第179話 血命剣

「はぁあああああっ!!」

「…………」


 目の前でレイヴェルとクルトが激しい戦いを繰り広げている。最初の一撃はクルトにとって不意を打たれたからこそ喰らってしまったものだったんだろう。まぁ戦いの最中に油断するのはどうかと思うけど。

 少なくとも今はもう油断は無いのか、二人の力は拮抗していた。そう、拮抗しているんだ。


「私とのパスはまだ回復してないのに」


 依然としてレイヴェルとのパスは繋がらないままだ。ううん、むしろさっきまでよりも希薄になってる気すらする。つまり今のレイヴェルはオレの力を一切受けてない。それなのに、レイヴェルとクルトの力は拮抗している。ネヴァンが手を抜いてるようにも見えない。

 レイヴェルはたった一人であの二人とやり合ってるんだ。


「どうしちゃったのレイヴェル……」


 そんな状況の中で、最早魔力も無いオレにできることは何もない。

 いや、違う! 考えろ! この状況でオレだけ何もできないなんて、そんなことあっていいわけがない。レイヴェルがどんな状態だったとしても、戦ってるのは事実なんだ。

 だったらオレは相棒として何ができるかを考えなきゃいけないだろ!

 勝手に諦めかけた自分の心を叱咤する。

 まずやるべきことは、オレの力を使えるようにすること。そのためにもまずはレイヴェルとのパスを繋げることから始めないと。

 今は拮抗してるこの状況もいつ崩れるかわからない。だってあっちはまだ『鎧化』も使ってないんだから。

 でも今のレイヴェルの状態もよくわかってない。いや、なんとなく思い当たるものはあるけど。


「……でもだとすると、今の状態のレイヴェルに近づくのは危険かもしれない。なんとかして正気に戻さないと」


 正気に戻すのが正しいのかどうかもわからないけど。

 さっきからネヴァンが毒を使ってるけど効いてないのはレイヴェルが今使ってる力と無関係じゃないはず。そう考えたら、正気に戻せたとしてあの力が使えなくなったら今度こそ毒に蝕まれるかもしれない。

 頭の中で様々な考えが巡る。

 今の状態のままレイヴェルがクルト達に勝つと信じるか、それとも正気に戻して一緒に戦うか。個人的に望ましいのは後者だけど、どうしたら正気に戻せるのかもわからないし、危険も大きい。

 でもこうして悩んでる間にも戦いは続いてる。毒の力を駆使して戦うクルトをレイヴェルが冷静にいなしてる。

 ネヴァンが用いる多種多様な毒もレイヴェルに効いてる様子はないし、さっきオレに対して使ってた溶かすような毒も全部あの剣で斬られて霧散霧消してる。

 血みたいに赤い剣……ううん、違う。たぶんあの剣はレイヴェルの血でできてるんだ。

 レイヴェルの右腕から流れ出る血。さっきは血なんか流れてなかったはずだし。あの血は地面に落ちることなく、そのままあの剣へと吸い込まれてる。

 どこまでも赤いあの剣……見てるだけでゾッとするような感覚がする。たぶんオレの魔剣としての本能が危険を訴えてるんだろう。


「血命剣……たぶんそうだよね、あれ」


 たぶんもう間違いないと思う。血の剣に魔剣の力の無効化。

 オレの考えが間違ってないならレイヴェルは……。


「【魔狩り】の血……ははっ」


 なんて皮肉な話なんだろう。

 【魔狩り】。魔剣の天敵たる血筋。まさかレイヴェルがその血筋だなんて思ってなかったけど。

 【魔狩り】のレイヴェルと魔剣のオレが契約するだなんて。

 そう考えたらパスが繋がらない理由も合点がいく。ネヴァンが何かしたんじゃない。レイヴェルの血がオレとのパスを拒否してるんだ。


「っ……」


 レイヴェルに拒絶されてる。その事実に胸が締め付けられるように苦しくなる。

 わかってる。レイヴェル本人の意思じゃないなんてことは。たぶんネヴァンの毒に侵されて危機に陥ったことで血が目覚めたんだろう。

 そうわかっていても。


「今のレイヴェルは……違う」


 血に支配された状態。この戦いに勝つという点だけで見るならそれは正しいのかもしれない。でもあの力は確実にレイヴェルの体を蝕む。長時間の行使はレイヴェルの肉体にも良くないはずだ。


「どうしたら正気に戻せるかなんてわからない。私自身も攻撃対象になるかもしれない。けど……ここで行かないと私は私でいられなくなる」


 危険は百も承知。それでも動かないと何もできない。何も変えられない。

 そのことをオレはよく知ってる。


「待っててレイヴェル。あなたを一人で戦わせたりしないから」


 そしてオレは激しくなっていくクルト達との戦いへと割り込んで行った。

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