第251話 野営地点への到着

 サンドワームの襲撃以降、殊更周囲に警戒しながら進んだオレ達だったが、運良くというか拍子抜けすることにというかその後は特に魔物に襲撃されるようなこともなく今夜の野営地点へと着くことができた。

 

「馬の状態も悪くありませんし、サンドワームに襲われたのは想定外でしたけど、それ以外は概ね予定通りでしたわ」

「うん、正直もっと魔物が出て来るかと思ってたから拍子抜けだけど。まぁ襲われないならそれに越したことはないよね」


 昔に比べて街道なんかも整備されてるから魔物の生息域が変わってるのもあるかもしれないけど、昔キアラ達とグリモアに向かった時はもっと魔物に襲われたりした。この辺りはゴブリンやコボルトはもちろんだけど、オークやオーガもいたはずだし。

 でも全く姿を見なかったっていうのもおかしな気がする。あのサンドワームに住処を追われた? あのサンドワーム、通常の個体に比べてかなり大きかったし。

 でもそれだけじゃ説明がつかないような……。なんだろう。上手く言葉にはできないけど違和感がある。考え過ぎだといいんだけど。


「何か気になることでもあるのか?」

「ちょっとね。レイヴェルは?」

「たぶん考えてることは同じだと思うぞ。一応ここに来る前にグリモアの周辺について調べたりはしたんだが。見聞きした情報と全然違うからな」

「やっぱりそうだよね。気にしすぎだといいんだけど」

「情報に縛られ過ぎるのも良くないからな。とはいえ、頭の片隅くらいには置いとくべきだろう」

「……そうだね。それよりも今はあの子のことなんとかしないと」


 チラッとアイアルの方を見ると、そこには明らかに気分の悪そうな顔で蹲っているアイアルの姿があった。

 まぁ馬に乗ったのが初めてみたいだったし、しょうがないよね。魔剣であるオレすら初めて乗った時は気分が悪くなったくらいだし。あれは思い込みみたいな部分もあったけど。魔剣であるオレが体調を崩すなんてことはまずあり得ないし。疲れることはあるけどさ。

 もし体調が悪いと感じることがあったらそれは大抵思い込みか魔力が足りてないとかそういうのが原因だったりする。まぁ先輩から聞いた話だからどこまでが本当かわからないけどさ。


「大丈夫アイアル?」

「……大丈夫じゃない。吐く」

「結構揺られてたしねー」


 道自体はそこまで悪路ってわけじゃなかったし、こっちはそんなに揺られることはなかったからコメットちゃんがわざとやった説はあるけどそれは言わないでおこう。


「とりあえず気分良くなるまで休んでていいよ。その間に設営済ませちゃうから」

「アタシも手伝う」

「そんなあからさまに体調悪いですって人を手伝わせられないってば」

「違う。ジッとしてるより動いてた方が気が紛れる」

「大人しくしといた方が良いと思うけど。まぁアイアルがそう言うならいいか。それじゃあ私の手伝いをしてもらおうかな」

「わかった」


 具合の悪そうなアイアルを支えながら森の方へと向かう。目的は木の枝を集めるためだ。

 一応火をつけるための道具は持って来てるんだけど、燃やし続けるための木材は用意してなかった。荷物をあんまり多くしないためっていうのと、どうせ森の近くなんだからそこで手に入れれば良いと思ったからだ。

 まだ森の入り口の方だって言うのに、森の中はすでに薄暗くなっていた。もちろんまだ日も落ちてない時間だ。もうすぐ夕方で、そうなったら一気に暗くなるだろうけど。


「大きいのは斬っちゃうから、枝は適当に集めちゃっていいよ」

「どれくらい集めるんだ?」

「うーん、まぁできるだけいっぱい?」

「アバウトだな」

「あればあるだけいいんだけどね。まぁ明日の朝まで保てばいいから。足下には気をつけてね。もう暗くなってるから」

「んなこと言われなくても――ってわぁ!」

「あっ、もうほら。だから言ったのに」

「あ……ありがと」


 転びかけたアイアルのことを慌てて支える。やっぱりまだ体調悪いのかな。

 薄暗いから顔色はわかりづらいけど、まだ完全に体調が戻ってる感じでも無いし。


「なぁクロエ。ここってもうエルフの森なんだよな」

「そうだね。この森をずーっとまっすぐ行って抜けた先の先にあるのがドワーフの国だよ。アイアルはこの森に入るのは初めて?」

「あぁ。エルフなんかとは関わりたくなかったし。用事も無かったからな。ただ親父がたまにこっちの森の方に来てたみたいだから」

「……そっか。まぁアルマらしいかな」

「どういうことだ?」

「なんでもない。ほらあ、ぱっぱと集めないと日が暮れちゃうよ」


 それ以上のことは何も言わず、オレとアイアルはしばらく枝を集め続けた。


「うん、とりあえずこれだけ集めたら十分かな。それじゃあ野営地点まで戻ろうか」

「結構重いんだけど」

「頑張って。私だってけっこう持ってるんだから――ん?」


 不意に森の奥の方から視線を感じて目を向ける。でも、そこには誰も居なかった。

 一瞬感じた視線ももう感じない。気のせい……だったのかな。サンドワームのこともあったから気にしすぎだったかも。


「どうしたんだ?」

「……ううん、なんでもない」


 結局視線については考えすぎだと思うことにして、オレとアイアルは野営地点へと戻った。

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