第55話 クロエ、二人を疑う
ラミィと里にやってきた次の日の早朝。
オレは寝ぼけ眼をこすりながら出かける準備をしていた。
二日連続での早起きだ。あんまり早起きが好きじゃないオレからしたら相当ツラい……。
「ふぁ~~~っ」
部屋の中で誰も見てないのをいいことに大きな欠伸をする。
この体になってからはだらしない姿は極力晒さないようにしてるけど、誰も見てないから関係ないしな。
それにしても眠い。超眠い。普通ならまだベッドでぬくぬく眠ってる時間なのに。
「それもこれも、ラミィが竜命木を見に行こうって言うからだけど」
昨日の夜のことだ。ラミィが突然見せたい物があるから一緒に竜命木を見に行こうなんて言い出したんだ。
見に行くこと自体は別に良かったんだけど、その見せたいものが朝しか見れないからってこんな早起きする羽目になった。
「うぅ、こんなことなら断れば……いやでもレイヴェルも見てみたいって言ってたし。せっかく誘ってくれたのを断るのも申し訳ないし。仕方ないかぁ。とりあえず目を覚まさないと……よしっ」
気合いを入れるために洗面所で思いっきり冷水を浴びる。
「うひぃ、つめた……」
でもおかげで少し頭が冴えた。
眠たい時は冷水。これに限る。
よし、準備も終わったし目も覚めた。とりあえず下に行ってご飯食べてこよう。
オレが一階に降りると、そこにはもうすでにラミィとレイヴェル、そしてリューエルさんの姿があった。
「あらクロエちゃん、起きてきたのね」
「おはようございます。レイヴェルとラミィもおはよう」
「あぁ、おはようクロエ」
「遅かったじゃない。もう少しで起こしに行くところだったわ」
「そんなに遅かった? 普通に起きたつもりなんだけど。っていうか二人が早すぎるだけでしょ。これでもだいぶ早いと思うんだけど」
「そうよねぇ。この二人が早すぎるのよ。私が起きてきた時にはもう二人とも起きてたんだから」
「え、それじゃあ二人一緒にいたの?」
「私は準備があったから早起きしただけ。別に一緒にいたわけじゃないから」
「……本当に?」
「……本当よ」
オレはラミィの目が一瞬動いたのを見逃さなかった。
何か誤魔化そうとしてる時のラミィの癖だ。
つまり、ラミィは嘘を吐いてる。
「ねぇレイヴェル。ホントにラミィと一緒にいなかったの?」
「え、いや、それは……」
「一緒にいたはずないでしょ! それに、もし一緒にいたからって何があるわけでもないんだから。クロエは気にし過ぎよ」
「うーん……」
二人が何か嘘を吐いてることは確定だけど……うーん。まぁいっか。
別にさらに険悪になってるわけでもなさそうだし。
この二人に限って何かあったなんて心配するだけ無駄そうだ。
「それよりクロエも早くご飯食べなさいよ。もう時間がないんだから」
「はいはい。わかりましたよーっと」
席に並べられてたのは、パンとスープを目玉焼きとサラダ。
ごくありふれた朝食って感じだ。
「……ん。この目玉焼きすごく美味しい」
「そうでしょう? グリフォンの卵を使ってるの」
「グリフォン……はえー、そんな高級品を」
「せっかくクロエちゃんとレイヴェル君がいるんだもの。これくらいの奮発はしてあげる」
「すごく美味しいです!」
「ふふっ、そう言ってくれると嬉しいわ」
グリフォンの卵かー。王都にいた時も滅多に食べれなかったからなー。そんなに気安く手が出るような値段でもなかったし。そもそもあんまり市場に出回らないし。
まさかここで食べれるとは。ちゃんと味わって食べとこう。
「スープはお替りもあるから、欲しかったら言ってちょうだいね」
「はい!」
それからしばらく、急かすラミィを宥めつつオレは朝食に舌鼓をうつのだった。
そして朝食後。家の外ではすでにシエラが待機してた。
「おはようシエラ」
「クゥル」
「あははっ♪ ちょっとくすぐったいよ」
シエラのザラザラとした舌が頬を撫でる。本気で舐められたら頬の肉ごと持ってかれたりするけど、シエラはそこまでバカじゃない。
ちょうどくすぐったい感じだ。うん、機嫌は良さそう。
「行く場所ってあのバカでっかい木の場所なんだろ? ここからでも普通に見えてるけどホントに結界なんて貼ってあるのか?」
「バカでっかい木じゃなくて竜命木よ。他の竜人族に聞かれたら殺されても文句言えないわよあんた」
「えーと、すんません」
「ふんっ。確かにあの竜命木は目には見えてるけど、その周囲には竜命木自身の結界が張り巡らされてる。だから、結界に認められた存在と一緒じゃないと通れない。そして、結界に認められた存在はそれぞれの里の族長と、竜命木自身から生み出される竜だけ。私でも一人じゃたどり着けない」
「はえー、そうなのか」
おや?
「こんな初歩的なこと、誰かに聞く前に自分で調べなさいよ。なんでもかんでも人に聞けば良いと思わないで」
「いやまぁ、確かにそうなんだけど。でも知ってる人に聞いた方が早いのも事実だろ?」
「じゃあ私じゃなくて別の人に聞いて。あんたの質問に答えるの苦痛だから」
「そこまで言わなくていいだろ……」
おやおや?
「ねぇ二人とも」
「なんだ?」
「どうしたの?」
「やっぱりなんか仲良くなってない?」
「なってないわよ!」
うーん、ラミィは否定するけどやっぱりどう見ても、明らかに二人の距離が縮まってる気がする。
だって昨日まではレイヴェルが何を言ってもラミィは知らんぷりだったし。
それが嫌々そうにとは言え、レイヴェルの質問にちゃんと答えるようになってる。
これは……確実に何かあった。オレの知らない所で、二人の距離を多少変えるような何かが。
「怪しい……」
「怪しくない!」
「そうやって全力で否定するとさらに怪しさが増すだけなんだけど」
うーん、これ以上下手につついてもラミィの態度が頑なになるだけだし。
それでまたレイヴェルに対する態度が元に戻っても困るからいっか。さらに仲悪くなられるよりはマシだろってことで。
でも、そうなると一つだけ言っとかないといけないこともある。
「ねぇレイヴェル」
「なんだ?」
「ラミィと仲良くなるのはいいけど、仲良くなりすぎちゃダメだからね?」
「は?」
「それだけ。レイヴェルの相棒は私なんだから」
「???」
「ほら、馬鹿なこと言ってないでさっさと行くわよ。時間が勿体なんだから」
これ以上この話題をひっぱりたくないのか、それとも本当に急いでるのか。
ラミィが早くシエラに乗るように急かしてくる。
「ラミィを怒らせるのも怖いし、行こっか」
「あぁ、そうだな。ちょっとだけ楽しみだ」
「竜命木を間近で見れる機会なんて滅多にないしね。私も久しぶりだし」
「ふふっ、クロエもきっと驚くと思うわよ」
「え?」
「それじゃあ、飛ばして行くわよ。しっかり掴まってなさい!」
「クゥーーーンッ!!」
「あ、安全運転でお願いしまーーーす!!」
そしてシエラに乗ったオレ達は竜命木へと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます