第74話 心配と嫉妬
レイヴェルが目を覚ましてから数日後。
ようやく医者の人から日常生活に支障なく過ごせるって診断を貰うことができた。
オレからしたらかなり長かったような気がするけど、医者の人からしたらかなり異例の速さでの回復らしい。
本当なら数週間、下手したら数ヶ月まともに動けないくらいの怪我だったらしい。
原因はなんとなくわかる。というか、確実にオレ……魔剣の力が原因だ。
魔剣の力は契約者の肉体に影響を及ぼす。それは力だけじゃなくて、治癒力とかもだ。
だからレイヴェルの体は医者の人が想像していたよりもずっと速く回復したんだろう。
オレが魔剣だってことは伝えなかったから異常体質だーなんて言われてたけど、そこはラミィとリューエルさんに手伝ってもらってなんとか誤魔化した。
「あー、何日も寝てばっかだったから体ガチガチだ」
「ホントにもう起きて大丈夫なの? まだ寝てた方が……」
「だから大丈夫だって。医者の人も言ってただろ。普通に動く分には何も問題ないって。まだ運動は控えた方が良いって言われたけどさ」
「でも」
「でもじゃねぇよ」
「いたっ! なんで急にデコピン!?」
急にデコピンされて額を押さえる。何の脈絡もなかったせいでビックリしたし、地味に痛い……。
非難の意を込めてレイヴェルを睨む。
こっちは心配して言ってるのに……伝われこの怒り!
「お前が睨んでも怖くねーよ」
「うぐ……」
「あははっ、まぁ心配してくれてありがとな。でも本当に大丈夫だから。無理はしてねぇよ。どっちかって言うとお前の方が無理してんじゃねーかって思ってんだけど」
「え、私が? どうして?」
「ラミィから聞いた。俺が眠ってる間、ほとんど離れずにずっとそばに居たって。お前、俺が起きてからもずっとそばに居ただろ?」
「うっ……ラミィ、余計なことを……」
ラミィ、いつの間にレイヴェルにそんなことを。ほとんどずっとレイヴェルの傍にいたからそんな暇は……あぁいや、でもちょっとだけレイヴェルの傍から離れたっけ? まさかその時に?
くぅ、なんとなく思ってたけど……レイヴェルとラミィちょっと仲良くなりすぎてない?
なんか気付いたら普通に話してるし。仲良くしてくれるのはいいんだけどぉ、いいんだけどさぁ……うぅん……。
「何一人で百面相してんだ? とにかく、お前が心配してくれるのは嬉しいけどな、それでお前が無茶してちゃ意味ないだろ」
「私なら大丈夫だから」
「お前の大丈夫は信用できねーんだよ。とにかく、俺に無茶させたくないならお前もちゃんと休むことだ。いいな?」
「うぅ……わかった……」
それを言うならオレだってレイヴェルの大丈夫は信用できないって話だけど、それ言い出したらキリないし。
今回はオレが折れてやるとしよう。オレは大人だからな!
実年齢考えたら……いや、実年齢は止めよう。うん。オレは永遠の17歳だから。
誰がなんと言っても17歳だから。
「あ、そうだレイヴェル。イグニドさんすっごく怒ってたよ」
「え? マジか」
「うん。今朝連絡が来たんだ」
魔導通信機による遠隔通話。まぁいわゆる電話みたいなもんだけど。
この里にもリューエルさんの家にだけ置いてある。
いやぁ、ホントはもっと前に連絡しないといけなかったんだろうけど、それどころじゃなかったし。オレもすっかり忘れてたんだけど。
イグニドさんはいつまで経ってもオレ達が戻ってこないし、連絡も寄こさないことに業を煮やして連絡してきたみたいで。
そりゃもう怒ってた。あ、これヤバって思うくらいには怒ってた。まぁどっちかっていうと心配してるって感じだったけど。レイヴェルのこと伝えたらあからさまにホッとしてたし。
「まぁ色々と言われたんだけど……とにかく早く戻ってこいってさ。怒られるのは覚悟しといた方がいいかも」
「やべぇ、一気に帰りたくなくなった」
「そんなこと言っちゃダメだよ。私も一緒にごめんなさいしてあげるから」
「俺は子供か!」
「あははっ、冗談だよ冗談。ほら、早く行こ」
「あぁ……はぁ、憂鬱だぁ」
ちなみに今向かってるのはリューエルさんの所だ。
依頼完了の承認をもらって、それでオレ達がラミィから受けた依頼は完全に完了したことになる。
「あ、でももう一つ話さないといけないことあるんだっけ」
「……あぁ。そうだな」
レイヴェルは自分の左目を押さえる。
そこに何がいるのかはもう聞いてる。
竜の卵……か。まさか竜人族からじゃなくて、レイヴェルが選ばれるなんて思いもしなかった。
今は普通の黒い目だけど、ラミィによればそこには確かに竜がいるらしい。
まぁかく言うオレもなんとなくそんな気配は感じるんだけど。今は寝てるみたいだ。
まだ完全に覚醒してない状態で無茶したから、しばらくは目を覚まさないだろうって。
うーん、これどうなんだろう。色々と問題ある気がする。レイヴェルは竜人族じゃないし。
他の竜人族の人からの反発とか……考えただけで胃が痛い。
でも……もしこの里の人たちがレイヴェルを害そうって言うならオレは容赦しない。どんな手段を使っても守り切ってみせる。今度こそだ。
「怖い顔すんなって」
「あいたっ! またデコピンしたぁ!」
「お前が変な顔してるからだろ。大丈夫だって、リューエルさんもラミィも言ってただろ」
「そうだけど……」
「友達の言うことは信じてやろうぜ。な?」
「……うん」
そんな風に言われたら何も言えない。オレだってラミィの言うことは信じてるけど。
でも、それでも、心配しちゃうのはどうしようもないだろ。オレはレイヴェルと違って心配性なんだ。
レイヴェルに降りかかる火の粉があるなら、それを振り払うのがオレの役目だ。
それだけは絶対譲らない。
「ま、確かに気にしすぎてもしょうがないかもしれないけどね」
そんな話をしてる間に、オレとレイヴェルはリューエルさんの部屋にたどり着いた。
「やっと来たわね。まぁ、話す声が聞こえてたからわかってたけど」
「わっ、ビックリした」
「ノックする前にドア開けるなよ……」
「クロエ達が来るのが遅いのが悪い。傷はもうほとんど治ったんでしょ。ちんたら歩いてるんじゃないわよ」
「ご、ごめん……」
「悪い……」
「リューエル、二人の仲が良いことに嫉妬して八つ当たりしちゃダメですよ」
「っ! し、嫉妬なんかじゃないわよ。適当なこと言わないでよママ!」
「うふふ」
嫉妬? 今嫉妬って言った?
その嫉妬は……誰に対する嫉妬なのかなぁ。ねぇラミィ?
「ちょ、ちょっとクロエ。怖い顔しないでよ」
「え、別に怖い顔なんてしてないけど」
「いや、今のあなた人殺せる顔してるわよ。それ絶対友達に向ける目じゃないわよ」
「まぁまぁ落ち着いてクロエちゃん。そんな顔してちゃせっかくの可愛い顔が台無しよ。笑顔笑顔♪」
「……はい」
ラミィがオレかレイヴェルか。そのどっちに嫉妬したかによってはしっかり話し合いをする必要があったんだけど。
まぁ、その話はまた後にしよう。
今はそんな場合じゃないし。
後で話は聞くけど。絶対に聞くけどな。
「な、なんか悪寒が……」
「えーと、この二人のことは置いておいて話を進めても大丈夫ですか?」
「そうね。それじゃあ依頼完了の手続きと……あなたに宿った竜について、話をしましょうか」
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