第250話 襲い来る地中の魔物

「ん……」


 頭がピリつくような感じがして目を覚ます。たぶん、オレの無意識の領域で何かを感じ取ったんだろう。


「レイヴェル」

「あぁ。起きたのか。ゆっくり休めたか?」

「うん。まぁ馬の上だと微妙な気がするけど。でもちょっとは休めたかな。頭もすっきりした気がする。それよりレイヴェル、何か近づいてきてる」

「? 何かだって? でも、何かが近づいて来てるようには見えないぞ」


 確かにこの開けた地形。魔物でも人でも近づいてきてたら一発でわかる。でも、何も近づいてくるのは地上からだけとは限らない。


「違うよ。レイヴェル、地面の下」

「地面の……下? おいまさか!」

「そのまさかだと思う。コメットちゃん、止まって!」

「っ、ど、どうしましたの?」

「魔物が近づいてきてる。たぶん、もう馬の移動する音でこっちの位置を捕捉してるはずだから」

「そ、それじゃあ逆に止まってはいけないのでは? 走って逃げた方が」

「ううん。馬の足じゃあの魔物からは逃げ切れない。だからこうして対処するの」


 オレは馬に括り付けていた荷物の中から、できるだけ重いものを選んで遠くへと放り投げる。

 ボスッという音と共に地面に落ちたその数秒後だった。


「シャアアアアアアアァアアアアッッ!!」


 荷物の落ちた位置から、巨大な魔物が姿を現した。

 土に紛れるような茶色の体。ミミズに似たような姿をしてるけど、その体の大きさは十メートルを優に超える。ヤツメウナギのようなその口は馬など軽く一呑みにしてしまうだろう。

 この魔物の名はサンドワーム。地中に住み、滅多に姿を現さないある意味でレアな魔物。

 まぁあんまり会いたい類いの魔物ではないけど。

 だって……。


「うわぁ出た! 気持ち悪い!!」


 思わず叫ぶ。キモいキモい! めっちゃキモい!

なんかもう見てるだけで鳥肌が立つっていうか。全身テラテラ光ってるし、何か異臭まで漂ってくるし!

一応警戒すべき魔物だってことで図鑑とかでは見たことあったけど、実際に見るとこんなにキモいんだこいつ!

あぁゾワゾワする。こんなのが地中に居るとかシャレになってない。

こういうタイプの魔物は聴覚とかが優れてる代わりに目が退化してる。まぁその聴覚がとんでもないんだけどさ。

今、できるだけ重い物を投げたのも音を誤認させるためだ。頭はあんまり良くないみたいだし。さてと、地中から上手く引きずり出せたはいいけど……。


「やるしかないんだよね」

「そうだな。ここで放置したってまた襲われるだけだ。その度に荷物捨ててくわけにもいかないしな」

「あー、やだなぁ。ゴブリンとかでもまだ若干の嫌悪感はあるのに。いや、剣である私がそんなことで文句言うわけには……あぁでもやっぱり気持ち悪い……」


 オレが出す結論なんて一つだけだ。だけどどうにも踏ん切りがつかない。


「なんだったらレプリカのほうで片付けてきても」

「それは絶対にヤだ! 私が近くにいない状況ならまだしも、こうやって近くにいるのにレプリカ使われるなんて耐えられない!」


 オレにだって魔剣としての矜持がある。たとえ自分のレプリカだってレイヴェルには使わせたくない。そんなの浮気だ。近くにいない時ならギリギリ耐えられるって話なのに。

 レイヴェルは優しいけど、そういう細かい魔剣の気持ちってのをまだわかってない。


「ほら、いくよ! コメットちゃんとアイアルは馬の上から動かないでね」

「わ、わかりましたわ」

「あぁ、わかった」


 初めて見るサンドワームの威容に驚いてるのか、はたまたオレと同じで気持ち悪がってるのか……まぁたぶん両方だろうけど。

 気持ちはわかる。まぁそんな二人とオレの精神安定のために、このサンドワームはサクッと片付けるとしよう。


『よし! 覚悟完了! やっちゃおうレイヴェル!』

「あぁ、やるぞ!」


 今、サンドワームは地上に出てきてる状態。地中に居ないサンドワームなんてサンドバッグも同然だ。

 自慢の速さだって地中に中に居てこそ真価を発揮するのであって、目に見えてる状態じゃそこまで怖くない。

 でも、まずはこっちに注意を向けないと。

 近くにあった岩を破壊して、大きな音を出す。それだけでサンドワームの意識はこっちに向いた。


「シャァアアアアアアッッ!!」


 音でオレとレイヴェルの位置を掴んだサンドワームが大口を開けて地面ごと喰らいながらオレ達のことを呑み込もうと突進してくる。

 近づいてくればくるほどキモさが際立つというか。なんか口の中で触手みたいなのがうねうねしてるし。あんなのに呑み込まれるのなんて死んでもごめんだ。

 だから、絶対に一撃で仕留める。


「行くぞクロエ」

『うん。破剣技――』


 レイヴェルの魔力を吸う。

 そういえばまともに戦うのって意外と久しぶりかもしれない。

 なんかこんな状況だっていうのに嬉しいというか。あぁ、やっぱり好きだなレイヴェルの魔力。際限なく送られてくるレイヴェルの魔力を吸ってると気分が上がるっていうか。剣身が喜んでる感じがする。

 さて、魔力は十分。このサンドワームに恨みはないけどオレ達の前に出てきたのが運の尽き!


『双破烈斬!』


 連続で破壊の力が込められた斬撃を飛ばす。

 その斬撃は地面を破壊しながら大口を開けたサンドワームの口の中へと吸い込まれていき――。


「ッ、ュ、シャァアアアアアアッッ!! シャ……」


 サンドワームの体内で弾けた。

 断末魔の悲鳴を上げたサンドワームの巨躯が倒れ、その動きが止まる。また動き出すような気配はない。あっけないけど、まぁオレの、魔剣の力を使えば魔物相手はこんなもんだ。

 完全に沈黙したのを確認してから人の姿に戻る。


「とりあえずこれで一安心かな」

「そうだな。でも、こんな場所にサンドワームが出るなんて聞いたこともないぞ。こいつらってもっと砂漠とかそっちの方は生息域のはずだろ」

「うん。少なくともこっちのほうでサンドワームが出たなんていうのは聞いたことがないよ。出てたらもっと注意喚起されるはずだし。群れからはぐれた個体にしては育ちすぎだし。考え出したら変な所が多いかも」

「何かの前触れとかじゃないといいんだけどな」

「ちょっと、不吉なこと言わないでよ」

 

 冗談っぽく言うレイヴェル。だけどサンドワームがこんな場所にいるのがおかしいのは事実なわけで。

 ちょっとした引っかかりを残しながらも、オレ達はサンドワームを倒したのだった。

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