第28話 神の作った奇跡なんだから!
オロオロしてるオレに、不機嫌そうな表情のラミィ……そして、そんなラミィに睨まれてるレイヴェル。
ラミィにレイヴェルとのことを告げた後、納得がいかないと叫んで暴れようとするラミィのことをなんとか宥めて近くにあったお店で改めて話をしようってことになった。
変に誤魔化すよりストレートに伝えた方がいいと思ったんだけど……伝え方間違えたかなぁ。
もっと段階踏むべきだったか?
まぁ今さらか。もう伝えちゃったわけだし。さっきの失敗はこっから取り戻していこう。
「えっとねラミィ、私が契約者を探してたのは知ってるよね?」
ラミィはオレが魔剣だってことを知ってる。一時期一緒に旅してたし。そん時に教えたんだ。旅仲間に隠し事はご法度だって先輩に言われたから。
「うん、知ってるけど。だから私はクロエの契約者になれるようにって一生懸命努力してきたんだもの」
「う……」
「そうなのか?」
「う、うん。まぁその。ラミィとは色々あったから」
言葉の通りっていうか。ラミィはずっとオレの契約者になりたいって言い続けてた。
そのために努力してくれてたのも知ってる。オレのためにそれだけ頑張ってくれたのは素直に嬉しいし、感謝もしてる。
でも、それでもラミィじゃオレの契約者にはなれない。
レイヴェルと会った時みたいな胸の高鳴りをラミィに感じることは無かったから。
「で、何十年の付き合いがある私よりも、そのこの目つきの悪いポッと出の男をクロエは選んだってわけ? どうして?」
「どうしてって言われたらそれは……パッと一目見た時に、この人だって思ったから」
「なにそれ。つまり一目惚れってこと?」
「ひ、一目惚れって! そんなんじゃないよ!」
「だって一目見て決めるってそういうことでしょ。私は何年も何年もクロエに頼みこんでダメだったのに……」
恨みがましい目でレイヴェルのことを睨むラミィ。言葉にも若干棘がある。
すぐに納得はしてくれないと思ってたけど、これは時間かかりそうだなぁ。
「あんたもしかしてクロエのこと脅してんじゃないでしょうね」
「はぁ? なんでオレがそんなことを」
「なんでってそんなの決まってるでしょ!」
ダンッ! と粉砕せんがばかりの勢いで机を叩くラミィ。
そして力強く叫ぶ。
「クロエがこの世で一番可愛いからよっっ!!!」
エコーがかかっているかのようにラミィの声が店の中に反響する。
言われた言葉の意味を一瞬理解できなかったのか、レイヴェルは目を点にしていた。
「スカッドクロウの濡れ羽色の髪はまるで絹のような手触りで美しい……そんな漆黒の髪と対照的に肌は穢れ一つない真っ白な肌。白と黒のコントラストはさらにその美しさを際立たせる。その肌の柔らかさはまるで手が吸いつくようで……クリっとした大きな瞳にスッと通った鼻梁。プルっとした唇はまるで食べたくなるほどに目を惹きつけて離さない。これだけでも十分なのに、それに加えて均整の取れたプロポーション! これぞ完璧なる黄金比!! 神がその技術の粋を全て注ぎ込んで作りあげられたとしか思えない、この世に二つとない奇跡の存在! クロエの美しさと可愛さの前では女神すら存在が霞むほどなんだから! あぁ神様、あんたのことはあんまり好きじゃないけどクロエという奇跡をこの世に生み出してくれたことだけは感謝します」
怒涛のようにまくしたてるラミィ。
ヤバイ……死ぬほど恥ずかしい。褒められるのは素直に嬉しいんだけど、それも行き過ぎると毒になる。
きっと今のオレは林檎よりも顔が真っ赤なはずだ。
これの恐ろしいところが、ラミィが全部本気で言ってるってことだ。
言われ始めた頃は冗談だと思ってたんだけど、何度も言われてるうちにそうじゃないってことに気づいた。
こいつが本気で言ってるんだって、嫌でもわからされた。
久しぶりに聞いたけどぉ……やっぱりダメだ。こいつ何も変わってねぇ!
長寿の竜人族にたった数年で変化を求める方が無理なのかもしれないけどさ!
「それだけじゃないのよ。クロエは中身だって最高で——」
「ちょ、ちょっと待ってラミィ! ストップ! それ以上はストップだよ!」
これ以上喋らせたら勢いづいて日が暮れる。そうなったら後の予定が全部潰れるし。あと何より恥ずかしいし!
