第19話 その後の顛末
ディエド達との戦いの後、オレとレイヴェルは大通りへと向かった。
オレ達が戦ってる間に、あらかたの魔物は片付けてしまっていたらしく、もう事態が鎮静化し始めているところだった。
後は隠れてる魔物がいないか探すだけだから、安心して大丈夫ってことらしい。
それより大変だったのはロロちゃんだ。オレを見つけたロロちゃんがもう泣いて泣いて。しがみついて離れてくれなかった。
そんなロロちゃんをなんとか宥めて、母親の元に連れていった時も大変だったんだけど……まぁその話は今は置いてこう。
そんなことがあってから数時間、安全が確認された後に中断されてた祭りも再開されてた。
いや、あんな大事があった後にすぐ再開とかあり得ないだろって思ったんだけど、警備の数を増やしたりとかなんだかんだと急いで対策をとっての再開らしい。
それでもオレからしたら怖いから嫌だけど……すでに賑わいを取り戻してるあたりこの国の人って思った以上に図太いのかもしれない。
まぁさすがに完全に元通りの再開ではないみたいだけど。闘技場で予定されてたモンスターフェスティバルとかは中止になったらしい。そりゃそうだって話だ。
そんで、オレが今どうなってるかと言えば……。
「お前達が今回の事件の首謀者に会ったってのは本当か」
王都にあるギルド。そのギルド長のいる部屋にいた。隣にはレイヴェルもいる。
えぇ、なんでぇ。なんでこんなことになってんだよ。普通に夜ご飯食べてるくらいの時間なのにさぁ。
なんで厳ついおっさんに睨まれながら詰問されなきゃいけないんだよ。
えっと、確かロドジィとかいう名前だったよなこの人。
「はい、間違いありません」
「えっと、はい。間違いないです」
「何度も聞かれたと思うが、もう一度そいつらと会った時の状況を教えてくれ」
「はい。この子……クロエが襲われてる現場に俺が駆けつけて。その魔物を討伐したあとに現れました」
おぉ、レイヴェルが敬語だ。こいつこういう喋り方もできるんだな。
「間違いないのか?」
「え、あ、は、はい!」
「見た目と年齢は? どれくらいの奴だ」
「年齢は……俺と同じくらいだと思います。身長も俺と同じくらいで……銀髪で紅目でした。そして……魔剣使いを名乗ってました。隣には小さな女の子がいて、剣に変身する所をみたので間違いないと思います」
「……魔剣少女か。間違いなさそうだな。そっちの娘は。それ以外に何か知ってることはないのか?」
「知ってること……あ、名前……名前言ってました」
「名前? なんて名前だった」
「えっと、男の方がディエドって呼ばれてて。魔剣の方がダーヴって呼ばれてました」
「偽名の可能性もあるが……こちらでも調べておこう。しかしなぜお前達が見逃されたのかが気になるな。何か思い当たる節は?」
「っ!?」
来た! 絶対この質問来ると思ってたけどさ。だって普通に考えて目撃者であるオレ達を生かす理由が無いし。
生かされた事情を説明するためにはオレが魔剣だってことを説明しなくちゃいけない。オレとしては隠しておきたいんだけど……。
魔剣だってバレても面倒なだけだし。でもそうなるとどう説明したらいいか。
オレがうんうんと唸っていると、隣にいたレイヴェルが口を開いた。
「弱者には興味が無いと、そう言っていました」
「ほう」
「クロエは言わずもがな、俺もまだ新米の冒険者。あの男は戦うに相応しくない……と思ったのかもしれません」
「なるほどな。魔剣使いは変なこだわりを持ってる奴も多い。そいつもそういうタイプだったのかもしれない」
あははー。魔剣使いってやっぱりそう思われてるんだ。
まぁ変人多いのも事実なんだけど。
「……お前達の話はわかった。闘技場の従業員が数名行方不明になっていることも含めて調べる必要がありそうだな」
「従業員が行方不明ですか?」
「あぁ。祭りの前に臨時で雇った従業員のうちの数名らしいんだが、もしかしたらその魔剣使いとグルという可能性もある。誰かの手引きがなければ魔物を闘技場から逃がすなんてことできるはずがないからな。まぁ、その件についてはギルドと王都の軍隊で調べるから心配するな」
「はぁ、そうですか」
「ご苦労だった。もう行ってくれて構わないぞ」
「はい、失礼します。行くぞクロエ」
「う、うん。えっと、失礼します」
上手く誤魔化せた……のかなぁ?
なんか疑いの目を向けられてる気がするんだけど……まぁいいか。気にしてもしょうがないし。
とにかくこの堅苦しい雰囲気から解放されるならそれでいいや。
そそくさとギルドを出たオレは、大きなため息を吐いた。
「はぁ、なんか疲れちゃった。あの人ホントにギルド長なの? どっちかって言うと犯罪者って感じだったけど」
「おいクロエ、滅多なこと言うなよ。確かに強面だったけど、王都のギルド長なんてすごい人なんだぞ。今はもう現役を引退したみたいだけど、現役の時は【鬼哭天骸】って二つ名がついてたくらいなんだからな」
「それはすごいのかもしれないけど。まぁいっか。解放されたわけだし。あー! ホントに大変な一日だった!」
「確かにな。今日の朝はこんなことになるなんて思ってもみなかったよ」
「私もだよ。ホントならもっとちゃんと雰囲気作ってからレイヴェルに私のこと伝えるつもりだったのに」
「ははっ、あんときはお互い必死だったもんなぁ。まだ信じ切れてないくらいだけど、お前……ホントに魔剣なんだもんなぁ」
「そうだよ。っていうかなんでまだ信じ切れてないの。あれだけ力見せたのに!」
「いやそうなんだけどな。こうしてみると普通の人だし……ホントに魔剣なんだよな?」
「むぅ、なんならまた剣に変身してあげようか? そしたら信じる?」
「お、おい! ここ変身しようとするなよ。人目も多いのに」
「あ、そっか。それもそうだね。ここでバレたらさっき隠した意味なくなるし」
「ふぅ……そんなことしなくてもちゃんと信じるって。もう少し気持ちの整理だけさせてくれって話だ」
「まぁそうだよね。わかった」
友人だと思ってた人が魔剣でしたーなんて、そりゃ普通は素直に受け入れられないか。あの時は状況が状況だったわけだし。
「それよりも……これからどうするんだよ」
「え、これから? うーん、今日はもう疲れちゃったから家でご飯食べて寝ようと思ってるけど」
「いや、そうじゃない! これからってのは、この後とかじゃないぞ」
あはは、そりゃそうだよね。まぁわかってて誤魔化したんだけど。
これからってそういうことだよね。
うん……どうするかなんて決まってるんだけど。
「わかってるよ。どうするかっていうのはね。もう決まってるから」
「クロエ……」
「ちょっとレイヴェル、変な顔しないでよ。怖い顔が面白いことになってるよ」
「怖い顔は余計だ!」
「あはは! 冗談冗談。それじゃ今日はもう帰ろう。明日までいるんだよね」
「あぁ。明日の夕方に王都を発つつもりだ」
「それじゃあその前にお店に来てくれる?」
「……わかった」
「決まり! 約束だからね。絶対来てよ」
「わかってるって」
うん。どうするかは決まってる。迷いはない。
オレはレイヴェルと別れたあと、そのままの家……ではなく、『黒剣亭』へと向かった。
サイジさんと話をするために。
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