第244話 誇るべきもの
レイヴェルとアイアルが薬を飲むか飲まないかの瀬戸際で葛藤している頃、階下で待っているクロエとコメットは暇を持て余していた。
「レイヴェル達、ずいぶん時間かかってるね」
「いきなり得たいの知れない薬を渡されれば、誰だって警戒して当然ですわ」
「うーん、まぁそれもそうなんだけどさ」
「そういえば、クロエ様はあの薬飲まれないんですの?」
「うん。私はちょっと飲めないんだよね。前に飲んだことがあるんだけど、相性が悪かったのか、それとも魔剣だからなのかわからないんだけど変身できなかったんだよね」
「そんなこともあるんですのね」
「まぁまだまだ未知な部分も多い薬だからね。実際のところ、何がどう作用して変身できるかとか詳しい部分はわかってないらしいよ」
それはクロエが実際にサクマから聞いたことだ。だが細かい所がわかってないと言うのは飲む側からすればたまったものではないだろう。
「まぁでも薬ってそういうものだよね」
「それは少し違うと思うのですけど。ですが、エルフの魔法でも見破れない薬というのは恐ろしい話ですわね。もしそんな薬を使われていたら、外からの侵入者に気づけませんもの」
「だからこそ禁薬の類いなんだろうけどね。一応言っておくと、私の知り合いが作った今回の薬は製法こそ真似してるけど、そこから改良を加えてるからグレーゾーン、らしいんだけどね」
「その主張は通らないのでは?」
「私もそう思うけどね」
どんな言い訳をしたところで、もしこの薬の使用がバレたらクロエ達はかなり重い処分が下されるだろう。その意味で今クロエ達はかなり危険な橋を渡っていた。
「大丈夫なんですの?」
「まぁそこはなんとかできるかな。バレたらこの薬を私の力で破壊するから。ようは使った痕跡さえ残さなければ大丈夫だよ。それに大きな声じゃ言えないけど、ギルドの人も全く使わないわけじゃないしね」
「そうなんですのね。なんだか意外ですわ」
「綺麗事だけじゃどうにもならないこともあるからね。それよりもさ、私もちょっと意外だったんだけど……コメットちゃんは鍛冶が得意なの?」
「それは……まぁ、そうですわね。エルフ族なのにおかしいと思われるでしょうけど。一応できますわ」
「この剣を見る限りできるなんてレベルじゃない気もするけど。ただ研いだだけなのにまるで新品、打ち直したみたいな仕上がりだし」
「褒めすぎですわ。わたくしなんて、本職の方々には遠く及びませんし」
「謙遜することないと思うけどね。鍛冶はサテラから?」
「はい。なんでも知り合いに鍛冶をされる方がいらっしゃったらしくて。今ならわかりますけど、彼女のお父上のことなのでしょうね」
「はは、たぶんそうだろうね。サテラの鍛冶師の知り合いなんてアルマくらいしかいなかっただろうし。でもそっか。やっぱりそうなんだね」
「? どうしたんですの?」
「ううん、なんでもないよ。ちょっと懐かしくなっちゃっただけ」
どこか憂いを帯びるクロエの表情が気になったコメットが聞いても、クロエには誤魔化されるだけだった。
「ねぇコメットちゃん、鍛冶は好き?」
「……わかりませんわ。ただわたくしはこれしかできませんもの。鍛冶ができたとしても、魔法が使えるようにはなりませんし」
「それはそうだけど。でも、私は誇って欲しいな」
「誇る?」
「うん。鍛冶ができるっていうことを。それはきっとコメットちゃんの親があなたに与えた才能だから。それに、サテラは喜んだんじゃない? コメットちゃんに鍛冶の才能があったこと」
「それは……」
クロエに言われてコメットは思い出す。コメットに鍛冶や物作りの才能があるとわかったとき、ドワーフのようだと嫌悪する他のエルフ達とは違って、サテラだけは自分のことのように喜んでくれたことを。
その記憶が根底にあったからこそ、コメットはずっと鍛冶というものを捨てられずにいたのだ。
「また見せて欲しいな。アイアルが自分で作ったもの」
「……はい、わかりましたわ」
その瞬間のクロエの笑顔がコメットにはサテラと重なって見えて、気づけば頷いてしまっていた。
「……あの、クロエ様。わたくし――」
「あ、ちょっと待って。もしかしたらレイヴェル達来たかもしれない」
上の階から誰かが降りてくる音がしたことに気づいたクロエがコメットの話を遮る。
そしてクロエの予想通り、降りてきたのはレイヴェルとアイアルで。
変身薬を飲んだ二人が姿を現した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます