第18話 vsディエド&ダーヴ
飛び掛かって来た男の攻撃をレイヴェルが躱す。
っていうかなんなんだよこいつ。いきなり襲いかかってきやがって。頭おかしいんじゃねーのか!
頭おかしくない魔剣使いなんて先輩達くらいしか知らないけどさ!
『いきなり襲いかかってきてなんなの!』
「なんなの、だと? 魔剣使い同士が出会ったら戦うに決まってんだろ。んな当たり前のこと聞いてきてんじゃねぇよ!!」
「くっ!」
鍔迫り合いになり、弾き飛ばされるレイヴェル。
どんな馬鹿力なのさこれ。私の力でレイヴェルの筋力も相当引き上げられてるのに、それでも力負けするなんて。
『ダメだよレイヴェル、あの人話が通じない!』
「そうみたいだな。最悪だよ、全く。でも逃げれそうにもない」
レイヴェルの言う通りだ。目の前の男の目的はオレ達だ。そう易々と逃がしてはくれないだろう。
あの魔剣……えぇと、ダーヴって呼ばれてたっけ。あの魔剣もなんか嫌な感じだったし。
あのオレ達のことを下に見た感じ、すっごく腹立ったし!
『こうなったら倒すしかないよレイヴェル』
「勝つったって、勝算あるのか? 正直かなり怪しいと思ってるんだけど」
『そこはレイヴェル、あなたの相棒を信じてよ』
「相棒?」
『そう。魔剣と契約者は一心同体。死が私達を別つその瞬間まで共にあり続ける。だから、私はあなたの相棒なの』
「なるほどな。なら、相棒のことは信じてやらないとな」
『あなたの相棒が、世界最強の魔剣だってことを証明してあげる!』
先輩が言ってた。オレの中に秘められてる力はかなり大きいって。なんか色々とよくわかんないことも言われた気がするけど……とにかく、オレは強い魔剣ってことだ!
世界最強ってのはちょっと盛り過ぎたかもしれないけど……ま、まぁそれくらいの力はあるって信じてる! だってオレだし!
「やっとやる気になったかぁ? いいぜぇ楽しませてくれんならいくらでも待ってやるよ」
『そーそー。せっかく見つけた魔剣使いだもん。やる気になってくれないと面白くないよねぇ、ふひひっ』
『そうやって調子に乗ってられるのも今のうちなんだから。レイヴェル、魔力借りるよ!』
契約した今、レイヴェルとオレの間にはパスが通っている。つまり好きなだけレイヴェルの持つ魔力を使えるってことだ。
オレ自身は魔力を持たない。だから契約者の魔力をもらう必要があるんだけどさ。
なんていうかこの魔力を吸い上げる感覚、ムズムズするっていうか。くすぐったいっていうか。なんとか早く慣れないと。
レイヴェルの魔力を自分の中で循環して、レイヴェルへと返す。
『受け取ってレイヴェル!』
「っ、力が……」
オレの力を混ぜた魔力でレイヴェルの身体能力を底上げする。
それを感じ取ったのか、男がニヤリと笑って飛び掛かって来る。
速いけど、今のレイヴェルなら受けきれるはず!
