第97話 獣人族と竜人族
〈レイヴェル視点〉
フェティを情報収集に送り出た後、俺達はあらためて大通りの方へと戻って来ていた。
と言っても、特に目的があるわけでもない。
今はどこか休憩できそうな場所を探してブラブラと歩いてるだけだった。
「あぁ、ちょっと話しただけなのに疲れたぁ……ロゼと会うと毎回こうだから会いたくても会う気にならないんだよねぇ」
「それはご苦労さんと言いたいところだが……正直なところ途中から完全に置いてけぼりだったけどな。話についてくだけで精一杯だった」
「あはは……ごめんごめん。まぁそこは久しぶりの旧友との再会だってことで大目に見て欲しいな」
「別にとやかく言うつもりはないけどな。でもびっくりはしたぞ。あんな知り合いがいるなんて思ってもなかったからな。化猫族……だったか? そんな種族までいるんだな」
「幻獣人族。普通の獣人とは違うルーツ……どっちかっていうと竜人族に近いと思うけど」
「あ、そう言えば……気にはなったんだが、竜人族は獣人族に含まれないんだな」
「っ!?」
何気なく言った一言。
だがその反応は想像以上だった。
急にキョロキョロと周囲を見渡し、周囲の反応を確かめてる。
そんな反応する理由がわからないんだが……もしかして俺何かマズいことでも言ったのか?
「レイヴェル、ちょっとこっち!」
「お、おう」
若干焦った様子のクロエに建物の陰に引きずり込まれる。
「レイヴェル、それ絶対他の獣人族の人の前で言っちゃダメだからね」
「え、なんでだ?」
「うーん……まぁレイヴェルが知らないのも無理はないかもしれないけど。竜人族と獣人族はすっごく仲が悪いの。それこそエルフ族とドワーフ族と同じくらいに」
「そ、そうだったのか?」
「うん。きっかけはもう何十年も前の話になるんだけどね。レイヴェルは前に竜人族の里に行ったことがあるからわかると思うけど、竜人族って異常なくらいにプライドが高いの。他種族よりも優れてるって思ってるから。ラミィとリューエルさんだけ見てるとそんな感じしないかもしれないけど。でも、あのドヴェイルって人を見てたらわかるでしょ。あの人は極端だけど、竜人族は潜在的にそう思ってる所がある。ラミィですら最初はそうだったくらいだから」
「なるほどな……」
「で、竜人族と獣人族の話に戻るけど。とある時に、どの獣人族が言い出したかなんてもうわからないけど、竜人族も獣人族のに加えていいんじゃないか、なんて言い出したことがあったの。そしたらそれはもう竜人族が怒って怒って……『我らを下等な獣風情と同列に扱うつもりか』なんて言っちゃったらしくてさ」
「なるほどな……なんとなく読めた」
竜人族のプライドが高いってのはなんとなくわかる。あの里に行った時もなんとなくそんな雰囲気感じたし。
なんていうか、人族のくせに、みたいな。
ラミィがいたからそこまででもなかったんだろうけど、もしいなかったら悲惨なことになってただろうな。他の冒険者が里の中に入れなかったのがなによりの証拠だろう。
でもいくら獣人族だって、そんな風に言われたら黙ってはいられないんだろう。
そうなると、そこから起こるのは……。
「たぶんレイヴェルの想像してる通りだよ。獣人族の連合部隊と、竜人族の正面切ってのぶつかり合い。もう戦争って呼んでもいいくらいの戦いだったみたい。竜人族は能力に優れてるけど、獣人族にも戦闘に秀でた種族がいるし、何より数が多い。どっちかが滅ぶんじゃないかってくらいにまで発展しかけたんだけど……とある魔剣使いが双方の仲裁……というか、戦場に乗りこんで実力行使で止めたみたいでね。その結果として戦いは終わったってわけ。でもその一件がきっかけで竜人族と獣人族の関係は最悪って言ってもいいくらいにまで冷え込んでるってわけ」
「なるほどなぁ。だからさっきあんなに焦ったってわけか」
「そういうこと。もう何十年も前の話になるとはいえ、いまだに根深い問題だから。獣人族の前で竜人族の話してもあんまりいい顔はされないんだよね。逆も同じだけど」
イージアにいた時にはあんまりわからなった問題って感じだな。
そもそもセイレン王国には竜人族がほとんどいないってのもあるんだろうけど。
確かにクロエの言う通りだ。気を付けないとまずいことだったか。
「ありがとなクロエ。おかげでマズいことにならなくてすんだ」
「ううん。これくらいの危機管理は相棒として当然だから。まぁ本音を言うならこれくらいのことは知っといて欲しかったけど」
「それは悪いとしか言えないな。知識不足なのはこれからなんとかするから勘弁してくれ」
「ふふ、今後の課題ってやつだね。ちなみに補足にはなるんだけど、その竜人族との一件がケルノス連合を作るきっかけの一つにもなってるらしいよ。詳しいことはカムイから聞かないとわからないけど。だからまぁ……なんていうか、悪いことばっかりじゃなかったって感じかな」
「なるほどな。勉強になった」
「ううん、気にしないで。さて、それじゃあレイヴェルがまた一つ賢くなったところで——」
クゥ~、と可愛らしい音が唐突に鳴り響く。
その発生源は俺ではなく……。
「み、見ないで!」
「いや、別に恥ずかしがることじゃ」
「何もなかったから! 別にお腹鳴らしてなんてないからぁ!」
いや、そんな顔を真っ赤にして否定しても説得力は全くないわけなんだが。
でもこれはあれだ。あんまり聡くない俺でもわかる。
触れてはいけないってことだ。
そういうことなんだろう。
「あー、うん、そうだな。何も聞こえなかった。俺は何も聞いてない」
「そ、そう? ならいいんだけど」
「なぁクロエ。それよりもオレ少し腹が減ったんだけど、どっかでなんか食わないか?」
「っ! そうだね。確かにちょっとお腹空いたかも。レイヴェルがお腹空いてるっていうなら何か食べに行こうか」
「あぁ、そうしようぜ」
これでなんとか誤魔化せたか。いや、誤魔化せたってこの場にいるの俺とクロエだけなんだけどな。
「何か食べたいものある?」
「何かって言われてもなぁ。色々ありすぎて迷うっていうか」
「幼虫丼とかあったりするけど」
「なんだよそれ?!」
「色んな種類の幼虫を集めて揚げて作った丼だよ」
「そのまんまの意味なんだな」
「うん。まぁ案外いけるんだけどね」
「食ったことあるのかよ!」
「食は何事も挑戦ってね。大丈夫。怖いのは最初だけだから」
「俺にはまだその勇気はねぇよ」
「あはは、だよねー。ま、それじゃあ別の所行こっか。実はさっき見て回ってた時ちょっと気になったお店があったんだよねー」
「ちなみにその店は虫料理は……」
「…………(ニコッ)」
「おい、その笑顔の理由はなんだ! あるのか! 虫料理あるのか!」
クロエは何も答えようとせず、俺は不安に駆られながらも引っ張られるままでに店へと向かうのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます