第171話 戦闘人形の能力

「クロエさん達は大丈夫でしょうか」


 森の中を一人駆けるフェティは心配そうに呟く。

 クロエ達と別れたフェティはライア達のところへと向かっていた。

 襲撃の連絡があった時、クロエとフェティはいよいよこの時が来たと身構えた。そして案の定というべきか、フェティの予想していた通りファーラとヴァルガはクロエ達のことをライア達のいる方へと行かせようとした。

 もちろんそれがフェイクであることはクロエもフェティもわかっていた。だからこそクロエ達はファーラとヴァるがの後を追ったのだ。

 その先にどんなことが待っているのか、それはフェティにもわからない。しかし、簡単に話が終わらないことだけはわかっていた。

 最悪の場合、クロエ達はファーラとヴァルガだけでなく魔剣使いも相手にしなければいけないのだから。

 そこまでの事態になった時、クロエ達だけで対処できるかと言えばそれはかなり怪しいと言わざるを得ない。

 フェティも一緒に行くべきかと考えたのだが、フェティはあくまで裏方。戦う方法がないわけではないのだが、それでも戦闘能力に長けているとは言えない。それならばライア達に助力を求めに行くべきだと判断したのだ。

 それにライア達からも同時に襲撃の連絡は受けているのは事実だ。どのみち向かう必要はあった。


「連絡を受けたのはこの先の地点のはずですが……」


 連絡装置は離れた距離にいても危機を伝えられるという利点はあるが、細かい地点がわからないという問題はあった。改良によって少しずつ改善されてきてはいるものの、まだ問題は多く残っていた。

 キョロキョロと見回して周囲の確認するフェティだが、戦闘の音は聞こえてこない。


「もう少し先の地点だったのでしょうか」


 その時だった。離れた地点から凄まじい力の奔流を感じたのは。ついで感じたのは凄まじい熱。そこにいるだけで命の危険を感じるほどだ。


「これは……魔剣使いの。だとすれば戦っているのは彼女ですか。これほどの力を持つ魔剣使いと戦えるとは、やはり彼女は聞いていた通り……いいえ、今はそれどころではありませんね」


 思考の沼へとハマりかけたフェティは頭を振って思考を止める。


「魔剣使いと戦っている場所に近づくのは危険ですね。私の実力ではどうしようもないでしょう」


 魔剣使いの力を肌で感じたことがあるわけではないが、ローゼリンデからの口伝でその恐ろしさは知っている。だからこそわかるのだ。今のフェティの力では手も足もできないということが。


「下手に関わっても足を引っ張るだけ。それならラオさん達を探すとしましょう」


 ラオとリオも一級の冒険者ではあるが、それでも魔剣使いの戦いに参加できるほどではない。それならば離れている可能性が高いとフェティは結論した。


「離れた位置にいるとして……彼女達の考えを読むならば。こっち側にいる可能性が高そうですね」


 あたりをつけて移動を始めたフェティは、それからほどなくしてラオとリオの気配を感じ取った。


「これは……何かと戦っている?」


 二人の魔力の波長から何かと戦っていることはわかったのだが、その相手の魔力を一切感じないのだ。

 

「少しずつこっちへ移動してきてる……何はともあれ確かめてみるしかないか」


 ラオとリオに近づくほどに感じるのは荒々しい魔力と、凪のように静謐な魔力。

 双子の魔力というのは似ていることは多いのだが、ラオとリオの魔力はいっそ清々しいほどに真逆の特徴を持っていた。

 そして聞こえてきたのが激しい破砕音と爆音。木々をなぎ倒しながら近づいて来る二人の周囲にはマネキンのような戦闘人形が十体ほど代わるがわる攻撃を仕掛けている。


「しつこい」

「あぁもう! いい加減沈んでよっ!」


 近づいてくる戦闘人形をラオとリオは流れるような作業で破壊する。しかし、破壊した端から再生して再び攻撃を仕掛けているのだ。

 尋常ならざる戦闘人形の再生能力を見てフェティはすぐさまその仕様に気付いた。

 無限にも等しい再生を軸にしたゾンビアタック。狼が群れで狩りをする時に獲物を疲弊させるように、ラオとリオの魔力が尽きるのを待っているのだ。そして壊されれば壊されるほど二人の動きに適応し、徐々に追い詰めていく。

 単純ではあるが、だからこそ厄介なのだ。戦闘人形は単純な能力であればあるほどより大きな効果を発揮することができる。再生に特化したことにより、ラオとリオを手こずらせるほどの力を発揮しているのだ。


「問題はどこからそれだけの魔力を補給しているか……でも、予想が正しければ私でも対処できるはず」


 無尽蔵の再生。しかし、それだけの魔力を内包することはいかに高性能な戦闘人形でもできない。常に魔力が補給され続けなければいけないのだ。だが周囲に人形師の姿はない。つまり今ラオ達と戦っている戦闘人形は別の場所から魔力を補給しているのだ。


「ラオさん、リオさん」

「っ、フェティ。こっちに来たの?」

「あ、ホントだー。どうしたの?」

「襲撃連絡を送ってきたのはそちらなのですが。というか、ずいぶん余裕ですね」

「あ、これのこと? まぁ確かに面倒だけど」

「別に強くはないからどうとでもなる」

「でも、そのままではいくら倒しても無意味です」

「そうなんだよねぇ。いっそ火力でゴリ押しするのもありなんだけど」

「その必要はありません」

「え?」

「ふぅん。何か考えがあるみたいだね」

「えぇ、私に任せてください」


 そう言ってフェティは自身の魔力を解放した。


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