第214話 エルフの森の現状

「うーん、さすがに広いねぇ」


 コメットちゃんを連れて飛行船の中を歩き回る。別に目的地があったわけじゃない。ただ滅多に乗れないから色々見ておきたいってだけだ。

 いわゆる客船みたいな感じだから、色んなものがある。お酒を飲むバーみたいなところもあれば、舞台なんかもある。

 本当はここまでの飛行船に乗るつもりは無かったけど。まぁ色々あって乗れることになったからには楽しまなきゃ損だ。


「クロエ様、本当に楽しそうですわね」

「うん、楽しいよ。だって飛行船なんて滅多に乗らないし。コメットちゃんはよく乗るの?」

「いえ、わたくしも乗るのはイージアに向かう時が初めてでしたわ。ですから本当に驚きましたわ。今の人というのはここまでのものを作りあげていたんですのね」

「ほんと、驚きだよねぇ。少し前までは馬車とかで移動してたのに。技術の進歩ってほんとあっという間だよ」

「長年を生きる魔剣少女ならでは視点というものでしょうか」

「ながねっ……う、ううん。まぁ今更もう否定はしないんだけど……いやでも、それでも否定したい……だって不老だし、別に年取ってるわけじゃないし……」

「何を葛藤されてますの?」

「ちょっと、魔剣ならではの悩みって奴かな……」


 まぁ普通の魔剣はこんなことで悩んだり……しないのかな?

 先輩も似たようなとこあった気がするけど。先輩以外の魔剣とは……あんまりいい思い出ないなぁ。

 あのダーヴもそうだし、ネヴァンもそうだったけど、自分が一番みたいなとこあるし。まともに会話が成立するような感じじゃ無い。それ以外の魔剣も似たようなものだ。

 魔剣少女ってのは誰もかれも一癖も二癖もある奴ばっかりだ。


「やっぱりエルフの国にはこういうの無い?」

「えぇ、ありませんわ。そもそも必要だと思っている人もほとんどいないでしょう。森を切り開くこともよく思ってませんし」

「森を切り開く? そんなことしてるの?」

「えぇ。といっても、一部の若者のエルフ達がやっているだけですけれど。王や長老達は良く思ってませんわ」

「そりゃそうだよ。あの堅物達がそんなの認めるとは思えないし」

「あら、王や長老達のことをご存じですの?」

「まぁ、昔ちょっとね」


 あんまりいい思い出じゃない。というかたぶん嫌われてると思うし。色々無茶したからなぁ。主にキアラと先輩が。オレは悪くない。悪くないったら悪くない。

 って、今はそうじゃなくて。エルフの王様や長老はかなり長生きしてるだけあって、その考えもかなり古くさい。古き良き伝統を守ると言えば聞こえはいいけど、言い換えれば変わり映えしないってことだ。

 しかも長命なだけあって代替わりもほとんどない。だからエルフの森は昔のままだ。サテラはそれが嫌で森を出たらしいけど。

 

「変われば変わるもんだね。まさかそんなエルフ達がいるなんて」

「いくら外界との関わりを絶っていても、完全に遮断することはできませんもの。外に興味を持つものは増えてますわ。そのせいで色々な問題も起きてますけど」

「だろうねぇ」

「長老達はより強く外界との関わりを絶とうとし、情報規制を以前よりも厳しくしています。今では許可を取らなければ森の外に出ることもままなりません。ですが、それに反発する若者達は組織のようなものを形成し反発を強めていますわ」

「まぁ妥当な反応だね。むしろ今まで無かったことが不思議なくらいだけど」

「ですから、正直今わたくしの国に来るのはおすすめできませんわよ?」

「そこは承知の上ってね。嫌われてるのは今更だし。レイヴェルに何かしたら許さないけど」

「そうですわね……魔剣であるあなたをどうこうできるとは思えませんし」

「もちろん。たとえ相手が同じ魔剣相手でもね」

「さすがの自信ですわね」

「そりゃもちろん。レイヴェルがいてくれるなら、私は神様にだって負けない」

「それは……すごいですわね。そんなあなたと一緒にいる彼にも、少しばかり興味が湧きました」

「え?」

「なんでもありませんわ」


 今なんかすごく聞き捨てならないことを言ってた気がするんだけど。


「それで、まだ他にも見回りますの?」

「そうだね。せっかくだからご飯とか食べる? あぁでもそれならレイヴェルもアイアルも一緒に誘いたいし後回しかな。バーなんかは趣味じゃないし。そもそもコメットちゃんはまだお酒飲めない年齢だもんね。そうなるといける場所も必然限られるか。コメットちゃんは何か見たいものある?」

「そうですわね。クロエ様とはならどこへでも! と言いたいところですが……強いて言うならば、これに興味がありますわ」

「えっと……劇場でやってる……大道芸?」

「はい。わたくし、こういうの見たことがないので」

「そうなんだ。でも確かに少し興味あるかも。そんなに長いものでもなさそうだし……よし、それじゃ行ってみよっか!」

「はいっ!」


 そして、オレとコメットちゃんは劇場へと向かうのだった。


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