「えぇもう。ここからがいいところなのに。まだクロエの魅力の十分の一も話せてないんだけど」
「もう十分。十分だから勘弁して。これ以上は耐えられなくて私が恥ずか死しちゃう」
「クロエがそういうならここまでにするけど。って、そうだわ。クロエの素晴らしさについてはもちろん語りたいんだけど、私が言いたいのはそこじゃない! つまり、こんなに可愛いクロエに惚れない男なんているはずがないのよ! だからどうせあんたもクロエに惚れて、その可愛さを独占しようと弱みを握って脅して無理やり契約したんでしょ!」
「そんなことしてねーよ」
「嘘!」
「嘘じゃねーよ!」
あらぬ疑いをかけられてさすがのレイヴェルのイライラしてるのか、いつも悪い人相がより一層悪くなってる。
あ、でもレイヴェルの怒った顔も意外と……ってそうじゃなくて! 二人を止めないと。
このままじゃ本気の喧嘩になる。ラミィが本気で暴れ出したら手が付けられないし。
こうなったら……奥の手を使うしかない。
「ラミィ落ち着いて! これ以上言い合うなら私……本気で怒るよ」
「っ!」
そんなつもりないんだけど。
この一言がラミィに与えた影響は大きかった。
額の角がレイヴェルに刺さらんばかりの勢いで詰め寄ってたのに、ギギギっとまるで機械のように緩慢な動きで椅子に座り直す。
「ご、ごめん……」
「ううん。それはいいんだけどね。とりあえず私の話聞いてくれる?」
「わかった……」
「まず、私は別にレイヴェルに脅されてるわけじゃないよ。レイヴェルにお願いされて契約したわけでもない。私がレイヴェルのことを選んだの。この人だって思ったの」
「クロエ……」
「だから……ごめんね」
「謝らないでよ。なんか私が惨めになるし……そっか……選んじゃったんだ」
あからさまに意気消沈してるラミィ。
さすがにそんな姿を見たら心が痛い……でもだからってオレには謝ることくらいしかできない。
同情したって、オレはラミィと契約することはないんだから。
「ホントに後悔してないの?」
「してないよ。絶対しない。するくらいなら最初から契約なんかしてない」
「うぅ……ねぇあんた。レイチェル?」
「レイヴェルだ。名前くらい覚えろ」
「はいはい。気が向いたらね。クロエがあんたを選んだっていう以上、私から口を挟むのはお門違いだってわかってるけど……でも、クロエのこと泣かせたりしたら承知しないわよ。もしそんなことしたら地の果てまで追いつめてでも、生きてることを後悔させてやるんだから」
「怖いこと言うなよ……」
「本気だもの。それと一つ確認したいんだけど」
「なんだよ」
「契約しただけよね。それ以上のことは何もしてないわよね」
「してねーよ!」
「ホントに? たとえば同じベッドで寝たりとかしてない?」
「だからして——し、してねぇよ」
「今の間、怪しい……どうなのクロエ」
「うぇ!? し、してないよそんなこと! 寝台馬車でベッドが一つしかなかったらって一緒に寝たりとか……絶対してないから!」
「うぐぐ……そんな羨ましいことをしたんなんて……」
え、なんでしてないって言ったのにしてることになってんだ?
「あぁっ! やっぱり無理! クロエの言うことだから受け入れようと思ったけどやっぱ無理!! 私は認めない、認めないんだからね!!」
「あ、ラミィ!」
止める間もなく走り出して、そのままお店を出て行くラミィ。
「えぇと……大丈夫なのか、あれは」
「大丈夫……だと思う。今はちょっと急に色々言ったから処理しきれてないだけだと思うから。それにわざわざここに来たってことは何か用事があるからだろうし、もしかしたらまた会う機会もあるかもしれないから。その時にあらためてちゃんと話するよ。ごめんねレイヴェル、急にこんなことになっちゃって」
「いや、それはいいんだけどよ」
やっぱりそう簡単には納得してくれないよな。
こればっかりは時間が解決してくれると信じるしかないかぁ。
「なぁクロエ。そういえばふと気になったことがあったんだけどよ」
「ん、なに?」
「あいつの言ってた、何十年の付き合いって——」
「それじゃあ私達も宿に行こっか。この後の予定もあるし」
年齢の話はご法度である。
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