第277話 疑念
「明日……か。はぁ、結局何もできなかったか……いや、まぁ元から望み薄ではあったわけなんだけどな」
『私達はあくまで余所者でしかない……確かにポッと出の私達が口出しする権利は無いのかもね』
クロエ自身にもクレイムの言った言葉は大きく突き刺さっていた。
これはあくまでエルフの国という閉鎖された空間の中で起きた問題。それも数年どころではなく、数十年、数百年と問題が積み重なって起きた対立。
そこに余所者が口を挟むことはできない。ましてやクロエとレイヴェルは両者の間にある事情をほとんど知らないと言っても過言ではないのだから。
(だけど……いったいいつレジスタンスなんてできたの? 少なくともオレが以前この国に来た時はレジスタンスの存在なんて知らなかった。ただ知らなかっただけ? それともその後にできたの?)
二十年という歳月。その間にレジスタンスができたとしてもおかしくはないだろう。しかしエルフという種族の事情を考えればもっとクロエが以前来た頃から組織があってもおかしくなかった。
(いくらなんでも規模が大きすぎる。もちろん人数は圧倒的に長老側の方が多いけど、それでも破格の人数な気がする。それにこの場所にこれだけの設備。あのゴーレムにしてもそうだけど、いったいどうやって集めたのかわからない。少なくとも外の世界と何かパイプを持ってない限りはここまでの物は揃えられないはず。いったい何が……オレの考えすぎ?)
考えれば考えるほどにクロエの脳裏をちらつくレジスタンス以外の組織の存在。そして今のクロエが組織と考えて思い浮かべるのはハルミチのことだった。
あり得ないとクロエの心はその考えを否定する。だが、理性の部分はあり得ると冷静に状況を見極めようとする。
ここに魔剣使いであるクランとワンダーランドが居た。それが何よりの証拠じゃないかと。
(前提条件が違ったら……ハルの組織がレジスタンスに協力したんじゃなくて、そのレジスタンスの結成そのものにハルが関わってたとしたら……)
クロエの頭が一つの答えを出そうとする。それは何の証拠も無い話。だが、考えれば考えるほどにあり得ない話じゃないと思った。思ってしまった。
『ねぇレイヴェル。ちょっといいかな』
「どうしたんだ?」
『まだ根拠のある話じゃないんだけど、一つ思いついたことがあって。レイヴェルの考えも聞かせて欲しいなって』
自分一人では考えが堂々巡りになると、客観的に状況を見れるであろうレイヴェルにも考えを聞こうとしたクロエ。だが、それよりも早くクロエは気づいてしまった。
ひどく懐かしい誰かの気配に。それに気づいた瞬間にはもう走りだしていた。
「あ、おいクロエ!」
呼び止めるレイヴェルの声すら届かず。『人化』したクロエはここがレジスタンスの本拠地、エルフの国であるということすら忘れて見つけた気配を追いかける。
他のエルフのその姿を見咎められなかったのはある意味奇跡だろう。
必死に走ったクロエは拠点から出た所でようやくその人物に追いついた。
「待って!」
クロエが呼び止めると、ようやくその人物は足を止める。
まるで人目を避けるかのようにフードを目深に被っていて、顔は見えない。
だがそれでもクロエはそれが誰かわかっていた。忘れない、忘れるはずがないその気配を。
「やっぱりここに来てたんだね――アルマ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます