第281話 王族の事情

 王に会うと言っても、本来であればそれはそう簡単に叶う事では無い。だが今のグリモアの現状とコメットの立場を考えれば決して不可能では無かった。


「これもまたこの国の現状が生み出した歪みってわけか」

「えぇ、そうとも言えるかもしれませんわね」

「いつまでもうだうだ言ってたってしょうがないだろ。ほら、シャキッとしろよ。お前らがそんな調子だと上手くいくものもいかないんだからな」


 この国の現状。それは簡単に言ってしまえば、王の立場が長老達よりも軽んじられているということである。

 本来であれば王が頂点に立ち、その下に長老達。長老達はあくまで王を支える立場に過ぎず、国としての意思決定は王が行うべきものだ。しかし、今の現状は違う。この国の指揮系統は全て長老達に握られている。軍への指示権すらも奪われている。

 言わば今のこの国にとって王とは傀儡。それがこの国の実情であり、変えようの無い現実だった。エルフの国民達にとってもそれは周知の事実だった。


「他人事だと思いやがって……」

「ですがここまで来た以上仕方ありません。わたし達もやれることはやりましょう」


 皮肉なことにと言うべきか、王の立場が軽んじられているからこそ他国に比べて王と会うためのハードルが低くなっている。コメットが夜に外出できてしまうのもその辺りが理由だ。だがだからこそ、コメットさえいれば王に会える可能性は非常に高かった。

 今、レイヴェル達は王城へとやってきていた。王城とは言っても、世間一般で見られるような城の造りはしていない。周囲にある木々を利用しており、そしてさらにその城の一部は聖天樹サルヴェとも繋がっている状態だった。


「なんていうか……この国に来た時にも思ったけど、間近で見ると凄まじい迫力だな」

「聖天樹サルヴェ。この国の象徴とも言える大樹ですもの。当然ですわ。世界で一番大きな樹であるとも言われてますわね。この世が創造された時から存在しているとか。まぁ、その真偽はわかりませんけれど」

「これ見るとあながち嘘じゃないんじゃないかって思うけどな。とりあえずここがコメットの実家でもあるってわけだ。長老達はこの城には居ないんだよな」

「えぇ。長老達はそれぞれ自分の支配している地域がありますから。そこを拠点としてしますわ。もちろんこの城の中にも長老達の目はあるのですけど」

「えっと……とりあえず、俺達はこの中に入って大丈夫なのか?」

「わたくしと一緒にいれば大丈夫なはずですわ。近衛の者達には色々と言われるかもしれませんが、どうか気にせずわたくしに任せておいてください」

「わかった。とりあえず頼りにさせてもらう。で、王に会った後のことはどうするか考えてるんだよなクロエ」

『うん。まぁ考えてるというか。向こうが忘れてなければだけど。ま、大丈夫だと思うけどね』

「?」

『こっちの話。でも、会うまでの過程はレイヴェル達に任せるしかないから頑張ってね』

「頑張れでどうにかなることだとも思えないけどな。まぁできることはやるさ」

「ではついて来てくださいな。あなたも、城内ではいつもの言動は控えることですわ」

「それくらいの分別はついてるっての。とりあえずアタシはこいつの妹って立場でいりゃいいんだろ。ま、アタシは基本的に黙っとくつもりだしすることないだろ」

「そうですわね。むしろ何かされる方が邪魔になりかねませんわ」

「お前はいちいち一言余計なんだよ」

「あなたに言われたくありませんわ」


 こんな状況でもいつも通りの二人にレイヴェルは思わず笑みを浮かべ、少しだけ緊張がほぐれる。

 そしてレイヴェル達はそのまま王城の中へと足を踏み入れた。

 幸いなことにと言うべきか、門兵達はコメットの姿を見て中へと入れてくれた。見慣れない存在であるレイヴェル達を睨んではいたが、何も言ってくることはなく、持ち物を検められるようなことも無かった。

 王城の中はかなり広く、以前にレイヴェルが見たケルノス連合国の王城ほどでは無いにしろ華美な装飾が至るところに施されていた。

 

(それにしても……ずいぶんと慌ただしいな。やっぱり今日仕掛けること原因か? そのせいでこっちにかまけてる余裕が無いってところか。まぁそれもこっちには好都合だな。あんまり警戒されても動きにくくなるだけだ)


 レイヴェルがそんなことを考えていたその時だった。


「お待ちください。どちらへ行かれようとしているので?」


 レイヴェル達の前に姿を現したのは近衛隊の隊長であるカームだった。

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