「ふっ!」
「くははははっ!! いいじゃねぇかお前ら! もっと上げてこうぜぇ!」
男がさらに速度を上げる。レイヴェルもなんとか食らいついてるけど。
この男、薄々感じてたけど強い。ふざけた態度はしてるけど、実力は本物ってわけか。
しかも何が嫌って、まだダーヴの方が動いてないってことだ。ダーヴが男を強化したりしてるわけじゃない。
つまり、あの男は素でオレが強化したレイヴェルと渡り合ってるってことだ。
『きひひ、ねぇ魔剣さん。もっと強化しないとぉ。あなたの契約者死んじゃうよぉ? ほらほら、もっと力を見せてくれないとぉ』
『うっさい!』
そんなこと言われなくてもわかってる。でも、レイヴェルはまだ今の速さにも慣れきってない。これ以上強化して速度と力を上げてもレイヴェルの処理が追い付かなくなるだけだ。
だとしたら使える手段は一つだけ。オレの能力を使うしかない。
まだ万全に扱える気はしないけど。
『レイヴェル、一瞬距離をとって!』
「っ、わかった!」
レイヴェルの魔力を吸い上げる。
オレの能力は単純明快だ。
『きひひ、来るよ』
「あぁ、そうだな」
『避けないの?』
「それじゃ面白くねぇだろ」
黒光がオレの体、というか剣身を包み込む。
オレの力は、オレの能力は——。
『お、りゃあああああああああっっ!!』
全てを消し去る、《破壊》の力。
「ぐぉおおおおっっ!」
破壊の光が男のことを包み込む。
避けなかった? どうして?
「くは、くはははははっっ!! すげぇ、すげぇじゃねぇかおい! とんでもねぇ力だなぁおい!!」
全身血だらけのボロボロになりながら、それでも男は笑っていた。
「最高だなお前。それがてめぇの力か」
『うそ、耐え切られた?』
オーガに向けて放った時と比べて手加減したといえば手加減した。あんな破壊を二度もするわけにはいかなかったし、殺してしまうかもしれないと思ったから。
それでもあんな風に直撃して立ってられるほど生温い威力はしてないはずだ。
いや、違う。傷が……急速に治ってる?
『ふひ、ふひひ。こんなに大きな怪我を負わされたのは久しぶりだねぇ。やっぱり魔剣ってすごいなぁ。楽しいねぇディエド』
「あぁ最高だ。これだから戦いはやめらんねぇ。今度はこっちの力を見せてやるよぉ!!」
男——ディエドって名前だったのか。ディエドが身を低くし、獣のような姿勢で地を蹴って近づいて来る。
破壊の力を何度も飛ばすけど、全部紙一重で避けられ続ける。
「そんな大振り、当たんねぇんだよぉ!」
「くそ」
ディエドの連撃をレイヴェルもまた紙一重で躱し続ける。
でも、なんかおかしい。わざとギリギリで避けれるように攻撃してるみたいな。
いや、違う。これ、もしかして!
『レイヴェル、止まって!』
「っ!」
オレの声でレイヴェルが止まる。
一見すれば何もない空間。でもオレには見えてる。空中に走る無数の剣閃が。
ディエドの振るった剣の軌跡がそのまま全てレイヴェルの周囲に残り続けているんだ。
たぶんそれがあの魔剣の能力!
『あはぁ。気付いちゃった? 惜しいなぁ。もう少しで綺麗にバラバラになれたのに』
「でも気付いたところでもう遅ぇ。てめぇらはもう動けねぇ」
『きひひ、そうそう。動いたらその瞬間、スパッてなっちゃうよぉ』
勝利を確信したのかディエドはニタニタ笑いながら近づいて来る。
「おいクロエ、どうすんだ」
『大丈夫。私にちゃんと考えがあるから。ちょっと荒業になるけど……レイヴェルはそのまま動かないで』
「わかった。このままじゃどうしようもないしな。お前のこと信じるよ」
『ありがとうレイヴェル』
チャンスは一瞬、失敗はできない。ギリギリまでディエドを引き付ける。
一歩、二歩とディエドが近づいて来る。後……少し。
タイミングを計って……今だ!
『破壊の光!』
レイヴェルから借り受けた魔力を全力で解放する。
「っ! なんだと!」
『レイヴェル、今だよ!』
レイヴェルの周囲に残り続けていた剣撃を全て破壊する。
それと同時に光で目くらましも。
今なら届く!
