第213話 アイアルの母親
〈レイヴェル視点〉
今後の予定について話あった後、クロエは飛行船の中を探索してくると行ってコメットと一緒に出て行った。
子供みたいに目をキラキラさせてたからな。ホントにこの飛行船に乗るのを楽しみにしてたんだろう。
「飛行船の何がそんなに楽しいんだか。なぁ、あいつってほんとに親父のダチなんだよな? めちゃくちゃガキっぽいぞ」
「そう言うなって。なんでも楽しめるのはいいことだろ」
ガキっぽいというか、子供っぽいところがあるのは俺も否定しないけどな。年齢的には……って、この話題はダメか。あいつちょっと気にしてる節あるし。
魔剣なんだからそこまで気にすることないだろって思うけどな。その変の感覚は魔剣じゃないとわからないのかもしれない。
実際のところ、俺はあいつがいつから存在してるのかも知らないわけだからな。
「えーと……アイアルは一緒に行かなくて良かったのか?」
部屋にアイアルと二人。なんとなく気まずい空気が流れて声をかける。
俺はお世辞にも雑談が上手い訳じゃ無い。こういう時クロエが居てくれたら助かるんだがな。まぁ泣き言を言っても始まらない。少しずつでも慣れていくしかないのかもしれない。いつまでもクロエに頼るってわけにもいかないだろうからな。
「はぁ? 私にあいつらについて行けってのか? ふざけんな。クロエはともかく、なんでアタシがあの森臭いエルフと一緒に行かなきゃいけねぇんだよ」
「別に一緒に行けとは言ってないんだが……」
ちなみに今回、俺達は全員同室だ。ホントは二部屋取るつもりだったが、その場合の部屋割りでかなり揉めた。
クロエ的には俺がコメットやアイアルと同室になるのは認められないらしく、だからといってコメットとアイアルを一緒にしたら何が起こるかわからないし、何よりそれは二人が全力で拒否した。
クロエ達が三人一緒で、俺が一人部屋という案もでたが、それをするくらいなら四人部屋で構わないというクロエの意見に他の二人も賛同した結果、四人部屋になったわけだ。
正直俺としてはかなり肩身が狭いんだがな。まぁ確かに二部屋取るよりも四人部屋にした方が料金が安く済むのも事実だ。
一応それなりに稼いだとはいえ、まだまだ余裕があるって言えるほどじゃない。節約できるところは節約するに越したこと無いだろう。
「アイアルは飛行船に乗り慣れてたりするのか?」
「んなわけないだろ。これが初めてだよ」
「初めてだったのか!?」
そんな素振り全然見せなかったから気づかなかった。でもそれならなおのこと色々見てきた方が時間を潰せると思うんだが。
「そもそも空を飛ぶってのが嫌なんだよ。なんか落ち着かねぇっつーか」
「その気持ちはわかるけどな。俺もあんまり得意じゃない」
「はっ、クロエに手を握っててもらうくらいだもんな」
「それは忘れてくれ」
クロエに手を握られてると落ち着くのは本当の話だが、さすがに男としてそれはどうなんだと思わなくもない。でもなぁ、高いところはどうしても苦手なんだ。
「ってか、そもそもの話だけど。アタシはまだグリモアに行くことに納得したわけじゃないからな!」
「ここまで来てそれを言われてもな」
「クロエに無理矢理連れてこられたようなもんだ。なんでドワーフのアタシがエルフの国なんかに行かなきゃいけないんだ」
グリモアに行くことが決まってからアイアルはずっとこの調子だ。
「アタシは親父を探しに来ただけなんだ。なのになんでそれでグリモアなんかに行くことになる」
「……正直そのあたりは俺もわからない。詳しい話をクロエから聞いてないからな。でも、あいつはいたずらでこんなことを言う奴じゃ無い。だから信じてやってくれないか?」
「はんっ、ずいぶん信頼してるんだな」
「相棒だからな。俺はいつだってあいつのことを信じてるし、あいつもそうだと思ってる」
「ふぅーん、あっそ」
アイアルはそう言ってそっぽを向く。
これは納得してくれたと思っていいのか? いや、納得というか……いったん文句を言うのをやめてくれたって感じか。
クロエが全部話してくれたら早いんだが。クロエにも考えあってのことだと思うし、今は話してくれるのを待つしかないか。
「なぁ、ところで一つ気になってることがあるんだが、聞いていいか?」
「なんだよ」
「親父さんを探してるってのはわかったけど、お母さんの方はどうなんだ?」
「なんでそんなこと聞くんだよ」
「いや、ちょっと気になったというか」
まずい。地雷踏んだか?
明らかに不機嫌な顔になったぞ。
「……死んだよ」
「え?」
「だから死んだって言ってるだろ。アタシが物心つく前には死んだって親父が言ってた。会ったことも見たこともねぇから、どんな奴かも知らない」
「そう……なのか。悪い。変なこと聞いたみたいだ」
なんとなくそうじゃないかとは思ってたけど。そうか。だから親父さんのこと探してるのか。唯一の家族だから。
「別に謝られることでもないだろ。そもそも母親がいるってどんな感じなのかも知らないしな。今更気になりもしねぇよ」
「……そうか」
なんて返したらいいかわからない。まぁ気にしてないっていうならそういうことにしとくべきだろう。実際のところはどうかわからないが。俺が踏み込んでいいようなことでもない。
なんなとく会話が続かなくなり、沈黙が部屋の中に満ちる。
うーん、どうしたもんか。剣の整備でもしとくか? いちおうクロエからレプリカは預かってるしな。
そんなことを考えてると、不意にアイアルが立ち上がった。
「どこか行くのか?」
「別にどこだっていいだろ。アタシの勝手だ」
「いや、そうかもしれないけど。もしかして俺が変なこと聞いたせいで気を悪くしたか? だったら悪かった」
「そんなこと気にしてねぇって」
「そうか? ならいいんだが。でも、一応どこに行くかだけは言っといてくれると助かるんだが」
「なんでそんなこといちいち言わなきゃいけねぇんだよ」
明らかにイライラしてるアイアル。だが、この時の俺はそのことに気づいていなかった。
「もしクロエ達が戻ってきた時に、アイアルがどこに行ったか知りませんって言うわけにもいかないだろ。せめてどれくらいで戻ってくるかだけでも――」
「トイレだよっ!」
「……え?」
「だから、トイレに行くって行ってんだよ! 何回も言わせるなこの変態!」
アイアルは顔を真っ赤にして肩を怒らせながらトイレの方へと向かって行った。
バンッ、と大きな音を立てて扉が閉まる。
「……やっちまった」
ベッドに倒れ込み、天井を仰ぐ。明らかな失態。女の子に対して今のはまずかった。
でもなぁ、わかるわけねぇだろそんなの。
「早く戻ってきてくれー、クロエ……」
今はいない相棒に向けてそう呟くも、あのテンションじゃしばらくは戻ってこないだろう。
その後、アイアルが戻って来てからの空気がさっきまで以上に悪いものになったのは言うまでもない。
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