第249話 穏やかな昼下がり

 オレ達がパイオンを出て半日ほど経った。アイアルやコメットちゃんが喧嘩することはあったものの、特に大きな問題も無く。まぁ言ってしまえば順調にオレ達はグリモアに近づいていた。

 今日の目的地はグリモアに繋がる森。その入り口付近だ。さすがに森の中で一夜を過ごすのは危ないだろうって判断だ。ましてや夜の森の中なんて移動するのは危険過ぎる。オレ達だけじゃなく、アイアルやコメットちゃんまでいるんだから万全期すべきだ。


「うーん、でも長時間馬に乗ってるとさすがに疲れるね。ちょうど良い時間だし、そろそろお昼にしない?」

「そうだな。よし、アイアル、コメット、この辺りで少し休憩にしよう」

「えぇ、わかりましたわ」

「ちっ、やっと休憩かよ」


 周囲に危険が無いことを確認してから馬を降りる。魔物の気配も無いし、怪しい人影も無い。こっちに意識が向けられてるような気配も無いし。ここなら大丈夫だろう。

 馬に持たせていた荷物を降ろして、その中から弁当とシートを取り出す。シートも弁当もミサラさんが持たせてくれたものだ。

 ホント、何から何までお世話になりっぱなしだ。ミサラさんは手紙を渡してもらうためのお礼を含んでるって言ってたけど、ここまでして貰ったら十分だ。


「うーん、美味しいなぁ。昨日の夜も思ったけど、ミサラさんってホントに料理上手だよね」

「一つ一つが丁寧に作られてるって感じだな。なんていうか、マリアさんの料理に似てる気がする」

「確かに。そう言われるとそうかも。食べると落ち着くっていうか、優しいっていうか。お母さんの味って感じがする」


 まぁオレは魔剣だから母親とかいないんだけど。元の世界にいた時もほとんど料理なんて作ってもらった記憶ないし。

 って待てよ。よく考えたらこの面子って……。

 レイヴェル。子供の頃に両親が亡くなってる。

 アイアル。生まれた時から父親だけ。

 コメットちゃん。小さい頃にサテラが亡くなってる。

 なんかオレものすごく無神経な発言したんじゃなかろうか。


「えっと……」

「どうしたんですの?」

「あー……ちょっと無神経だったかなって思って」

「無神経? なんのことだよ」

「えっと、ほら、みんな今は親がいないわけだし……」

「あぁ、なんだ。そんなことか」

「そんなこと?」


 オレの言葉に、レイヴェル達は顔を見合わせて苦笑する。

 なんで今更そんなこと言ってるんだ、みたいな顔だ。


「別に親がいないのなんて珍しいことじゃないだろ。オレやアイアル、コメットみたいな奴だって珍しいわけじゃないからな」

「そっか……」


あんまり気にしてない……のかな?

 まぁでも確かに言われれば納得だ。オレは前の世界の記憶があるから両親がいるのが普通だ、なんて思ってたけど。フィーリアちゃんだって父親はいない。

 盗賊や魔物が珍しくない世界。親がいない子も珍しいわけじゃないってことか。悲しいけどそれが現実だ。


「今は一人じゃない。それだけで十分だろ」

「そうだね」


 そのままちょっと遅めの昼食を食べ終えたオレ達は、少しだけ腹ごなしに休憩してから再度出発することになった。

 今日は朝から本当に快晴で、お腹もいっぱいになったとなると……こう、気分が良くなるというか。端的に言ってしまえば……眠い。めちゃくちゃ眠い。ここ最近ずっと忙しかったから、こんなゆったりした時間を過ごすのも本当に久しぶりっていうか。


「ふぁあ……」

「クロエ、眠いのか?」

「んー、大丈夫だよぉ」

「明らかに大丈夫な声音じゃないんだが。今のところ特になにもないし、しばらく寝てても大丈夫だぞ。ただ落ちないように気をつけてくれれば」

「大丈夫……まだ大丈夫だから……」

「無理するな。寝れるときは寝とくべきだろ。周囲の警戒は俺がやっとくから。たまには頼ってくれ」

「……ふへへ、うん、わかったぁ」


 あー、なんだろう。このすごく落ち着く感じ。レイヴェルの優しい声音がじんわりと染み渡る。それによってさらに眠気が加速していく。

 そうして気づけばオレは眠りに落ちていった。

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