第280話 王に会うために

 翌朝。クロエ達はいつもよりも早く起きて準備を進めていた。

 目的はもちろんコメットの叔父にして、この国の王であるウィルダー王に会うためだ。

 準備を進めるのはクロエとアイアルだ。キュウもクロエを手伝おうとしているのか、せっせと荷物をくわえて運んでいる。

 

「ほら、二人も早く準備進めないと。のんびりしてる暇はないよ」

「ボサッとしてんじゃねぇよ。さっさと準備しろよな」

「それはわかってるんだけどな……はぁ」

「さすがにちょっと憂鬱ですわ」


 やる気に満ちている二人に反して、あまり乗り気ではないのがレイヴェルとコメットだ。

 二人ともやらなければいけないことはわかっている。しかしそれでもこれから確実に起きるであろう修羅場のことを考えると気が重くならずにはいられなかった。

 





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 それは昨夜のこと。

 レジスタンスの拠点から帰ってきたクロエ達はアイアルのコメットの二人に何があったのか、何を知ったのかを伝えた。もちろんその中にはアイアルの父親であるアルマの情報も含まれている。


「親父がこの国にいるのか!」


 クロエからアルマに会ったという話を聞いた途端、アイアルはすぐさま宿を飛び出してアルマを探しに行こうとした。しかしクロエがそんなアイアルの手を掴んで止める。


「無駄だよ。あの様子じゃ今のアルマはアイアルには会わないと思う。アルマに頑固な所があるのはわかってるでしょ」

「それはわかってるけど、だけど!」

「気持ちはわかるけど。でもだからこそ落ち着いてって言ってるの」


 アイアルにとっては唯一の肉親。アルマのことを探すためだけにアイアルはこの国までやって来たのだ。今すぐにでも飛び出して会いに行きたいというアイアルの気持ちは痛いほどよくわかった。


「私が、私達が絶対にアルマをアイアルの前に連れてくる。約束する。だから今はどうか話を聞いて欲しいの」

「……わかった」


 探しに行きたい気持ちが無くなったわけではない。だがそれでもアイアルはクロエの言葉を信じることにした。

 そして続いて口を開いたのはコメットだ。


「でも、本当ですの? そのアルマという方がドワーフの国の至宝を元にしたゴーレムをレジスタンス側に提供したというのは」

「あんなゴーレムを作れる技術はこの国にはないはずだし、間違い無いと思うよ」

「…………」


 コメットの表情が曇る。それも仕方の無いことだろう。驚異的な殺戮兵器の存在を知らされてしまったのだから。それがどれほどの被害ももたらすのかなど考えたくもないだろう。


「二人とも、それぞれ思う所があるのはわかってる。でも、だからこそ今は協力しあってなんとかするしかないの。だからどうか二人の力を貸して欲しい」

「……アタシは元々親父に会うためにここまで来たんだ。そのためにこんな姿にまでなったんだし。やれることならやってやる」

「わたくしもですわ。無用な血が流れるのは回避したいですもの」

「ありがとう二人とも」

「でもどうしますの? 両者とも聞く耳を持ってくれない以上、事前に止めるのはほとんど不可能ですわ」

「そうだね。どっちも求めてるのは相手の殲滅っぽいし。でもだからこそ、どっちにも属さない、なおかつ権力のある存在に動いてもらうしかない」

「っ、それはもしかして」

「うん。コメットちゃんの叔父さんにして現王、ウィルダー王だよ」

「ですがそれはあまりにも無茶ですわ。この状況で叔父様がわたくしに会おうとするわけが……それに、こう言ってはなんですが叔父様は長老達側ですわ。今も昔もずっと」

「そうだね。でも一枚岩じゃない。ウィルダー王は長老達の傀儡であることに不満を持ってる。そうでしょ?」

「確かにそれはそうかもしれませんけれど」

「本来なら王の立場はもっと強いものでなければいけない。それなのに今現状この国を支配してるのは長老達。国民もいつしかそれが当たり前だと思うようになって、王の立場はただの飾りとなった。それで納得できるはずがないし。だからこそ私達にとっての最後の希望にもなり得る。ま、私からしたらちょっと皮肉な話なんだけど」

「?」

「あぁごめん。こっちの話。問題は私達がどうやってウィルダー王と会う機会を作るかってことだったんだけど……そこは二人の関係をねつ造してたのが役に立った、というか役立てよう」


 そして、クロエは考えた作戦をみんなに伝えた。

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