「うぉおおおおおおおおっっ!!」
「くそがぁっ!! ぐぁあああああっっ!!」
レイヴェルが踏み込み、ディエドの体を深く切り裂く。
「はぁ、はぁ……やったか」
『今のはさすがに致命傷のはずだけど』
できれば殺したくなかったけど、そんなこと言ってられるような状況じゃなかった。
手加減したらこっちが殺されることになったわけだし。
でも、人を斬るのは気持ちいいもんじゃないなぁ。
「とにかく、終わったならここから離れて——」
『まだ終わってないよぉ』
「『っ!?』」
『こんなので終わりだと思ったぁ? 甘い甘い。ねぇディエド』
「……っ、あぁくそいてぇな。油断した」
『くひひ、ディエドださぁい』
「うるせぇ、黙ってろ」
ゆっくりと体を起こすディエド。さっきと同じように、傷が急速に治っていく。
「何勘違いしてるか知らねぇけどよぉ。俺は魔剣使いだぞ。あの程度の傷で死ぬわけねぇだろうが」
そして起き上がったディエドの体からは、完全に傷が消えていた。
今ので死なないとか、嘘でしょ流石に。
魔剣使いだからとかそんな理由で説明できることじゃない。明らかに異常だ。
「それじゃあ第二ラウンドを始めようぜぇ」
ここからまた戦うのはまずい。
もうさっきみたいな不意打ちはできないし。
それこそ周囲一帯を消し去るくらいの力を解放しないと倒せないじゃないかあいつ。
魔力を何度も吸い上げてるせいでレイヴェルの体力も結構消耗してるし。
そもそも契約の時にレイヴェルの魔力は大半使ったから、これ以上魔力を吸い上げたらレイヴェルが倒れる。
頭の中で色んな作戦を考える。でもどれもダメだ。
と、思っていたら。不意にディエドが構えを解いた。
「って言いてぇところだがよぉ。今日はここまでだ」
『……え?』
「どういうつもりだよ」
『うーん、あなた達。契約したばっかりでしょ』
『だったら何よ』
『つまんない』
『はぁ!?』
『ダーちゃんとディエドはね、楽しい戦いがしたいの。弱い者いじめも好きだけどぉ、強者との戦いはもっと好き』
「つーわけだ。どうせお前らまだ『鎧化』もできねぇだろ。そんなんじゃ話にならねぇ。だからよ、今回は見逃してやる。魔獣で慌てふためく馬鹿どもを見るのもそれなりに面白かったしなぁ」
『あれもあなた達がやったの!』
「ん。あぁそうだぜ。魔剣を……お前を見つけるためになぁ」
『私を?』
「王都に魔剣がある。そんな情報を手に入れてなぁ。半信半疑だったが……当たりだった。お前らがいたからなぁ」
『私を見つけるためだけに……こんなことを?』
「だからそうだって言ってんだろ。次に会う時を楽しみにしてるぜ。そん時はまた楽しく殺し合おうぜぇ」
『その時のためにも、いーっぱい強くなっててねぇ。きひひっ』
一陣の風が吹き、土埃が舞い上がる。
巻き上がった土埃が二人の姿を隠し、晴れた頃には……ディエドとダーヴの姿は消えていた。
「見逃された……な」
『……うん』
「でも生き残ることはできたわけだ。お前のおかげだな、クロエ」
『レイヴェルがいなかったらできなかったことだよ』
「じゃあ二人の力ってことだ」
『ふふ、そうだね。なんか変なのに目はつけられちゃったけど。今くらいは無事に生き残れたことを喜んでもいいよね』
「……あぁ、そうだな」
『帰ろう、レイヴェル。私疲れちゃった』
「バカ言うな、俺の方が疲れてるっての」
『えー、絶対私だって!』
「俺だ!」
『私!』
こうしてオレとレイヴェルの初めての戦いは幕を下ろした。
完全な勝利を得たわけじゃないけど、でも力を合わせて生き残ることはできた。
そしてこれが、オレとレイヴェルの長い長い物語の始まりだった。
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