第192話 最初の旅仲間

 その後の流れはあっという間だった。

 ハル達がいなくなった後に、入れ代わるようにライアやリオさん達、そしてフェティが精霊の森の前までやって来た。

 レイヴェルがライア達にこの場で起きたことを説明している間、オレの頭の中はハル達のことをでいっぱいだった。

 なによりもハルが最後に言った言葉……『キアラを取り戻す』。その意味を頭の中で考え続ける。言葉通りの意味だとしたら……そんなのあり得ない!

 だってキアラは、あいつはあの時絶対に……。

 ハルだって、生きてたならどうしていなくなったんだよ。あんなに必死に探したのに。

 あぁもう、わけがわからない! 

 頭の中がぐちゃぐちゃで、わからないことだらけで叫びたくなる。


「おいクロエ」

「っ、レイヴェル……」

「その……大丈夫か?」

「……ごめん、ちょっと大丈夫とは言えないかも」

「そうか。そうだよな。その……さっきの奴は?」

「ハルのことだよね」


 そりゃ気になるよな。というか気にならないはずがない。

 いきなり現れて、あれだけの敵意を向けてきたんだから。正直オレも何がなんだかわかってないけど。


「ハルミチ……ハルは、なんとなくもうわかってると思うけど、私の昔の旅仲間なんだ。私とキアラとハルの三人で始めた旅」


 ラミィやファーラ達、他のみんなと会うよりも早く出会った。共通点も何も無かったオレ達が、たまたま出会って意気投合したことから始まった旅。


『ハル、私は右の道に行くべきだと思うんだけどどう思う? 私の予想は絶対当たるから』

『いやいや前もそう言ってキアラのその案に乗って結局迷ったでしょ。今回は絶対に左の道だから。ね、ハル?』

『なんでそこで俺に振るんだよ……あ、そうだ。間をとってこのまままっすぐ進むってのはどうだ?』

『『それはない』』

『なんでそこだけ息ぴったしなんだよお前らは!!』


 よく意見が分かれたオレとキアラをハルはまとめてくれた。

 戦うのが苦手だったオレ達に代わって魔物と戦ってくれたし、みんなの仲を取り持ってくれて、一緒に悩んで一緒に笑って、楽しいことも辛いことも一緒に経験してきた。


「キアラが私達の中心だったとしたら、ハルは私達の重心だった。そんなかけがえのない仲間だった。あんな風に殺意を向けてくるような人じゃなかったのに」


 あまりの変わりように言葉を失ってしまったのも事実だ。オレの知ってるハルと今のハルがあまりにも違い過ぎて。


「なんであんな風になっちゃったんだろ」

「そうか。その……なんて言ったらいいかわからないけど」

「キュー……」

「ごめんね、気を使わせちゃって。大丈夫、もうちょっとしたらちゃんと切り替えるから」


 そうだ。いつまでもハルのことを引きずってるわけにもいかない。『月天宝』が奪われて、精霊の森が襲われて、コルヴァまで攫われた。

 ちゃんとしないと。


「キュー」

「キュウも心配してくれてるの? ありがとう」

「どっちかっていうと、無理するな、だろ。俺も同じ意見だ」

「え?」

「ファーラさん達のこともそうだけど、仲間にあんなこと言われて平気なわけないだろ」

「っ……」


 最後の瞬間のハルの言葉を思い出す。


『邪魔をするならお前でも容赦しない』


 あの時のハルの目、本気だった。本気でオレが邪魔したら排除するって、そう言ってた。

 一緒に旅をしてた間にも見たことがないくらい冷たい目だった。


「俺が代わりになるなんてことは言えないけど。相棒として支えることはできるんだ。こういう時くらいちゃんと頼ってくれ」

「そうだね。そうだった。ありがとうレイヴェル」

「キュー!」

「キュウが自分のことも頼ってくれだとよ」

「ふふ、そうだね。キュウもありがとう」

「キュ♪」


 完全にではないけど、少しだけ心が軽くなる。そうだ、今のオレはもう一人じゃない。

 今はもうレイヴェルがいてくれるんだ。


「そういえば、あの魔剣の子は知ってるのか?」

「あの白い子だよね。ハクアって呼ばれてたけど……あの子のことは私もわからない。ただ、半端じゃない力を感じたけど」

「あぁ、俺もだ」


 ハルが魔剣と契約してたって言うのも驚きだけど、あのハクアって子、とんでもない力を秘めてる気がした。

 それにあの子の姿を見た時、妙に胸がざわついたというか。既視感じゃないけど、それに近しい感覚があった。

 

「はぁ、ダメだな。色んなことがあり過ぎて処理が追い付かないというか」

「そうだね。私も一緒だよ。なんにしてもわからないことが多すぎるし」

「お二人とも、大丈夫でしたか?」

「フェティ、こっちは見ての通りだけど。そっちは大丈夫だったの?」

「まぁ少々手こずりましたが。特に問題はありませんでした。主に彼女達のおかげですが」

「そう。やっぱり上級冒険者ってすごいんだね」

「あの人たちは特別だと思うけどな。それで、どうかしたのか? 一応こっちの状況はさっき全部伝えたはずだけど」


 ライアさん達はさっきからせわしなく動き続けてる。ハル達がいなくなった場所を調べて何か痕跡が残ってないかを確認してるみたいだ。

 さっきまでフェティもそれを手伝ってたはずなんだけど。


「その、先ほど師匠からの使い魔が来まして、私達にメッセージを送ってきました」

「メッセージ?」

「はい、その……ファーラさん達のことについて話があるそうです」

「「っ!」」


 ロゼからの話か。ロゼのことだからたぶんハルのことについても知ってるんだろうけど……。


「知りたければ来るといいって。どうしますか?」


 レイヴェルと顔を見合わせる。もちろん答えは一つだ。


「もちろん行くよ。私の知らないことを知るためにも」

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