第338話 二人の願い
部屋に入ってきたアイアルとコメットちゃんは、神妙な顔をしていて何か言いたいことがあるのは誰の目に見ても明らかだった。
「レイヴェルさんはまだ目を覚ましませんの?」
「うん。まだ魔力が回復しきってないみたい。だけどそれだけだから。どれくらいかかるかはわからないけど、こればっかりは私にもどうしようもないから」
「あの日の戦いでかなり無茶したんだろ。しょうがないだろそれは」
「えぇ。まだしばらくはここに居てもらっても大丈夫ですわ。お姉さま達がいなければこの国がどうなっていたかわかりませんもの」
「そんな評価を受けるようなことしてないんだけど。本当の意味でこの国を守ったり救うことができたわけじゃないし。まぁつまり好き勝手やってただけだから」
オレはこの国を救いたかったわけじゃない。もちろんサテラやコメットちゃんの国だから守ることができれば一番だったけど……ううん、もう終わったことだしたらればを考えても仕方ないか。
そんなことよりもまずは二人に言わなきゃいけないことがある。
「二人とも、ごめんなさい」
「え?」
「どうしたんだよ急に」
「……私はアルマを止めることができなかった」
今回の戦いで何よりも悔いることがあるとするならばそれだ。オレはアルマに勝負を挑んで、そして負けた。アルマは二人の父親だ。それなのにオレは勝手に勝負を始めて、負けて……無様としか言いようがない。
「そのことならもういいよ。ってか、あの状況じゃ仕方無かったと思う。アタシの言葉じゃ親父は止めれなかったしな」
「なにもできなかったのはわたくしも同じですもの。正直まだ受け止めきれない部分もありますわ。彼がわたくしの父親で……お母様の愛した人だなんて。それになによりわたくしが彼女と姉妹だなんて」
チラッと横目でアイアルのことを見るコメットちゃん。エルフ族とドワーフ族。まるで似ていない二人だが紛れもなく彼女達は姉妹だ。二卵性の双生児。オレがそれを知ったのはコメットちゃんが最初に来た時。サテラからの手紙を読んだからだ。ぶっちゃけかなり驚いた。
でもすぐに納得した。二人は容姿こそまるで似てなかったけど、もっと深い所が似てる気がしたから。
オレが二人にそのことを言わなかったのは、戸惑うだろうと思ったし、オレが言うべきことじゃないと思ったからだ。伝えるべき存在がいるとしたらそれはアルマだ。
まぁ本当ならもっと落ち着いた状況でっていうのが理想だったんだけど。でも二人はもう知ってしまった。それはもう無かったことにはできない。
それをどう処理するかは二人次第だ。いきなり仲良くなれとは言わないけど、できれば仲良くなって欲しい。まぁ、それはオレの願望なんだけど。
「お姉さまは知ってましたのね?」
「うん。伝えなくてごめん。本当はもうちょっと状況を見てって思ったんだけど、今更だね」
「アタシはまだこいつと妹だなんて認めねぇけどな」
「しつこいですわよ。そのことについてはもうさんざん話あったでしょう」
へぇ、意外だ。この二人がオレ達がいない状況で話あったなんて。でもこのこの感じを見るに意外と建設的な話ができた――。
「だいたいなんでわたくしが妹なんですの? わたくしが姉です。そう言ったはずですわ」
「それこそふざけんな! なんでアタシがてめぇより下なんだよ! アタシが姉だ!」
「わたくしです!」
「アタシだ!」
建設的な話……できてる?
いやいや、大事なことなのかもしれないけどね。
まぁでもちょっと騒がしいかな。うん、うるさいよね。
「えーと、二人とも? ちょっとうるさいかな?」
「「ひぅっ!?」」
「レイヴェルが寝てるから、もうちょっと静かにしてね?」
「「は、はい……」」
落ち着いてくれたみたいで良かった。
って、そうじゃないって。なんか気付いたら真面目な雰囲気どっかに飛んでっちゃったけど、この二人の話まだ聞いてない。
「それより二人はどうしてここに来たの?」
「あ、そうでした。実はお姉さまに、いえお二人にお願いがあるんですの」
「私とレイヴェルに?」
「えぇ。レイヴェルさんが目覚めていれば良かったのですけど。先に伝えておきますわ」
二人は顔を見合わせ、真剣な表情で言った。
「わたくし達を一緒に連れていって欲しいんですの」
「アタシ達を一緒に連れてってくれ」
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