第278話 再会と決裂

〈クロエ視点〉


 ずっといるかもしれないと思ってた。ううん、違う。

 こいつがここにいるのはわかってた。でもどこにいるかがわからなかっただけ。

 それがまさかこのレジスタンスの拠点で出会うことになるなんて。さすがにちょっと予想外だったけど。


「やっぱりここに来てたんだね――アルマ」

「…………」

「無視しないで!」


 オレのことを一瞥したアルマは、何も話さずにそのまま歩き去ろうとする。でもそんなの許さない。しがみついてでもここに留まってオレと話をしてもらう。


「逃がさないからね」

「……その強引なところは相変わらずだな」


 オレの意思が伝わったのか、呆れたようにため息を吐きながらアルマは被っていたフードを脱ぐ。そこにあった顔はやっぱりアルマのものだった。声と気配で確信はしてたけど、やっぱりこうして直接顔を見ると懐かしさが湧いてくるというか。

 でもやっぱり記憶の中にあるアルマとは少し違うのは、二十年っていう月日の影響なんだろう。そのことが少しだけ寂しい。


「私は不変だからね。まぁ、ちょっとだけ変わったこともあるんだけど」

「そこの男か。エルフ……ではないな。なるほど、変身薬か。あの時の薬をまた使ったのか」

「前回の改良型みたいだけどね。アルマは使わなかったんだ」

「必要が無かったからな。ここでの俺の立場は協力者。ドワーフであること隠す必要も無い。まぁ、あまりいい顔もされないがな」


 自嘲するようにアルマは言う。確かにいくら協力者だとは言っても、長年エルフと敵対してきたドワーフであるアルマは歓迎はされないだろう。でも逆に言えばそんなアルマを受け入れるほどの覚悟があるとも言える。

 ここにいるエルフ達にとっては敵の敵は味方、みたいな感覚なのかもしれない。


「その男……レイヴェル・アークナーだったか。まさかお前がキアラ以外の奴と契約するとはな。もしお前が契約するとしたらそれはキアラかハルミチだと思っていた」

「まさか、私がハルと契約するわけないでしょ。そんなことしたら私がキアラに殺されるし」

「くくっ、確かに言えてるな。あいつの嫉妬深さは相当なものだった」


 あぁ、懐かしいな。この軽口をたたき合う感じ。

 アルマは昔からそうだった。堅物なように見えて、いや、実際堅物なんだけど、でも案外ノリの良い所もあったりして。

 でも今はその懐かしさに浸ってる場合じゃない。


「ねぇアルマ。ハルはここに来てるの?」

「いや、あいつはここには来ていない。来ているのはオレとあの魔剣使いだけだ」

「そっか。だったら単刀直入に聞くけど……アルマは、ううん、ハルはこの国で何をしようとしてるの」

「それを知ってどうする」

「止める」


 断言する。正直な話をすれば、クレイムや長老達の諍いに関してはしょうがない部分もあると思ってる。だけど、ハル達が関わってるとなればそれは話が別だ。

 以前のケルノス連合国でわかったことでもある。今のハル達が純粋にエルフのために手を貸してるとは思えない。絶対に何か裏がある。


「止める……止めるか。万が一にお前に俺達を止めることができたとして、それでどうする。この国の問題は何も解決しないぞ。俺達が手を貸さなければレジスタンスに勝利は無い。長老達は搾取を続け、ここにいるレジスタンスの連中は大半が処刑されるだろう。それでも構わないと言うのか?」

「そうかもしれない……でもそれは、レジスタンスの側が勝っても同じことでしょ。あのゴーレム……初めて見た兵器だけど、あれってドワーフの国のものでしょ」

「…………」


 そう、最初に見た時はわからなかった。だけどここにアルマがいるなら話は別だ。

 あのゴーレムの原型となったであろう存在をオレは知ってる。


「ドワーフの国の至宝『無尽機デストロ』。自律可動型の大量殺戮兵器。ドワーフの国の最後の砦として知られる存在」


 今はもう失われたというドワーフの国の古代技術を持って作られた最終兵器。それが『無尽機デストロ』。一度動かせばもたらすのは大災厄。殺戮の権化として恐れられたゴーレムだ。

 気づけたのは過去の経験があったからだ。


「あれを元にして作ったんだよね」

「…………」

「否定しないってことはやっぱりそうなんだ。あれがどこまでの性能を持ってるかは知らないけど、そんなものを持ち出すってことはホントに全滅させる気なんでしょ。ここのレジスタンスの人達は知ってるの? 『無尽機デストロ』がどれだけ恐ろしいゴーレムなのかを。そしてそれを元に作られたあのゴーレムが、どれだけの力を持ってるのかを」

「スペックだけなら知ってるだろう。だが、動かしてはいない。俺がいなければ動かせないからな」

「だったら」

「俺は俺のやるべきことをやるだけだ。そもそも……あいつを捨てたこの国に未練などあるはずもない」

「っ……!!」

「立ち塞がるならお前でも容赦はしない。お前がここに居るということはアイアルに会ったんだろう。あいつには――」

「アイアルもここに来てるよ」

「……なんだと?」

「アルマがほとんど何も言わずに居なくなっちゃったから心配して私を頼ってきて。この国まで一緒に来た」

「この国にいるのか? アイアルが」

「そう言ってるでしょ。アルマがこの国にいるだろうって思ったから連れてきたの。まさかこんな状況だとは思わなかったけど」

「…………」

「ねぇアルマ。せめてアイアルと話だけでも」

「できない。俺はもうあいつの父親ではいられない。俺のことは忘れろと、死んだとそう伝えておけ」

「アルマ!!」

「話はここまでだ。久しぶりに話せて嬉しかったよ。それだけは本当だ。じゃあな」

「まっ――」

「おい、なんだかこっちの方が騒がしくないか?」

「あぁ、確かめに行くべきか」


 去ろうとするアルマを追いかけようとしたけど、それより早く巡回をしていたエルフ達に気づかれる。

 気配がどんどん近づいてきて、そうしてる間にもアルマは離れていく。


「おい、クロエ。これ以上は」

「っ……わかった」


 この場は離れるしかない。

 後ろ髪を引かれる思いをしながら、オレ達はその場を離れた。

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