第2話 百と一年後
それから時間は一気に飛び、百と一年後。
「いらっしゃいませー! お一人でよろしいですか?」
オレは、とある王国の料理屋でウェイトレスをしていた。
「よう、クロエちゃん。今日も元気だな」
「あ、ゴーズさん。今日も来てくれたんですね」
「おう、クロエちゃんに会いたかったからな。どうだ? 今度デートでも」
「ダメです~。そんなこと言ってると、また奥さんに言いつけちゃいますよ?」
「はは! そいつは勘弁だ。それじゃとりあえずいつもので頼むよ」
「はーい♪」
この店で働くようになって一年。もう常連と言えるお客さんも増えた。
今のゴーズさんみたいに、オレ目当てでやってくるお客さんも少なくない。
なぜかって?
そりゃオレが美少女だからだ。それも超がつくほどのな! オレはこの世界に来て男から女になった。より正確に言うなら、魔剣少女になった。
この姿になった当初は戸惑ったけど、さすがに何年もこの姿だと慣れるってもんだ。
人化できると気付くまでにかかった年数十年。そこからこの世界のことを知るのに九十年。長いようで短かった。そしてその過程で知ったことだけど、オレはどうやら不老らしい。不死かどうかは試したことがないからわかんない。試したくもないけど。
ちなみにクロエってのはオレの今の名前だ。魔剣の先輩がつけてくれた。最初は変な感じだったけど、今じゃそれにも慣れた。結構気に入ってるしな。
「おいクロエ! 料理できたから運んでくれ」
「わかりましたー!」
今のはこの店の店主であるサイジさんだ。行くあてのなかったオレを拾って雇ってくれた恩人でもある。
今現在、オレがいるのはセイレン王国と呼ばれる国の王都であるリオラだ。人種と亜人種の共存を訴える国でもある。そんなに大きな国じゃないけど、まぁいい所だと思う。
「お待たせしました。こちらオークの生姜焼きでーす」
「おう、ありがとな」
そういや、この世界には魔法なるものがあるらしい。それを聞いた時はテンション上がったけど、魔剣であるオレには使えないって聞いてテンションがだだ下がりした。
せっかくそんな世界にきたのに魔法が使えないなんて……魔剣になったって言っても使い手がいないとできることなんて限られてるし。
魔剣の先輩は自分に相応しい人は出会ったらわかるって言ってたけど、今までそんな予感すらしたことがない。
まぁ、戦う気もないからいいんだけどさ。
「おーい、ねぇちゃん! 注文したいんだけど!」
「あ、はい! 今行きまーす!」
今の生活に満足してるし、できる限りこのまま過ごしたいもんだ。
それからも次々とやってくるお客さんをさばいていると気付けば夜、閉店の時間になった。
「ありがとうございましたー!」
「今日もうまかったよ。また明日も来るな」
「はい。お待ちしてますね♪」
最後のお客さんを笑顔で見送り、姿が見えなくなってから店の暖簾を下げる。
「クロエ、お疲れさんだったな」
「いえ、それよりも今日は随分とお客さんが多かったですね」
「そういやクロエは初めてか。一週間後から祭りがあるんだよ。その祭りに向けて、魔物を狩って欲しいって依頼も増えてる。だからこの街に来る冒険者も多いんだろうよ」
「へぇそうなんですね。祭りかぁ。楽しそうですね」
楽しいことは大好きだ。特に祭りなんて聞くだけで心がウキウキする。できれば言ってみたいけど……祭り当日なんか店にとったら稼ぎ時だし、休みが欲しいなんて言えないよなぁ。あぁ百年経っても染みつく日本人根性よ。
「二年に一回のことだからなぁ。盛り上がるだろうよ。そこの掃除終わったらあがっていいぞ。飯は置いてるから持って帰って食え」
「はい。ありがとうございます」
やった。ご飯だ。サイジさんの作る料理は美味しいから楽しみだ。
ウキウキしながら掃除をしていると、厨房から少年が出てくる。
「あ、クロエさん。ボクも手伝います」
「アルト君。ありがとね」
この少年はサイジさんの息子のアルト君だ。今年で十七歳。この世界に来る前のオレが十八歳だから、一個下だな。え? この世界に来てから百年以上経ってるんだろって? それはノーカンだ。だって不老なんだし、オレは永遠の十八歳なのだ。
「そうそう、アルト君聞いたよ~。今度生徒会長選挙に出るんでしょ?」
「あぁ聞いたんですね。そのこと」
ちょっと嫌そうな顔をしているアルト君。あれ、嫌なのかな?
普通にすごいことだと思うんだけど。アルト君の通う学校は王都でも有数の学校らしい。今までその学校の生徒会長選挙は貴族の人がずっとなってたらしいんだけど、平民で初めて生徒会長選挙に出る。ということで盛り上がってると、お店に来たお客さんが言っていた。
「嫌なの?」
「嫌というか……もともと周りに流されて出ることになっただけですから。そしたらなんか思った以上に周囲が盛り上がっちゃって……なんというか、ついていけてないって感じですね」
「えぇー、でもすごいよ! だってそれだけ周りに信頼されてるってことでしょ。私も生徒会長になったアルト君見てみたいかも」
「え、ほ、ホントですか?」
「うん。アルト君優しいし、真面目だし。きっとすごくいい生徒会長になると思うんだ」
実際、アルト君はすごく優秀だと思う。サイジさんはすっごく強面だけど、アルト君はサイジさんに似てなくて、ザ・イケメンって感じだ。優しいし、真面目だし、聞いたところによると剣術も得意で学校でトップの成績だとか。天は彼に二物も三物も与えてしまったのだ。
そんなアルト君だからすっごくモテる。なのに彼女は作ってないらしい。もったいない話だ。もしオレがアルト君ならそりゃもうとっかえひっかえだっただろう。
好きな人いるの? って聞いたら「い、いませんよ!」としか答えてくれなかった。うーん、オレの乙女センサー(仮)が正しければいる気がしたんだけど。まだまだ精進が足りない。まぁ、元男だししょうがないけどさ。(仮)が取れる日はやってくるのだろうか。
「あ、あのボクが生徒会長になると嬉しいですか?」
「うん。もちろん嬉しいよ! あ、でもやりたくないなら——」
「なります!」
「え?」
「ボク、生徒会長になってみせます」
ど、どうしたんだろう。急にやる気に満ち溢れてるんだけど。
まぁでもやる気になったならいい……のかな?
「あ、あの……それで、もし生徒会長になることができたら……お願いがあるんですけど」
「ん? なになに。私にできることならなんでも言って」
つまりご褒美が欲しいと。いいだろう。お姉さんに言ってみなさい。
やたらと顔を赤くしていたアルト君が、落ち着くためなのか深呼吸をしてオレのことをジッと見据える。
「もし、生徒会長になることができたら……ボクと——」
「おいアルト! なにちんたらしてんだ! さっさと片付け終わらせねぇか!!」
「「っ!?」」
アルト君が何か言いかけた時、厨房の奥からサイジさんの怒鳴り声が響く。
び、びっくりしたー。まさかまだサイジさんがいたなんて。
「あはは、びっくりしちゃったね。それで、なんだったの?」
「あー……いえ、今はもういいです。その時が来たら話すことにします」
「???」
なんだったんだろ。まぁいっか。急ぎじゃないみたいだし。
それよりお腹空いたし、早くご飯持って帰ろうっと。
アルト君の言いたいことが気になりつつも、オレの頭はすでに夜ご飯のことでいっぱいになっていたのだった。
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