戻ってきたクロエは言った。
「みんなで行こう、エルフの国……グリモアに!」
「「「……はっ!?」」」
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