第152話 決戦の朝

「……寝れなかった」


 窓の外から日の光が差し込むのを見てベッドから体を起こす。見張りの後、部屋で休むようにとは言われたけど、どうにもそんな気分にはなれなくて……横になりはしたけど、寝ることはできなかった。

 でも大丈夫。今日の行動に支障はない。別にオレ自身は寝なくてもレイヴェルから魔力さえもらえれば動ける。食事と一緒だ。

 それでも毎日寝るのはそっちの方が回復が早いし、なによりオレ自身が寝るのが好きだからってのもある。あくまで魔力による回復は緊急手段にしときたい。


「とりあえず起きるかぁ」

 

 この時間、最後の見張りに行ってるのはファーラだ。向かいのベッドではフェティがスヤスヤ眠ってる。朝は迎えたけど、起きるには早い時間だし。まだもう少し寝かせといた方がいいか。今日は色々と忙しくなりそうだし。

 見張りの効果もあってなのか、今の時間まで襲撃は無かった。でもそれはある意味想定通りだ。オレの想像してる通りなら、昨日襲撃を仕掛けてくる意味はない。


「……でもこの調子なら確実にあるかな。たぶん、精霊の森に向かってる最中に。備えはしとかないと」


 精霊の森へはこの村から歩いて二時間程度。馬車は通れないような道だし、たぶん馬車だと迷う……迷わされると思う。たちが悪いというか……まぁいいか。あれは昔からだし、今さら文句言ってもしょうがない。

 たぶん向こうもそんな精霊の森の性質を知っててここを利用しようとしてるんだろうし。

 音を立てないようにベッドから降り、極力音を立てないように服を着替える。


「ん……クロエ……さん?」

「あ、ごめん。やっぱり起こしちゃった?」


 音を立てないようにはしてたつもりだけど、やっぱり気付くか。獣人だし、そのあたりの気配察知が優れてるのは当たり前だけど。


「もう……朝ですか?」

「朝だけど、まだ寝てられるよ。もう少し寝てたら?」

「いえ……起きます」


 ファーラの前にヴァルガと一緒に見張りに行ってたからまだそんなに寝れてないと思うんだけどな。まぁ別に無理に寝させる必要もないか。


「んむぅ……」


 ね、寝ぼけてる……正直めちゃくちゃ可愛い。オレがもし男だったら理性を保ててる自身がないほどに。

 ってダメだダメだ。さすがに今それをしたら確実にフェティに嫌われる。そういうのはちゃんと状況を見てやらないと。あぁでもこんな機会滅多にないかもしれないし。

 ぐむむむむむ……。


「ん……どうしたんですか?」

「な、なんでもないよ。ただちょっと理性と戦ってるだけだから」

「なんだかひどく不安になるのですけど」


 あ、葛藤してる間に完全に起きちゃったか。まぁしょうがない。


「いよいよですね」

「うん。そうだね。今日がいよいよ正念場だ」

「……大丈夫ですか?」

「問題ないよ。別に悩んだところでどうにもなるわけでもないし。私はできることをやるだけ。まぁできることなんて戦うことくらいだけど。相手が魔剣使いだって言うなら、遠慮する必要もないだろうしね」

「そうですね。情報収集ならともかく、戦闘となると私の役に立てる部分は多くなさそうですが」

「え~、ホントに?」

「どういうことですか?」


 どういうことも何も、あのロゼがそんな生温い鍛え方するとは思えないってことなんだけど……ま、いいか。フェティのやってることを考えたら、実力をさらけ出すわけにはいかないだろうし。

 ロゼが教えてるなら、魔剣使いからの身の守り方とかも知ってそうだ。だとしたら魔剣であるオレに教えるわけにはいかないってわけだ。

 信用されてないみたいで悲しいけど仕方ない。ロゼにとっては生命線なんだろうから。


「別に。それならそれでもいいんだけど。フェティのことは私とレイヴェルが守ってあげるから!」

「ありがとう……ございます?」

「なんで疑問形?」

「どことなく身の危険を感じたので」

「ひどいっ!」

「クロエさんの普段の行いのせいだと思いますが」


 それを言われると何も言い返せないのもまた酷い。事実は時として暴力になるということを知ってほしい。


「さてと、準備も終わったし、そろそろ行こっか。腹が減っては戦ができぬってね」

「なんですかそれ……というか、食事にはまだ早いんじゃないんですか?」

「早いって言っても早すぎるってほどじゃないし。大丈夫だと思うよ。ファーラも見張りが終わったらそのまま食堂で待機して朝食食べるって言ってたし。それに……」


 向かいの部屋のドアが開く音がする。


「レイヴェル達も起きたみたいだから」


 そして、オレはフェティと一緒に食堂へと向かった。

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