第31話 冒険者ギルド
『鈴蘭荘』を出たオレとレイヴェルはそのままの足で冒険者ギルドへ向かっていた。
イージアの冒険者ギルドは街のほとんど中心にある。
なぜならここはイージア、別名冒険者の街。普通なら王都に冒険者が集まりそうなもんだけど、この国では不思議なことにイージアに冒険者が集中してる。
この辺に出る魔物は素材が高く売れたりして割りが良いみたいな話を聞いたことがあるから、それが原因なのかな。
とにかくここは、それこそ世界中から冒険者が集まる街ってことだ。
「そういえばレイヴェルはイージアで冒険者登録したの?」
「あぁ。冒険者を目指すならイージアだって言われてな」
「へぇ、でもそれじゃあ大変だったんじゃない?」
「なんでだ?」
「イージアって昔と変わってなかったら冒険者になるのに試験があるでしょ?」
「確かにあったな。実技と筆記の試験が。どっちもかなり厳しくて大変だったよ」
「そこはやっぱり変わってないんだ。イージアの試験は昔から厳しいって有名だし」
「え、もしかして試験内容って場所によって違うのか?」
「ん? そうだよ。もしかして……知らなかった?」
各地に点在する冒険者ギルド。そのどこでも冒険者になることはできるけど、その時に試験のあるギルドもいくつか存在する。
その試験の内容は場所によって様々だ。たとえば指定された魔物を一定数倒すとか、知識を披露するとか、場所によって様々だけど……その中でもイージアでの試験はトップクラスに厳しいって先輩が言ってた。
魔物に対する知識、そして実力。その両方が試される。だから自信がない人は他の場所で冒険者登録してからイージアに来たりするらしい。
「全然知らなかった……試験の内容はどこでも一緒だと思ってたよ。だったらあれか。俺が試験合格するために滅茶苦茶苦労したのは本来ならしなくていい苦労だったってことか」
うわぁまずい。かなりショック受けてる。
確かにレイヴェルの言う通り冒険者になるだけなら他の場所でもなれるんだけどさ。それもかなり簡単に。小さな街にあるようなギルドだったらそもそも試験すらなかったりするし。
だから小さな子供が小遣い稼ぎとかのために冒険者登録してたりする。
でもじゃあ他の場所で冒険者登録すればいいのかって言うと、そういうわけでもなかったりするらしい。
「そんなことないよレイヴェル。レイヴェルがちゃんとここの試験を合格して冒険者になったってことは、冒険者カードの発行元はイージアになってるでしょ」
「確かになってるけど、それがどうかしたのか?」
「それってつまりイージアで認められた冒険者ってことだから。他の場所に行っても信頼されるらしいよ」
厳しい試験を乗り越えたってことはそれだけ優秀な冒険者の証だ。同じ冒険者ランクの人が二人いたとして、片方がイージア発行の冒険者カードを持ってたらそっちの人の方が信頼されたりする。
って言っても結局は実力次第だから、初見の印象がちょっと良くなる程度のものだけど。
それは言わなくてもいいことだ。
「だからほら、元気だして。ね?」
「……あぁそうだな。そういうメリットがあると思えば努力した甲斐が……あるのか?」
「あるってば。ほらほら、過ぎたこといつまでも気にしてないで早くギルドに行こ。フィーリアちゃん達が待ってるんだから」
「そうだな。思えばあの日々があったからこそ今の俺があるわけだし。そう思えば少しは気が楽に……楽にわけあるか!!」
おぉう、珍しくレイヴェルが荒ぶってる。
ここまで取り乱すとか、冒険者試験で何があったのかめっちゃ気になるけど……なんかトラウマっぽいから聞かない方がいいかな。
荒ぶるレイヴェルのことを落ち着けながら歩くことしばらく、オレ達の前に巨大な建物が姿を現した。
他の建物がだいたい二階建てとか高くても宿の三階建てくらいなのに対して、この冒険者ギルドは軽く五階建てくらいはありそうだ。
