第263話 美男美女だらけは息が詰まる
〈レイヴェル視点〉
宿を出た俺とクロエはさっそくグリモアの中を歩いていた。
俺もグリモアのことはある程度は調べてきた。国という体裁はとっているものの、グリモアはこの森の中だけで完結してる国だ。
そこまで広い国じゃない。広さでいえばたぶんイージアの方がずっと広いだろう。詳しい人口は俺が読んでた本には載ってなかったけど、数万人程度だったはずだ。
いや、まぁこの森の中に数万人住んでるって思うとそれだけですごいんだけどな。
最初はどんなもんかと思って身構えたけど、なんていうか思ったよりも普通で拍子抜けって感じだ。
いや、そりゃそうだって話なんだけどな。この国の人達だって霞を食って生活してるわけじゃない。
普通に働いて食べて寝て、俺達と変わらない生活をしてるんだよな。
(レイヴェルが何考えてるか当ててあげようか?)
「うお、びっくりした。急に話しかけてくるなよ。というかこの感じなかなか慣れないな」
頭の中に直接声が響くこの感覚。もう何度も使ってるけど、違和感が半端じゃない。
直接声に出して応える必要はないはずなんだが、つい思わず普通に声を出してしまう。傍から見れば俺は独り言呟いてる変人だろうな。
(いい加減になれればいいのに。って、そういう私もまだあんまり使い慣れてはいないんだけど。まぁこの国にいる間は使うことになるだろうから、その間に慣れてね♪)
「簡単に言ってくれるよなホントに。で、とりあえずどうする? ホントにただ見て回るだけでいいのか?」
(とりあえずはね。でも余裕があればちょっと探したい人はいるかも)
「探したい人? あぁ、ミサラさんからの渡された手紙のことか。確かにその人のことも探さないといけないしな」
(それもそうなんだけど、私が言ってるのはレジスタンスの人達のこと)
「レジスタンスの? でもそれはさすがに危なくないか?」
(確かにリスクはあるけど、でもこの国の事情に関わってる人達ではあるし。話くらいは聞いておきたいかなって。ぶっちゃけた話にはなるけど、普通に考えてレジスタンスの人達が長老達に逆らって勝てるわけがないんだよ)
「それは……」
確かにクロエの言うことももっともだ。
それなりの勢力があったとしても、それが国の兵士達に勝てるほどだとも思えない。人数も負けてるだろうしな。
見た感じあの近衛兵達の練度は相当高そうだったしな。それでもレジスタンスなんてものを結成したからには何か勝算があってのことなんだろう。
(もしかしたら……ハル達と繋がってるんじゃないかって。そう思ったの)
「なるほどな。でもどうやって見つけるんだ? 俺達は所詮よそ者なわけだし。普通に接触を図るのは難しいんじゃないか?」
(うっ、それは……ほら、今から考えればいいかなって)
「場当たりってことか」
(うぅ、だって仕方無いよ。この国にスアサさん以外に仲の良い知り合いなんていないし)
「まぁ俺も知り合いなんていないからクロエのこと言えないんだけどな。せめて何か情報でも手に入ればいいんだが」
(聞くのはいいけど、人は選んだ方がいいかもね。いつ誰が兵士に漏らすかわからないし。ただでさえ目を付けられてるのに悪目立ちなんかしたくないし)
「それもそうだな。まぁいい、とにかく色々見て回るか。もしかしたら何か見つかるかもしれない」
(だね。あ、そうだ。それだったら一応あれも着けといたら? ミサラさんから預かってるネックレス。それがあれば向こうから見つけてくれるかもしれないし)
「確かに。人のもの勝手に着けるのは抵抗あるけど、そもそも見つけてもらわないと話にならないもんな」
入国審査の時には見つからないようにかくしておいたネックレスを身につける。なんか普段からアクセサリーはつけないから違和感がすごいな。
見つけてもらいやすいように目につきやすい位置にネックレスを下げてから歩き出す。
人の多そうな市場へと足を運ぶ。
それからしばらくぶらぶらと歩くうちに気づいた。市場に並ぶ商品の違いに。
魔物の肉や野菜、果物なんかは売ってるけど、魚とかがかなり少ない。これは土地柄ってやつなんだろうな。この場所じゃ魚が捕れる場所なんかも相当限られてるんだろう。値段を見ても魚だけは一際高い。
アクセサリーのようなものも売ってるけど、金属を加工したようなものは見当たらない。
こういうのは実際に足を運ばないとわからないことだな。
「それにしても……」
チラリと周囲を見回す。そして改めて確信した。
どこを見ても美男美女だらけだ。
いや、エルフ族は美男美女だらけってのは有名な話なんだが。実際に目の当たりにするととんでもないなこれは。
行き交う人達全員が人目を惹く容姿をしてるってのはなんか息が詰まるな。場違い感が半端じゃないというか。
(レイヴェル前!)
そんな風に意識を別の方に割いてしまったからだろうか。不意に曲がり角から出てきたエルフに気づかずぶつかりそうになる。
「っ!?」
クロエの声を聞いてとっさに体を捻って避けようとしたが、完璧には避けきれずに肩がぶつかる。
「悪い。ちゃんと前見てなかった」
「いや、こちらこそ急いでいたせいで不注意だった。怪我などはしていないか?」
「あぁそれは大丈夫だ。そっちこそ大丈夫だったか?」
「問題ない。怪我がなかったようで何よりだ。それでは俺はこれで……ん? ちょっとまて、少しいいか?」
「うぉっ」
急に距離を詰めてきた男が目の色を変えて見ていたのは、俺が首から下げていたネックレスだった。明らかに様子がおかしい。
もしかしてこいつ……。
「このネックレス、どこで手に入れた!」
どうやら俺達は、思ったよりも早く当たりを引けたみたいだ。
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