第153話 仲良くなってる?

「結局、朝まで襲撃はなかったわけだよね」


 朝食後、未だにリオさんの結界の中にある『月天宝』を見ながら呟く。


「あぁそうなるね。一応警戒して村の周辺まで見回りに行ってみたけど、それらしい存在は感じられなかったからねぇ。もっとも、こっちの警戒範囲を超えた先にいたかもしれないけど、さすがにそこまでは見に行ってないよ」

「俺達もそうだな。ざっと見た感じ、怪しい人たちは見つからなかった。まぁ俺の索敵技術ではって話だけど」

「その言葉は一緒に見回りした僕への侮辱か? そもそも君の力なんかあてにしていない。僕自身も見回ったうえで問題はないと判断したんだ」

「あぁ、はいはい。悪かったよ」


 最早相手をするのもめんどくさいとばかりにヒラヒラと手を振るレイヴェル。

 なんていうか……そう。見回りから戻ってきた時当たりからコルヴァへの返しに遠慮が無くなってるというか。

 友情って感じではないけど……なんか距離は縮まってる感があるというか。

 一体あの二人の間に何があったというのだろうか。

 相棒としてはそれが気になってしょうがないのですが。ですが!


「っ!? な、なんだ、今悪寒が……」

「なに言ってるんだ?」

「ふ、ふん! なんでもない。別にお前に心配されても嬉しくないしな」

「別に心配して言ったわけじゃないんだけどな」


 ツンデレか? ツンデレなのか貴様は。今までは無視していいかと思ってたけど、そういうことなら話は変わるぞ。一回ちゃんと釘刺しておかないと。


「どうしたんですかクロエさん、ずいぶん怖い顔をしてますが」

「え? べ、別にそんなことはないと思うんだけど……そんな顔してた?」

「えぇ。とても穏やかな視線ではありませんでしたね」

「うっ……」


 してたのか? オレそんな顔してたのか?

 してない……と思いたいけど、フェティがそういうならしてたのかもしれない。

 気を付けないと。相棒だからって束縛のし過ぎはよくない。というかそもそもコルヴァは男だし、オレはいったい何の心配をしてるんだ。

 いらぬ方向へズレていくオレの思考。しかしそんなオレのことなど意にも介さずに他の人たちの話は進んでいく。


「見回りに行っても成果が得られなかった。だから引き下がったとは……考えられないしねぇ」

「あはは、それだったらリオ達も楽なんだけどねぇ」

「あり得ない」

「だろうね。つまり、これを持ってく最中に襲われる可能性は高いってわけだ」


 ファーラはそう言ってため息を吐く。でもそれは、この場にいる全員がわかっていることだ。少なくとも、オレはそれを覚悟したうえでこの場にいる。

 相手に魔剣使いがいることはわかってるんだ。だったら魔剣使いはオレとレイヴェルが相手にすることになる。

 あと相手にできるとしたらライアくらいか? さすがにファーラとヴァルガでも魔剣使いの相手は無理だ。逃げるくらいはできるかもしれないけど。

 コルヴァ達は未知数だけど。さすがに魔剣使いの相手はできないはず。


「でも、そういえばどれが本物かはわからないんだよね?」


 結界の中にある『月天宝』は三つ。結局この場に至ってもどれが本物であるからはわかってない。ここまで来たなら襲撃は確実なわけだし、わかってる方がいいと思うんだけど。


「そうだね。知ってるのは獣王様だけさ」

「うーん、よく見たらわかったりしない?」

「無理だな」


 そんなオレの言葉をぶった切ったのはライアだった。ずっと目をつむったまま突っ立てたから、話に参加する気はないのかと思ってたけど、そういうわけじゃなかったらしい。


「この三つの宝玉。どれも恐ろしく精巧にできている。放つ輝きも、内包する魔力も、何もかもが寸分たがわず同じだ」

「でもそれじゃあどうやって本物は見分けて渡せばいいの?」


 精霊の森の巫女。彼女達に『月天宝』を渡すことができれば依頼完了だ。でも見分けがつかない状態じゃ本物を渡すことはできない。全部渡すってわけにはいかないだろうし。


「あぁ、なんでも巫女様なら見分けれるらしいよ。だからとりあえずアタシらはこれを精霊の森まで運べばいいってわけさ。まぁ一つ守るのも三つ守るのもかわりゃしないだろうさ」


 知らなかった。あいつらそんなことまでできるのか。でも確かにできても不思議じゃないか。あいつら自体がちょっと特殊な存在だし。


「それじゃあまた昨日までみたいに一組一つで持って行く?」

「そうだね。それでいいんじゃないかい」

 

 今日も昨日までと同じだ。三つのチームに分かれて、それぞれで精霊の森を目指す。

 相手の戦力を分散させる目的でもって。ただ、問題はコルヴァ達の方に魔剣使いが行った場合だ。

 でも……いや、うん。大丈夫だと信じよう。一応カムイが選んだ人たちなわけだし。


「応援要請にはすぐに応えれるように、ある程度ルートは絞ろうか」

「僕達の方は気にしなくて大丈夫なんだけどねぇ。ま、何かあったら僕達が君達のことを助けてあげるさ」

「どうでもいい。ただ依頼をこなすだけだ」

「やれやれ、ここまで来ても協調性がないねぇ」


 確かに……。

 相手の戦力を分散させるためにとか言ってチームを分けたけど、この分だと一緒に行ってた方がより大きな問題が起きてたかもしれない。

 ま、自信があるのは結構なことだ。後は相手がどう出るかが問題だ。

 

「とにかく、ここがアタシらにとって最後にして最大の難関になるだろうさ。それでもやって見せようじゃないか!」

「うんっ!」


 ファーラのその言葉に、オレは決意を込めて強く頷いた。

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