第275話 レジスタンスの切り札
クロエとレイヴェルが入りこんだレジスタンスの拠点。そこは二人が想像していたよりもずっと広い場所だった。そして何よりも思った以上に設備が充実していた。
「すごいなこれ。ホントに森の中かここ」
その景色を見て思わず呟くレイヴェル。そこにあった機器は最新鋭。レイヴェルですら見たことのない機械まである。もちろん武器も同様だ。
エルフと言えば魔法や弓。そうした認識があったレイヴェルだったが、このレジスタンスの拠点にあったのは銃火器。それもかなり大量にあった。
それだけではない。一際目を引いたのは五体の巨大なゴーレムだった。
「なんだよあれ。いくらなんでもデカすぎるだろ……あんなの初めて見たぞ」
五メートルは優に超えるであろう巨躯。今はまだ整備しているのか動いている個体はいないが、もし動き出せば歩くだけでも脅威なのはその威容を見るだけでわかった。
「レジスタンスは数の不利を武器やゴーレムで埋めようとしてるってわけか」
数的不利を埋めるための重火器にゴーレム。そしてそれに加えて魔剣使いであるワンダーランドとクランの存在。これだけの備えがあれば軍と正面からやり合える。そう考えても不思議ではないだろう。
「ここまでの準備……いったいいつから進めてたんだ」
「おいそこのお前」
「っ!」
レイヴェルが拠点内を見回りながらクレイムを探していると、不意に後ろから呼び止められた。動揺を顔に出さないように気をつけながら振り返ると、そこに居たのは不審そうな顔でレイヴェルのことを見るエルフが居た。
「お前、初めて見る顔だな。名前は?」
「……レイヴェルだ」
殊更腕につけた腕輪を強調するように手をひらひらと振る。だが正直それは賭けに近かった。この腕輪があったからこそ結界を超えてレジスタンスの拠点に入れはしたものの、それがそのまま仲間であることを指し示すとは限らない。
もしこの腕輪以外の要素、合言葉などが必要だった場合それを知らないレイヴェルは完全に詰むことになる。もしここで敵認定されてしまったら、どうなるか想像に難くなかった。
緊張に思わず唾を飲む。そして――。
「新人か。確かに人員は少しでも多い方がいいからな。ただ無用に出歩かないことだ。作戦の決行は明日。英気を養うように言われているだろう」
「そ、そうだな。悪い。でもちょっと気分が高揚してなかなか寝付けなかったんだ」
「休める時に休めるのが一流の戦士というものだ。とは言いつつ、その気持ちはわからないでもない。明日、この国の歴史がようやく変わるのだからな。あの切り札もようやく準備が完了したのだから」
言葉尻に熱を籠もらせながらゴーレムを見つめるエルフの兵士。
切り札。確かにそう言い切れるだけの迫力がゴーレムにはあった。
「あぁ、俺もそう思うよ」
「明日は決戦の日だ。さわりがないように早く休めよ」
「わかった」
去って行くエルフを見送った後、レイヴェルはホッと息を吐く。
だがすぐに表情を改めた。先ほどのエルフが言っていた言葉を思い出したからだ。
「明日……明日だって? まさかこっちも明日打って出るつもりだったっていうのか? 嘘だろ。クレイムは近いうちにとしか……いや、違うか。部外者の俺に明確にいつなんていうわけがない。明日だったとしても何もおかしいことはないのか」
『まさかどっちも明日仕掛けるつもりだったなんてね。というかあの二人、それを知ってたから私達にこの場所を教えたのかも。何をしても無駄だぞって言うために』
「だとしたらふざけるなって話だけどな。だがどっちにしたって俺達のすることは変わらない。早くクレイムを見つけないと。クロエ、見つけられるか?」
『ちょっと待って。ここまで来たら見つけられると思うから……あっち。あのゴーレムの近くにあるテント。あそこにクレイムの気配がある』
「あそこか。ここは堂々と行くべきか。下手にコソコソしてる方が見つかった時に勘ぐられそうだからな」
『だね』
あくまで堂々と。レジスタンスの一員であることを装いながらテントへと近づく。
道中、何人かのエルフとすれ違ったが疑われることなくテントへと近づくことができた。
「何人かいるのか。声をかけるなら一人の時が良いだろうし、少し隠れて様子を見るか。もしかしたら何か情報が聞けるかもしれない」
周囲に人影が無いことを確認し、レイヴェルはクロエの力も借りて気配を消す。
そしてそのままテントの近くの物陰へと隠れ様子を確認するのだった。
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