第43話 クロエ流喧嘩の仕方

 最初に仕掛けてきたのは、三人の中で一番背の高い男だった。長身を生かして上から殴りかかって来る。

 普段のオレなら避けれるような攻撃じゃないけど、今のオレなら問題ない。さっき男を殴り飛ばした時もそうだけど、こんな時のためにオレはレイヴェルから事前に魔力を貰ってたんだ。

 魔力を得た状態なら、こんな男共なんてへでもない。余裕だ。


「うおりゃあああああっっ!!」

「ふんっ!」

「うおっ!?」


 殴りかかってきた男の手をそのまま掴み取って一本背負いをするように投げ飛ばす。

 って言っても、オレに柔道の心得があるわけじゃないから、完全に力業だ。

 自分よりずっと小さい奴に投げ飛ばされるのはかなりの屈辱のはずだ。

 

「くそ、てめぇ!」


 今度は小太りの小柄な男。

 っていうかさっきの見てなかったのか? 同じように無策で殴りかかってきても殴り飛ばされるだけなのに。

 もしかしてこいつらバカなのか?


「そいやっ!」


 近づいてきた小太りの男の足を払って、一瞬その身を空中に浮かせる。そしてそのまま襟首を掴んでさっきの男と同じ場所に放り投げた。


「ぐぇっ! お、おいドグラ! てめぇ重いんだよ!」

「うるせぇ、バラジダス! お前こそあっさり投げられてんじゃねぇよ!」

「お前も人の事言えねぇだろうが!」


 えーと、のっぽの名前がバラジダスで小太りの名前がドグラか。まぁ別に覚える必要もないんだけど。

 なんかオレのことほって勝手に言い合い始めてるけど、もう終わりでいいのか?

 と思ってたら、最後の一人。一番最初に殴り飛ばした男がバラジダスとドグラの所に行って怒鳴り始めた。

 うーん、あの感じだとあの男がリーダーなのか? なんか二人とも急に喧嘩止めたし。

 あー、そのままうやむやで終わったら楽だったのに。まだやる気だよなぁ。

 そりゃそうか。大人で、で、ましてや先輩冒険者が生意気な小娘にいいようにされたまま終われないってことだ。

 それくらいのプライドはあるらしい。まぁ、ナンパするだけならまだしも人の相棒のことを馬鹿にする時点でたかが知れてるってもんだけど。


「おいてめぇら。ここまで小娘に舐められたんじゃもう我慢ならねぇ。俺達に逆らったこと後悔させてやる」

「で、でもどうすんだよサガン。あいつ無茶苦茶な腕力してんぞ。下手に近づいたってまた投げ飛ばされるだけだ」

「んなもん決まってんだろ。こうなったらどんな手段でも使う。どんな手段でも、だ」

「それって……」

「あぁ、そういうことだ」

「へへ、わかった。やってやる。泣いて詫びさせてやる」

「まだやる気ですか?」

「当たり前だろ。素直に俺達についてこなかったこと後悔させてやる。やれドグラ、バラジダス!」

「おう! ちょっと痛い目みてもらうぞガキが!」

「終わりだ!」


 ドグラが手を前に突き出して……って、あれまさか魔法使うつもりか!?

 こんなギルドの中で。馬鹿だ馬鹿だとは思ってたけど、正真正銘の馬鹿だろあいつら!

 当たり前のことだけど、屋内での攻撃魔法の使用なんて厳禁だ。初級の魔法だってそこそこの威力があるのに、そんなのを屋内で撃ったりしたらどれほどの被害が出るか。子供でも少し考えればわかることだ。

 周囲で面白げに見てた奴らも、さすがに二人が魔法を行使しようとしてるのを見て顔色を変えた。

 この位置で魔法を撃たれたらオレだけじゃない。他の冒険者に被害が出ることも明らかだ。そんなこともわかんないのかこいつらは!

 

「このバカ共!」


 思わず素の声が出る。

 魔法はすでに構築済み。あそこまで来たら自分の意思でもキャンセルできない。つまり、あれは脅しでもなんでもない本気ってことだ。

 やるしかない!

 オレは魔法を撃とうとしている二人に向けて突き出す。

 実際にやったことはないけど、オレの力ならできるはず! っていうかできる!

 オレは最強の魔剣なんだからな!


「破壊!!」

「「っ?!」」


 その次の瞬間、まさに放たれる寸前だった二つの魔法が同時に霧散霧消する。

 ドグラとバラジダスは魔法が突然消えたことに驚きを隠せないでいた。

 そしてそれは、他の冒険者も同じだった。


「おい、あいつ今何したんだよ!」

「わかんねぇよ! なんで急に魔法が消えたんだ?」

「今のあれ……もしかしてアンチマジックじゃない!?」

「アンチマジックって、宮廷魔導士レベルの魔法じゃねぇか! なんでそんな魔法使えんだよ!」

 

 う、やば。なんか変に目だったかも。喧嘩吹っ掛けた時点で今さらだけどさ。

 でもアンチマジックとか勘違いしてくれてるから大丈夫かな。

 実際の所はただ単にオレの力で魔法を根本から破壊しただけなんだけど。


「アンチマジックだと!? くそ、こうなったら!」


 サガンが腰の剣を抜いて斬りかかって来る。

 マジでもう完全に頭に血がのぼってるな。こんな所で人殺しなんかしたらいくらなんでも憲兵がやってくるってのに。


「魔法使いなら接近戦はできねぇだろ! 痛い程度じゃ済まさねぇぞ!」

「はぁもう……破壊っ!」


 振り下ろされた剣に人差し指を添える。それだけで剣身がボロボロと砂のように崩れ去った。まぁそりゃ破壊したんだからそうなるのは当たり前なんだけど。


「なっ!? ミスリルの剣が……テメェ何しやがった!」

「さぁ、なんでしょう? でもいいんですか? そんな隙だらけの恰好で」

「っ!」


 サガンが動揺してる隙にオレは懐に潜り込む。

 普通なら殴ればいいんだけど……このままの勢いで殴るとこいつの体を破壊することになるかな。それは嫌かも。

 まぁでも、ちょっとは痛い目見てもらおうかな。


「ふっ、ほっ、はっ!」


 ふっ、でサガンの足を払って。ほっ、で宙に浮いたサガンの体を掴む。最後にはっ、でドグラとバラジダスに向けてサガンを投げ飛ばす。

 二人はサガンの体を受け止められずに下敷きになる。


「ぐっ、う……っ! お、俺の防具が!」


 投げ飛ばされた痛みに顔を顰めながら体を起こしたサガンは、自分の身に着けていた防具が壊れていることに驚きの表情を浮かべる。

 はいそうです、もちろんオレが壊しました。投げ飛ばす時についでにね。

 剣と防具。冒険者にとって必需品とも言える二つだ。でも両方修理もできないくらいに壊した。作り直すにしても何にしても相当お金がかかるはずだ。

 二つともやたら高そうだったし。それに剣や防具は冒険者として築き上げてきた成果の象徴でもある。高価な剣や防具はその時間の証だ。

 それを壊されることほど屈辱的なことはない。


「今の剣を壊したのってあれも魔法か?」

「剣を壊すって、何の魔法ならできんだよ」

「え、わ、私に来てるの? そ、そうね。物を分解するマテリアルブレイクって魔法ならあるけど……アンチマジックも使えてマテリアルブレイクも使えるなんて、そんな魔法使い聞いたことないわ」


 やばい。またなんか騒いでる。まぁいいや。私の力を示せればそれだけで他の冒険者に対する牽制にはなるだろうし。

 最悪魔剣だってことさえバレなければ良しとしよう。


「まだこれ以上やりますか? もしやるって言うなら、私も加減はしませんよ」

「ぐ……」


 自分よりもはるかに年下の小娘に、しかも観衆がいる前で恥をかかされる。これほど屈辱的なこともないだろう。

 まぁ実際はオレの方がずっと年上……いや、オレは十七歳。永遠の十七歳だから。

 三人は顔を真っ赤にしながらオレのことを睨みつけてる。

 さぁこれで引くかどうか。

 そんなことを考えてたその時だった。


「何の騒ぎだ」


 オレ達の騒ぎに気付いたのか、イグニドさんがレイヴェルと一緒にロビーへとやって来た。

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