オレが昔に見た時よりもずっと大きくなってる。
「ここで合ってるよね」
「あぁ。間違いないぞ。どうしたんだ?」
「いやだってさ。あんまりにも大きいから。なんでこんなに大きいの?」
「中に色々と入ってるからな。鍛冶屋とか防具屋、道具屋。冒険者に必要な店は一通りあるって感じだ」
「へぇ、そうなんだ。それじゃあこの街に鍛冶屋とかないの?」
「いや、あるよ。いくつもな。ギルドにあるのはあくまで初心者用って感じだからな。それ以上の武器とか防具が欲しいならオーダーメイドで作ってもらうしかないから、そこからは職人との相性もとかもある」
「なるほどねー。ま、レイヴェルには関係ない話だよね」
「なんでだよ」
「だってレイヴェルには私がいるから」
「いや、確かに剣は大丈夫かもしれないけど。防具はいるだろ」
「あー、そっか。その辺のことも改めて説明しないとね。ま、それはまた後でいいや。それより早く中に入ろ」
正直さっきからワクワクしてずっとうずうずしてる。
だって冒険者ギルドに入るのなんか久しぶりだし。
何よりここは冒険者の街。どんな冒険者がいるか楽しみでしょうがない。
「そんな楽しみにするようなもんでもないと思うけどな。期待しすぎてがっかりするなよ」
「大丈夫だってば」
テンションが上がっていたせいか、思った以上に力が入ってたみたいで勢いよく扉が開き、その音がギルドの中に響き渡る。
依頼の掲示板の前に居た人。受付で手続きをしていた人。仲間を探していた人や、机を囲んで作戦会議をしてた人。色んな人達の視線が一瞬こちらを向く。
うわぁ、すっげぇ視線の圧力。でも今のオレはそのくらいじゃビビらない。だってオレは最強の魔剣。この場にいる誰よりも強い力を持ってるんだからな。
レイヴェルと契約してなかった時のオレはただの人だけど、契約者を得たオレはまさに水を得た魚だ。
誰にも負ける気がしない。
……一瞬先輩とかあのダーヴとかいう魔剣が頭をよぎったけど、そこは気にしない方向でいこう。
「それでまずは受付に行けばいいの?」
「あぁ。今日が休みじゃなかったらいると思うんだけど……あ、いたいた」
キョロキョロと誰かを探すレイヴェル。
見つけたって言って歩きだした先にいたのはそれは大層な美人な受付嬢さんだった。
受付嬢って見た目で選ばれることも多いから美人が多いって昔聞いたけど、本当なんだなぁ。あの人はその中でもかなりのレベルだと思うけど。
余談だけど、ギルドの受付はほとんど女性だ。なんでも昔ギルドができたばかりの頃、男にも受付を任せてたら喧嘩が絶えなかったとかで受付は女性っていう習慣ができたらしい。
ギルドの職員として男の人はいっぱいいるけど、受付に立つのはほとんど女性だと言ってもいい。それはそれで問題も多いと思うけどね。
「ロミナさん」
書類の整理をしていた女性……ロミナさんっていうのか。そのロミナさんとやらがレイヴェルに声を掛けられて顔を上げる。
そしてレイヴェルのことを見るやいなや嬉しそうな笑顔を浮かべて近づいてきた。
見た目的に人族。そんで、レイヴェルよりちょっと年上くらいかな。
「レイヴェル君、帰って来てたんだね」
「はい。さっきここについたばっかりですけど」
「そうなんだ。王都に行くって言うから心配してたけど、無事に帰ってこれたみたいで良かった。それでえっと……彼女は?」
「あぁ、こいつは——」
「初めまして。クロエ・ハルカゼって言います。私はここにいるレイヴェルの相棒です」
相棒、という部分を強調して告げる。
この人がレイヴェルとどんな関係かは知らないけど、今の感じで仲が良いのはなんとなくわかった。
だからまずはオレがレイヴェル相棒なんだってことを理解してもらわないといけないんだ。
そんな思いを込めてオレは言った。
「どうぞよろしくお願いします」
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