第183話 『鎧化』の代償
「殺す殺す殺すっっ!! 絶対に殺してやるぅっっ!!」
狂ったよう叫びながら剣を振るクルト。そこにほとんど正気は残っておらず、あるのは目の前にいるレイヴェルを殺すという意思だけ。
『鎧化』することによって得た力によってクルトはそれまで以上の力を発揮していた。
しかし、さらなる力を発揮しているのはレイヴェルも同じだった。目の前にいる魔剣、ネヴァンの力が高まるのに呼応するようにさらに力を強くしていく。レイヴェルの意思とは関係なく。
「あぁあああああっっ!!」
ドクンと心臓が跳ねる感覚と同時にレイヴェルの右腕から流れ出る血の量がさらに増える。レイヴェルの持つ血命剣がさらに大きくなり、レイヴェルの中に眠る力を強制的に引き出した。
『あはははっ! いいじゃなその力。さすがは【魔狩り】といった所かしら。この状態のクルトにも対抗して見せるなんて。このままじゃ押し切られてしまうかもしれないわ。なぁんて、言うとでも思った?』
ネヴァンはこれまでにも何度か【魔狩り】と戦ったことがある。そしてその全ての戦いに勝利してきたのだ。当然その対処法も編み出していた。
『さぁ、出てきなさい私の毒兵達』
クルトが地面に剣を突き刺すと、そこから地面に毒が染み出し人の形へと変化する。
『毒兵召喚』。ネヴァンの持つ能力の一つだ。自律行動する毒の人形兵を生み出す。その兵達は様々な毒を持っている。
【魔狩り】の力は強力無比。しかしそれもその力が届けばの話。強力であるがゆえにその力が極めて限定的であることをネヴァンは知っていた。
そしてこれまでの戦いの中で、レイヴェルの【魔狩り】の力が目覚めたばかりで扱いこなせているわけではないことにも気付いていた。
『あなたのその力が及ぶのはあくまでその血に触れた部分だけ。しかも永続的に付与することはできない。それは私がクルトの腕を治せたことからもうわかってるわ』
最初に斬り飛ばされたクルトの腕。もしレイヴェルが【魔狩り】の力を使いこなしていたならば、傷口にも【魔狩り】の力が残りネヴァンの力を受け付けなかったはずなのだ。
『あなたの弱点は圧倒的な物量。私の力が続く限りこの毒兵達は生まれ続ける。さぁ、いつまで持つかしら?』
瞬く間に生み出された大量の毒兵がレイヴェルの周囲を囲む。
「…………」
『さぁ、いきなさい私の毒兵達』
ネヴァンは血が湧き肉が躍るような戦いが好きではあるが、相手が【魔狩り】ともなれば油断はしない。確実に、絶対に勝てる手段を選ぶことに躊躇はなかった。
そして毒兵達はネヴァンの指示に従ってレイヴェルに襲いかかった。命令に従うだけの人形である毒兵はレイヴェルの力を恐れることなく近づいて来る。
魔剣の力で作られた毒兵達はレイヴェルの持つ血命剣で斬られてすぐに塵と化す。しかし、命を持たない毒兵は【魔狩り】の力を恐れない。
無尽蔵に生み出される毒兵達は止まることなくレイヴェルに襲いかかり続ける。ネヴァンの指摘した通り、レイヴェルの力が及ぶのは血命剣の範囲だけ。
少しずつではあるが、拮抗していた状況がクルト達へと傾き始めていた。
『さぁクルトも何を突っ立ってるの。さっさと攻めなさい。この絶好の機会を逃すつもり?』
レイヴェルが守りに徹している今の状況攻めるにはこれ以上ない機会だった。
「っぅ、はぁ、はぁ……わかってる。わかってるから黙っててくれ」
荒く息を吐きながら呼吸を整えるクルト。レイヴェルからの攻撃は受けていないというのに、クルトは明らかに先ほどまでよりも苦しんでいた。
『だいぶきてるわね。でもこの力を使うと言ったのはあなたよ。しっかりやりなさい』
「だからわかってるって言ってるだろ!」
クルトが苦しんでいる理由はネヴァンの『鎧化』の副作用によるものだった。ネヴァンの『鎧化』は他の魔剣とは違い、『鎧化』する際に契約者であるクルトにも悪影響を与えるのだ。だからこそリスクを嫌うクルトはこれまで極力使用を避けてきたのだ。
「あいつは絶対に殺す。僕のこの手で!」
毒兵の処理に手間取っているレイヴェルに攻撃を仕掛けるクルト。
「はぁあああっっ!!」
「っ!」
「ほらほら、さっきまでの勢いがどうしたのさ!」
「魔剣は……」
「え?」
「魔剣は滅ぼす、全て!」
レイヴェルが血命剣を大きく横薙ぎに振ると、剣から衝撃波が放たれ周囲にいた毒兵が一気に消滅する。
間近にいたクルトは咄嗟に近くに毒兵を盾にしたことでなんとか防いだが、後方へ吹き飛ばされてしまった。
「くうっ!?」
「はぁはぁはぁ……」
『驚いた。なんて威力なのかしら。でも無駄な労力だったわね。毒兵は何度倒した所で無限に復活するもの』
ネヴァンのその言葉通り、倒した毒兵は再び復活する。
『今の一撃でずいぶん疲弊したようね。顔色もだいぶ悪くなってるし。そろそろ限界かしら?』
「滅ぼす、魔剣は、全て……」
「はは、ずいぶん弱ってるじゃないか。口調にさっきまでほどの元気がないよ。これでようやく今度こそ君を殺せる」
「そうはさせないからっ!!」
「っ!」
『あら、このタイミングで来るのね』
レイヴェルとクルトの間に割り込んできたのは、それまでずっと潜んで機会を伺っていたクロエだった。
「レイヴェルッ!!」
「っ!?」
「いい加減……目を覚まして!!」
そう言ってクロエは、レイヴェルの手を掴んだ。
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