第174話 拭えぬ違和感

 全身を鎧で覆う【鎧化】。その表面上ならオレの力を余すところなく行き通らせることができる。これでレイヴェルがあの瘴気の領域に入ってもオレの《破壊》の力で無効化することはできる。吸うだけじゃなく、肌に触れる分も全部。

 

『さぁ、見せてちょうだい。あなた達の力を。そのうえで絶望という名の毒の沼に沈めてあげる』

『こっちだって負けないんだから! 行こう、レイヴェル!』

「あぁ!」

『さぁ、迎え撃つわよクルト』

「しょうがないよねぇ。殺らなきゃ殺られるんだから」

「はぁっ!!」

「ふっ!」


 レイヴェルの初撃をクルトは真正面から受け止めた。

 【鎧化】によって今のレイヴェルの力は飛躍的に上昇してる。それなのにこんなに簡単に止めてくるなんて。

 こういうと失礼だけど、ナヨナヨした雰囲気あるから力は大したことないかと思ってたけど……どうやらそんなことは無さそうだ。腐っても魔剣の契約者。並大抵の力じゃ押し切れないか。

 それにオレ達が【鎧化】を使ってるっていうのに、クルトとネヴァンのこの余裕。何か隠してる? 

 ダメだ。現状じゃわからない。でもそれならそれでいい。隠してるなら隠したままにさせて一気に押し切る!

 剣身に破壊の力を流し込む。このままこっちの剣を受け止め続けるなら、剣ごと砕くだけだ。


『っ、クルト!』

「おっと、危ない危ない」


 オレが力を流し込んだことに気づいたのか、クルトは剣を後ろに跳んで距離を取る。

 後少しで剣身をそのまま破壊できたのに。でも後ろに跳んだなら追い打ちをかけるだけだ。


『レイヴェル!』

「あぁ、逃がすもんか!」


 オレの意図をくみ取ってくれたのか、レイヴェルは間髪を入れずにクルトへ追い打ちをかける。

 今のレイヴェルの速さはライアにも負けてない。いや、負けてないなんてレベルじゃない。この【鎧化】した状態ならレイヴェルの速さは音速の壁すら破壊する。


「ちょっ、いくらなんでも速すぎでしょ!」


 相手に攻めさせない。攻撃は最大の防御とは言ったものだと思う。攻撃させる隙を与えなければずっとこっちが優位でいられる。

 レイヴェルの攻撃に対して、クルトは反撃することすらできていない。このまま攻め続ければ行ける。それなのに……どこか違和感が拭えない。

 クルトはどこか時間を稼いでるような気がする。【鎧化】の時間切れを待ってるのか?

 ……いや、考えてる暇なんかない。どっちにしたってこっちが優位なのに変わりはないんだ。瘴気の力も予想通り【鎧化】で無効化できてる。

 ネヴァン……さっきの植物を一瞬で枯らした力。一瞬生気を奪うような力かと思ったけど、あれはそんなんじゃない。あれは腐らせたって感じだった。

 腐らせる能力……いやそれだけじゃ無い気がする。なんにせよ、毒系統の能力だと思ってた方が良さそうだ。

 でも、その手の能力なら直接相手に触れること、もしくはさっきの瘴気みたいに吸わせることが能力のトリガーのはず。

 この【鎧化】した状態なら触れることも吸わせることもできない。それだけでクルト達の攻め手は相当限定されてる。

 いける、このまま押し切れる!


「破剣技——」

『破塵鉄閃!!』

「っ、それをもらうわけにはいかないかなぁ!! 毒創技——」

『毒壁腐城』


 剣がクルトの頭上に迫ったその瞬間、毒々しい紫色をした巨大な壁がレイヴェルとクルトの間に形成される。

 オレとレイヴェルの破剣技はその壁に阻まれてクルト達に届くことなく止められた。


『っ、レイヴェル下がって!』

「溶かしてるのか!」


 毒の壁は剣を止めただけじゃない。剣身をそのまま包み込んで溶かそうとしてきた。

 破壊の力で剣身を纏ってたから大丈夫だったけど……あれ、普通の状態だったらあっという間に……。

 ゾッとするような想像に思わず背筋が凍る。

 

『ネヴァンの能力……やっぱり毒っぽいね。あの溶かすような力もそこから来てるんだと思う』

「毒か……厄介だな」

『大丈夫だよ。私の力があれば毒を防げる。レイヴェルは気にせずに攻めて』


 毒の壁が地面に溶ける。その場所が毒の沼みたいになるおまけつきで。見るからに危険だ。


「へぇ、驚いたな。まさかあの壁にも耐えるなんてね」

『まともに食らったら魔剣でも溶かせるんだけど。あなたの力……相当優秀みたいね。まぁ、優秀なのは能力だけみたいだけど』

『なんですって?』

「クロエ、挑発に乗るな。相手の思うつぼだ。こっちが有利なのは変わらないんだからな」

『わかってるけど……』

「そっちが有利ねぇ。まぁそう思うならそれでもいいんじゃないかな」

「? どういうことだ」

「わからないならそのままでいいんじゃないかな? どうせすぐにわかるだろうし。それに敵にわざわざ手の内を教える馬鹿はいないでしょ? あ、もしかして君達ってその手の馬鹿だったりするのかな」

『ふふふ、ダメよクルト。本当のこと言っちゃ可哀想でしょ』

『む……』


 いちいち癇に障る言い方をするっていうか。それにどこか含みがある。

 

『力押しだけが戦い方じゃないのよ。もっと優雅に、気付いた時にはあなた達は敗北している。そのことを教えてあげましょう』

「ひひっ、楽しみだなぁ。君達の絶望した顔を見るのが」

『よくわからないけど……こっちはいつまでもあなた達に付き合ってるわけにはいかないの。邪魔しないで!』

『悪いけど付き合ってもらうわよ。そして無様な命乞いを聞かせて頂戴』


 

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